26話目 魔族との再戦の顛末 前編
「それでは、私の第12師団の昨日の顛末を話すわね。」
私の? いつから死神に懐かれたんだ第2軍団は。
聞くまでもないじゃないか、全滅したんだろ。
死神に懐かれた時点で壊滅するのが定石ですよっと。
でも言えないな。
と、横を見るとエリナと似非女神が訳知り顔で頷いた。
「ちょっとなぁ~に、皆な黙ってうなずき合って。私だけが仲間外れじゃない。
いやな感じね。
でも今日は許してあげるの♡。」
うぁぁぁぁ、また、♡だぞ。
もう、許してもらわなくていいので、帰らして。どこに?
「まぁいいわ。シュウたちがここで12魔将の師団と戦っていると同時期に第12師団の前方に魔族1個師団が現れたの。
これがシュウたちが昨日3回目に戦った魔族師団ね、きっと。
それからほどなく、別の探索部隊により右側面にも魔族の1個師団が展開しつつあるのが確認されたわ。
その時点で、第12師団は撤退することにしたわ。
これらのことは逐一風魔法術士によって、軍団本部に情報が伝えられたわ。
軍団本部の指示はできるだけ戦闘を避けつつゆっくりと後退し、第2軍団の最前線基地である第23基地からの援軍を待てとのことだったわ。
第23基地から第12師団までの距離は時間にして、通常12時間、急げば10時間。まだ道が全く整備されていないから、通常よりもかなりの時間を要するのね。
それに援軍の第2と22師団が戦闘準備を終えて第23基地の転移魔法陣の外に集合するまでは最低4時間必要だったわ。
よって、第12師団が8時間かけて真っ直ぐに撤退すれば、援軍の2個師団と合流し、1個師団の戦力的優位を持って反撃に出られるはずだったわ。
しかし、魔族領域を正面として12時と14時の方向に敵を確認しつつ撤退を始めて、30分。次の凶報が第12師団にもたらされたわ。」
「どんな凶報ですか。」
「それは左側面にもう一個の魔族師団が確認されたの。それとともに右側面の魔族師団から例の黒い霧が展開されたのが確認されたわ。」
「と言うとは、第12師団の前方と左側面には炎属性中心の魔族師団が、右側面には闇属性中心の魔族師団が存在していたことになりますね。
その辺はどう第12師団は捉えていたんでしょうか。」
「まぁ、シュウたちは実際に戦ったので前方と左側面が炎属性と言うことが分かったかもしれないけど、まだ戦う前の第12師団は右側面が闇属性中心としかその時点では認識できなかったそうよ。」
「第12師団の司令部は3方を囲まれた時点でパニックを起こしかけたわ。」
「まぁ、司令部がそれですから、所属する各部隊の様子はわかりますね。」
「そうなのよ。既に、軍として崩壊し掛けたみたいなの。
そこで、うふふふ、聞きたい♡?」
「えっ、何が。」
「だから、どうやってパニックを沈めたか♡、聞きたいのかって聞いているのよ。」
何となくわかった。♡が出た時点で。
おれは嫌な予感がしたので、そっと、隣のエリナと似非女神を覗き見た。
既に目が死んでいた。
あきらめたか、♡を聞かないで済ますことをあきらめたのか2人とも。
俺もあきらめた。
結構ですと言った瞬間に大鎌で薙ぎ払われそうなんだもん。
彼女らのように心を空にすれば耐えられるかも、多分大丈夫。
俺、自信を持って。明日へ続く道を必ず見つけるんだ。
「一応聞いてみたいな~ぁ、なんて思わなくもないです。」
「そんなに聞きたいね。
仕方がない子たちね。
皆には内緒よ。
♡の意味が分かる子たちだけにと・く・べ・つなんだからね。」
特別枠に入れられた自分が恨めしい。
普通が一番。
定食で松竹梅があれば迷わず竹にしますです、はい。
「それはね、たまたま来ていた第2軍団の事務総長♡がリアルタイムに状況を判断し、皆を本来の優秀な戦士に戻したためなの。
何て素敵なのかしら、私の事務総長♡。」
私のって、さらに♡付きとは、もう隠す気ないな♡の意味を。
「しつも~ん。どうやって、3方を敵師団に囲まれてパニックになった味方を冷静に導いたんですか。」
「ふふ、さすが元特攻隊長ね~ぇ、全体の士気を高める方法が気になるわけね。
いいでしょう、教えて進ぜましょう。」
「女神様、この茶番を早く脱出したくないんですか。調子に乗らせちゃいましたよ。
後から第2軍団の関係者に聞けば、いや、吐かせれば済む情報じゃないですか。」ボソ
「ごめ~ん、つい、突っ込みネタが欲しくて。」ボソ
「実はね、魔族の師団構成の傾向として、炎属性部隊と闇属性部隊に分かれていることが明らかなの。
人類軍は闇属性部隊は本当に苦手だけど、炎属性に対しては水属性で対抗できるし、さらに上位属性である氷属性を結構使える者がいるので優位に戦いを進めることができるわ。
第12師団を3方包囲している魔族師団は右側面は闇魔法属性主体の師団だけど、事務総長♡は正面及び左側面の2個師団は炎属性と予測したの。
だって、黒い霧を出す気配がないんですもんだって。
う~ん、素敵、かっこいいわよ♡。
よって、左側面の魔族師団に対し、氷属性魔法フィールドでけん制しつつ左後方に撤退することが比較的容易と考えられたわけなの。
また、殿を務める部隊もこれを追ってくると思われる正面の魔族師団が炎属性なので、比較的余裕をもってかわしつつ撤退できると予測したわけね第2軍団の事務総長♡は。
なんて知的で冷静な方なのかしら♡。
「状況分析の的確さはわかりました。
実際、左側面と正面の師団は戦ってみた実感として、両方とも炎属性師団が中心で闇魔族もいましたが少数でした。
しかし、それを的確に予測できたとして、そのことを全師団員に伝え、もう一度師団としての士気を盛り上げることは可能なのでしょうか。」
「そこが彼♡の非凡なところよね。」
「どのような方法を取ったのでしょうか。」
「彼は事務総長よ。主任務には兵站も当然含まれるわね。
それを担当するのは戦闘部隊とは当然違う人間じゃない。
彼らを鍛えて、いざというときに自分の指示や情報を伝える要員としているの。
今回もその人員を使って、情報と指示を伝えたらしいわ。
兵站要員はなんだかんだ言っても戦闘部隊の胃袋を支えているだけあって、意外と顔が利くのよね。
私的な手紙や荷物なんかも届けてくれるしね。」
「しかし、戦闘情報担当の部隊は別に必ずいますよね。
そちらを使う方が情報の質から言っても信頼度は高いんじゃないんですか。」
「あの撤退場面ではその人員は何をしていたでしょうか。」
「おそらく、情報要員は敵の動きを探るため全員が出払っていたのではないかと思うよ。
それと撤退戦では兵站隊は通常まとまって退却に徹することになるだろうし。
重要な物資の荷物運びをしなければならないからね。
司令部と一緒かその前に撤退することになると思うので、第2軍団の事務総長としては使いやす手駒というわけさ。」
「駄目じゃない、カメちゃん。代わりに答えちゃ。
ちゃんとシュウに考えさせないと、ただのの魔力バカになっちゃうわよ。
ただでさえ空っぽのガス頭という評判が立っているのに。
昨日だって、戦闘が終了しても連絡もよこさないで。
その上、その領域では戦闘が終了していないのに無断で外泊よ。
信じられないでしょ。」
「確かにガス頭、スカ頭と言われても仕方ないかな。」
あっ、またあのうわさ話を蒸し返してきたな。早く75日たって、噂が消えてくんないかなぁ。
まてよ、このままだったらもっとむごいことを引き起こすということ?
あり得るなぁ、ちゃんと指揮についても勉強しなきゃ。
スカ頭(指揮官のこと)とか言われたらまずいよ。
「というわけで、混乱の極みにあった第12師団の司令部に成り代わって、彼♡が実質的に指揮を執ることになったようよ。
当然いえば当然の流れよね。自然の流れよね。
第12師団は7時の方向にゆっくりと撤退。
応援の第2、22師団と合流を目指したわ。
そして、8時間後に3師団がついに合流したの。
その時点では、シュウたちの話を繋ぎ合わせるとすでに正面と左側面の魔族師団は壊滅していたわけね。
そのことはシュウとエリナしか知らないわけだから、なんせ報告をしないんだからね。外泊にうつつを抜かして。
第2軍団の3個師団で魔族3個師団とどのように戦うか、協議が行われたわ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。