15話目 魔族との再戦 後編 芦高さんが光った
その時だった。一面の焼け野原に心の底に響くわたるような声が聞こえたのだった。
「聞こえるか、人類の勇者よ。
俺は12魔将序列9位の者だ。だが名はいまさら名乗らん。もうすぐ別の者にとってかわられるだろうからな。
聞け、お前はその力を、その強大な力を何のために使っているのだ。
人類の存続のためか。
それもいいだろう。
でもな、我ら魔族が人類の領域に進出したわけを考えろ。
その答えが見つからないとお前が手に入れた人類の生存領域も近いうちに無に帰るぞ。
もちろん我ら魔族とエルフ族の方が早く滅亡するがな。
人の勇者よ。
我に勝利する者として、考えよ。
お前が魔族の多くの命を吸い取って勝ち取ったものがなんであるか。
我々魔族は人類との戦をただ単に好んだのではないぞ。
我々の戦いの真の意味を理解してくれ。
では、敗者は去る。
ではさらばだ。」
言葉が途切れたと思ったら、大きな爆発音が聞こえた。
それは最後の力を振り絞って12魔将が自ら命を絶ったものと俺は思った。
今日、俺がやつに勝った意味か。
何だろうな。
やつよりも俺の方が強かったから勝ったんじゃないのか。
それはもちろん俺だけの強さじゃない。ここにいるB部隊のみんなの力のおかげだ。
でもただ力が強いから勝ったわけじゃない。
皆の連携とそれ以前に皆と今日の日が来ることを予想して研鑽を積んできた結果だ。
「勝った意味か、掴みどころのない遺言を言い残したものじゃな。
意味があると言えば、1つはこうして12魔将と言う魔族軍の最高幹部が人類のシュウに言葉を残したことじゃな。
今まではやるかやられるかで、戦った後は生き残るか屍となるかだっけじゃったのにな。
戦いの後にこうして言葉を残す、それも最後の遺言とあらばそれを残すだけの価値があるやつと12魔将もシュウのことを認めたということじゃろう。
でもな、それがどうかしたのかと妾は思うがの。」
「魔族は輪廻の会合について何か掴んでいるかも知んねぇな。
魔族の中に大精霊の使徒とアーティファクトもいるはずだしな、きっと。
輪廻の会合が起るとしたら、そいつらとシュウが運命の会合を果たさなきゃなんねぇな。
使徒は覚醒したらとんでもない力を持つはずだからな。
シュウとエリナと、そして死神、ソニアちゃんといきなり殺り合ってはどちらかが致命的な状態にるからな。
そうならないためには、魔族の幹部が少なくともシュウと言葉を交わすぐらいじゃねぇと困るんだがな。」
「私は逝ってしまった魔族さんが輪廻の会合について知っているとは思えないですけど。
それよりもご主人様が12魔将に勝った意味、さらにもっと魔族が人類領域に進出してきた意味を知ってほしいし、強者であればあるほど知らなければいけないと言いたかったんじゃないかしら。
12魔将を超える力を持つシュウに将来を見たのかもしれませんね。」
"その理由を知るためには魔族と戦って、社を解放し、そしてエルフ族か魔族の領域に行ってみることが必要だとアクア様とノーム様が言っていたわ。
今の私たちのできること。緑の魔石を探して、そして社を探しましょうよ。"
"そうだね。わからなことをいろいろ悩まないで、まずはやるべきことをやろうか。"
誰もが戦が終わったことを実感し、少し放心状態になっていた。
しばらくは焼けただれた戦場を皆が見つめていた。
「カメさん、現状を死神中隊長に連絡して。
B部隊は12魔将に率いられた魔族1師団を壊滅したと。12魔将は自決。これから緑の魔石を探すと。
移動中だから捕まるかしら。
あと2時間はここまでの移動にかかると思うので、捕まらなければ10分おきに再度連絡を試みてくれますか。
残り人は緑の魔石の探索ね。」
「もしかしたら、まだ魔族の生き残りに遭遇するかもしれないので芦高さんに少し見回ってもらったらどうかしら。
私が芦高さんに必要な魔法を再度転写しておくわ。」
「そうね、芦高さんなら魔族の残党がいれば一人でも対処できるし。
芦高さんお願いしますね。」
「きゅび」
"芦高さん、また、魔族の生き残りを探して。いたらぐるぐる巻きにして一か所に集めて置いて。風神様の例の空間に贈るから"
「きゅぴぴ、ぴぴ。」「了解、任せてだってさ。」
「それでは緑の魔石を探しましょう。12魔将と言っていたので、必ずあるはずだわ。」
俺たちは魔族軍がいた場所に急いだ。
まだ、死神さんとは連絡がつかないらしい。
そういえば第2軍団も交戦中だったよね。あっちの戦況はどうかな。
「芦高が魔族の生き残りを3体見つけたってよ。いずれも重傷で動けないらしい。
引き続き探すって。
さすが12魔将に率いられた軍だぜ。あんな氷属性フィールドとブリザード、そして稲妻地獄の中で生き残ったやつが複数いるとはな。」
「しかし、魔力1/4の雷属性フィールドを展開してこのありさまじゃ。
タイのねぇちゃんが言っておったようにここは地獄だったようじゃな。稲妻地獄か。
こんなのに巻き込まれたくはないのう。
真っ先に妾に稲妻が寄ってくることは間違いなさそうだしのう。」
「先ほどのことではありませんが。強者が意味もなく暴れることが恐ろしいですわ。
ご主人様がだだ暴れただけで意味もなく多くの命が絶たれることになりますわね。
ご主人様、この惨状をこの地獄の後をよく見てください。
今のあなたの力は大きすぎます。そして、これからもっと大きくなるでしょう。
力におごることなく、自分の志を忘れずに、その志のためにその大きな力を使ってほしいのが私の願いです。」
「その志がなんだが具体的にするためにも早くエルフ族か魔族の領域に行きてぇもんだな。
そのためには人の領域に進出した魔族と戦って、そして社を解放し続けなきゃいけないか。
それまでの戦いは志がいまいちあやふやかもしれないが、きっと必要な事と思って、戦っていけよ。
何故戦うのか、疑問に思ったら、俺とエリナを見な。
2人を守るためと考えればやる気も出るというもんだな。」
やる気が半分になった。
「なぜだぁぁぁぁぁぁ。エリナのことが大事じゃないのか。エリナのために戦うと思うとやる気が半減するのか? 」
わかっているくせに。口に出して言わなきゃわかんない?
「いやいい。それ以上言わなくていいぞ。
直接言われるとショックが大きいからな。
俺の小さな心臓がそれで止まったら、化けて出てやるからな。だからそっとしておいてくれよ。」
「わかっているなら最初から言わなきゃいいじゃないですの。この愚妹は、全く。
ご主人様、失礼いたしました。
このどうしようもない愚妹には後できつくお灸をすえておきますから。金属だからさぞ熱の伝わりがいいでしようね、」
「俺が悪かった、許してくれよ。・・・・・ちょっと待った・・・・・。
芦高が苦しんでいる。なんか暴れているようだぞ。」
えっ、どうしたんだ。魔族の生き残りがいたのか。芦高さんを害するほどの強力な敵が。
「んっ、なんかすっきりしたようだぞ。すごく苦しかったけど今はすごくハッピーな気分だって。
このまま、魔族の生き残りを探して回収するって。」
どうしたんだろう。急に苦しむなんて。
途中で腐ったオークでも食べたのかな。
俺たちは気になりながらも、大丈夫と言う芦高さんの言葉を信じて、緑の魔石の回収を急いだ。
そして、12魔将が自決したと思われる地点の後方1kmでついに緑の魔石を発見した。芦高さんが。
どうも、12魔将が自爆した時に魔石も飛んで行ってしまったようだった。
それを後方で生き残りの魔族を探していた芦高さんが発見したようだ。
俺は魔石の発見よりも芦高さんが元気に動き回っていることに安心した。
さっきはどうしたのだろう。
「芦高が今からここに来るってよ。生き残りの魔族は向こうにまとめておいたので後で回収してくれって、言ってるぞ。」
待つこと数分、何か光る巨大な物体が走ってくる。足が8本ある。
新手の魔物か。
「シュウ、何かこっちに来るわ。蜘蛛型の巨大魔物よ。
芦高さんよりも一回り大きいわ。」
「エリナ、いつもの魔法を一通り転写してくれ。食い止める。」
「何かしら。すっごい光っているわね。」
「きゅぴひぴ。ぴぴぴ」
「あいつ、芦高だぞ。えっ、脱皮して進化したと言ってるぞ。」
「ぴぴぴ、きゅぴ、びきゅ。」
「シュウ、見てくれって、進化した俺をだってさ。」
ピカピカに光る巨大蜘蛛が前足を俺の背中にすりすりしてきた。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。