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21話目 命の火 消えゆく火と暖かく燃え続ける火

芦高さんが静かに氷属性フィールドを展開する。

雷属性フィールドのように派手な稲妻が走るわけではないので、敵に忍び寄るような感じだ。


水たまりでもあれば急速に凍ってそれがはじける音がすることも考えられるが、この辺りにはそのような凍って音の出るものは何もなかった。

日も傾き始め、秋の夕日になりかけて、氷属性フィールドがなくても徐々に周りの気温が下がっていた。


冷気が魔族に忍び寄る、秘かに。

魔族は炎属性フィールドを発動していたが、ほとんどは自分の周り3mぐらいの最低限の範囲であった。


この無警戒さからも俺たちが発見されていないことが伺い知れた。

そして、冷気は忍び寄り、遂に魔族の炎と激突した。


忍び寄るように冷気は進んだがその忍び寄る速度は尋常ではなかった。

あっと言う間もなく、魔族1個連隊が芦高さんの強力な氷属性フィールドに飲み込まれてしまった。


今までの静寂が嘘のように敵から叫び声が聞こえる。

1000m離れているせいか、叫んでいるのは明らかなのだが、何をと言うところまでは全く分からなかった。

だいたいの予想はつくが。


魔族の後方から赤い炎が燃え上がるのが分かった。

後方にいる部隊が炎属性フィールドに一気に魔力を追加したのだろう。


しかし、不意を突いた芦高さんの氷属性フィールド拡大は止まらない。

さらに魔力を追加し続ける芦高さんの氷属性フィールドの拡大の勢いは止まらない。


徐々に魔族の後方に見えた炎の勢いも弱まって来た。

苦し紛れのように今度は黒い霧が見えてきたが勢いがない。

闇魔族は芦高さんの氷属性フィールドの急速展開に対応できず、まともに強力な氷属性フィールドを食らって氷柱になったものと考えられた。


俺はアイスアローを前方の空間にそれこそ茜空が見えないほど多くを生成した。それも6段。

まずは一段目を魔族の部隊を目がけて斉射。続いて2段、3段目と斉射。


全てアイスアローを斉射した後の魔族のいた空間は白いアイスアローと赤の炎魔法がせめぎ合い、アイスアローが溶けて水蒸気化し、辺りは真っ白になった。


芦高さん、魔族の残存はいそう?

「なんか後方にすこし氷属性魔法を無効化している闇魔族がいる様なんだな。きゅび。」


それでは予定通り、サンダーアローを敵残存魔族に叩き込んでくれるか。

「わかったんだな。行くよ。きゅび。」


今度は放電、稲妻が走った。

サンダーアローの高密の一点攻撃となった。

一本の巨大な稲妻が走ったいるように見えた。


巨大稲妻が魔族に着弾した。

爆発音と何かがはじけ飛ぶような音。

そして次には稲妻が暴れまわるいつもの音。


数分間その音が続く。

そして、最後の稲妻の乱舞が終わり、静寂が訪れた。


いつものことだ。


魔族と命のやり取りをした後はいつもこの静寂に包まれる。

稲妻が好き勝手に暴れた後の静寂。そのギャップは命の差なのかもしれない。


多くの命のざわめきがあの爆音の後は静かになる。

命が消えたのだ。それが静寂となって現れる。


ふと、空を見上げる。

先ほどまでは秋の透き通る茜空だったのに、今は闇に取り込まれる前の薄暗い空に変わってきた。

命のざわめきが茜空とすれば、この薄暗さは命の薄い世界とも思える。


やがて闇に落ちるだろう。

闇に落ちるとは命の輝きが失われること。


そうだ、命の輝きを失ってはいけない。たとえそれが太陽に対するろうそくの火のごくわずかな明かりだとしても。


芦高さん、終わったようだね、この戦は。

いつものように生き延びた魔族を探してくれるかな。そのついでに緑の魔石も。


「わかったよ。

いくつかの命の火が揺らぎながらも何とか消えないようにもがいているんだな。

その命の火が消える前に僕のぐるぐる巻きで保護するんだな。きゅぴ。」


よろしく頼むよ。

エリナはさらに魔族の部隊がここによってこないか探ってくれるか。

"わかったわ。注意して見張っているわね。"


今日はこれ以上の戦は止めたいな。多くの命の火を俺の手で消してしまったし。

これからもいやというほど消さなければいけないだろうが、今日はもういいだろうな。

止めにしたいな。


この寂寥感。

宿敵の魔族に勝ったという高揚感よりも多くの命の火が消えてしまったことへの寂寥感の方がはるかに大きいな。


うん、今日はもうやめにしよう。

ここで、進軍は止めだ。旅団に帰ろう。

みんな待っているから。

命の火の燃え盛る旅団のみんながいる場所に帰ろう。


「ご主人様、緑の魔石を見つけたんだな。やはり12魔将の緑の魔石に比較すると小さいのだな。これで今日は3個も確保したんだな。

あとは生きている魔族も数体見つけたんだな。今回は5体。今くめぐる巻きを取るので例の空間に送ってほしいんだな。」


ありがとう。まずは例の空間に送っておくよ。今日は大忙しだな、ペット魔族さん。

それと良く緑の魔石わ見つけたな。えらいぞ。大事にしまっておいてくれるか。

「わかったよ。大事にしまっておくんだな。」


もし、可能なら社も探してほしいんだが。頼めるか?

暗くなってきたんでそろそろ移動が難しくなってきたし。

この近くに社があればすこしは野宿もましとなるわけさ。


そして、第12師団と対峙している魔族がもう1個師団あるはずだ。それがこちらに向かって進軍していくのを阻止したいからここで野宿しようと思う。


エリナ、魔族は見つかった?

"近辺には魔物もいないわ。

野宿、全然OKよ。シュウと一緒なら地獄でも楽しいわよ。"


まずは見張り番兼社探索を芦高さん、お願い。

「了解。ご主人様のために絶対見つけるんだな。」


エリナは何か簡単な夕飯を作ってほしいな。

ちょっとした調理器具と材料は芦高さんが背負っているし。


俺は野宿の準備をするよ。


茜空が薄く、そして、灰色になりなって来た。

思ったよりも日が落ちるのが速そうだ。

俺は燃やせる小枝などを拾い始めた。

火をおこそう。


火をおこしてしまえば料理の燃料になるものは芦高さんが背負ってくれている。

材料は牛の〇●を良く乾燥したものが原料だ。


ほんとは火属性魔法術士がいればいいのだが、第3小隊にないものをねだっても仕方がない。

もちろん良く加工してあるので、想像するようなあの匂いは全くしないよ。


エリナは鍋に水を張り、お湯を沸かして、乾燥した肉やら野菜を入れ、スープを作り始めた。

そこに調味料を入れただけの簡単なスープだ。量だけはたっぷりあった。

それに固焼きパン。

これで夕食は完成だ。


俺とエリナは芦高さんに見張り番を任せて、朝以来の食事をすることにした。


「こんな簡単なモノでもエリナが作るとおいしいね。」

「ありがとう。こんなものしか用意できなくてごめんね。

明日はシュウが好きなものを一杯作ってあげるからね。」


「それは楽しみだな。でも、この料理も本当においしいよ。

家族で食べる温かい料理はおいしいね。」


「芦高さんは別食だからなんか悪いわね。」

「そんなことはないんだな。ご主人様と奥様と一緒に居られて、そして、2人の役に立つことをすることが僕の役割で、楽しみなんだな。」


「ありがとう。芦高さん。」

「エリナはさっきからお礼ばっかり言っているけど、一番お礼を言いたいのは俺だな。

家族がいて、暖かい食べ物があって、暖かい言葉があって。

今日も無事に一緒に家族と生きていることがうれしいな。


今日は今までで一番命の火をこの手で消した日になってしまったよ。

生き残るためには仕方ないけど。なんかやりきれないものを感じていたんだ。

でも、2人から家族としての暖かいものをもらったら、生き抜いてよかったと心から思えたよ。


そして、生き抜くことの難しさを感じても、生きていることへ疲れと言うものはなんかなくなったよ。」


「旦那様には一杯楽しいことをしてほしいと思っているの。

楽しいことを私が一杯してあげるね。

そして、一日の最後は笑って眠りに付けるようにするのが妻の務め、私の楽しみでもあるわ。」


「僕もご主人様と奥様が楽しく一日を過ごせるように頑張るんだな。

今も見張り番と社を探しているんだな。

その間にゆっくりと楽しい食事の時間を過ごしてほしいんだな、」


「二人ともありがとう。食事も終わったし、食後のお茶にしようか。」

「いま、お湯を沸かすわね。」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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