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12話目 ようやく仕事をもらったよ。穴掘り。

休暇が終わった次の日の朝。


休暇、楽しみました。

心からエリナと。

もしかして、プチ新婚旅行みたいな。

贅沢ことや特別なことは何もないけど。大好きな人と二人。


教会本山からたった歩いて1時間。

そして、どこにでもある田園風景。

住んでいる人やいつも訪れている人には何気ない風景。

でも、新婚の二人にはすべてが新しい。その道の脇に流れる小川さえも。


例え何度も見てきた光景だとしても、それは新鮮なのだ。

そう、二人で見るのは初めてだ。

いつも見慣れた楓の木さえ。赤く色ずくその葉も初めて見るような愛おしさを感じる。


二人だから。


手をしっかり握る、愛する人の手を。

しっかり瞳を見つめる、愛する人の瞳を。

風を感じる、心が弾んですこし暖かくなった体に。


寒くないかと気遣う彼女。逆だよね、と言って、そっと抱き寄せる。

体が、肩が触れた。

暖かいね。君の体の温もりが、君の心が。君の眼差しが。


このままずっと、このままずっと時が止まればいいのに。

なぜ、なぜ、幸せな時は進むのか、なぜ止まってくれない。


「まぁ、なんだそれはシュウだからでねぇのか。こんな似合わないセリフを長々と。

付き合わされる俺たちの身にもなってみろっていうんだ。なぁ、婆ちゃん。」


「こ奴のことなどどうでも良いわ。

くだらない甘い思考など昼寝の足しにもなわんわ。好きに言ってろシュウ。」


「ご主人様、素晴らしい愛の告白でしたわ。

私はうっとりです。これで赤ちゃんオオカミに一歩近づきましたわね。


う~ん、その後すぐにその草むらで奥様を押し倒さないところが甲斐性なしなところですね。


改善を要求しますわ。


早くオオカミに変身しろよなぁボケが。いつまで待たすんじゃ。」


うううっ、怖い、メイドさん。


というわけで、二人で半休みを2回、ピクニックを楽しみました。

別々の農村に。


詳細は誰にも言いません。

特に特の字が付く方が嫉妬に荒れ狂うといけないんでね。


俺は幸せだった。それでいいじゃん。楽しい休暇だったよ。エリナ。


"私も、幸せでした。

ただただ、本当に幸せでした。

あなたと一緒にのんびり過ごしたことが。

うふふふっ、幸せって、目じりが下がるんですね。幸せじわができそう。"


「全然大丈夫だよ、エリナは張りのある肌だから、目じりが下がっても全然しわにもならないよ。」

「ありがとう、旦那様♡」


「何が、旦那様♡じゃ。

こちとら連日の会議と飲み放題で、肝臓がボロボロだ。

うっぶ、きもちわる~ぅ。」


「二日酔いですか。昨日は楽しく飲んでいたということじゃないですか。」


「うるさい。

口答えするな。

返事もするな。

頭に響く。うっぷ。」


「今日は何もできそうにないわね。特の字が付く人。」遠慮して小声

「寝てればいいのに。これからベースキャンプの設置に行くんでしょ。

移動中に大変なことになるような気がする。

主に口の周りが。」怒られたので小声


「早いわね。

集合時間までもう少しあるのに。ベースキャンプの設置が楽しみなようね。

ええと、なぁ~んだ。今日の主役の土魔法術士はまだ私だけのみたいね。


シュウ君なんて、ベースキャンプ建設も探索も荷物持ちも何にもできないのに張り切って早く来てもしょうがないにねぇ~。」


そんな、俺への嫌みのところだけ大声を出さなくても・・・・・、ほら、大声に反応してトイレに駆け込んだ俺よりも今日は役に立たないのがいるじゃないか。


「死神さん、そんなことはないです。シュウは役に立ちます。

いえ、主力です。」

「えっ、こいつが今日の主力ですか。どうしてですの。」


「私の見張り番を応援してくれます。

シュウの応援でやる気が出て全方位検知の範囲が105%に上昇し、敵を発見しやすくなります。」


「うっぶ、それは違うぞ。

シュウが応援する声が俺の頭に響き、気持ち悪くなって、全方位検知の範囲が30%に低下し、敵を発見し難くなる。」


「えっ、俺の応援が原因で見張り番の効率が落ちると。

じゃ、声での応援は止めて、エリナの手を握って応援します。」


「それが一番きついんじゃないの、今の特攻隊長にとって。

仲のいい男女が手を握って、そして、お互いを見つめ合い、検知効率が・・・・だめですね。

エリナさんの検知効率もダダ下がりですね。


シュウ君は、もう、馬車の御者をしてればいいわ。

それ以外何もしなくていいわ。話も厳禁ね。」


「俺の扱いが酷すぎる。」


「使えないやつなんだからしょうがないですね。魔族がいないと役立たずだからシュウ君は。」


俺の役立たず説が成立したところで、旅団のメンバーがそろった。

ベースキャンプ建設のために旅団と第3221、3222大隊が仮想エリア7と8の接点、先日A部隊とB部隊が合流した地点に向けて出発した。


俺はソンバトの修行時代に覚えた資材を積み込んだ馬車の御者を買って出て、エリナは見張り番のために隣に座っている。


もちろん手は繋いでいないよ。


エリナちゃんはしきりに手を繋ごうとしているが、片手で手綱を握れるほど俺はうまくないので片手が空かないのだ。


手を繋ぐことをあきらめたエリナちゃんは今度は俺にすり寄って来た。


肩が触れるほど接近したことで漸く納得したのか、今度こそ見張り番に徹するのかと思いきや馬車の後ろでくつろいでいた死神中隊長に見つかり、ひと睨みされるとさっと離れ、しばらくするとくっついてくることを繰り返した。


エリナちゃん、見張り番をしっかりお願い致します。

さぼっていると俺が役立たず枠に固定されてしまうんで。


幸いにして、途中で魔族に出会うこともなく、昼前にはベースキャンプ、第10832ベースキャンプに到着した。


昼ごはんの準備は大隊に任せて、まずは俺たち旅団の前線基地の区画整備をすることになった。


まぁそうなると、俺とエリナは役立たず枠なんだけれど、エリナは引き続き見張り番に着くことに。


御者と言う最重要任務を奪われた俺はどうしようか迷っていると馬車で揺れて余計に気持ち悪くなった特攻隊長がやって来て、

「シュウは馬と一緒に草でも食んで、雑草を整理しろ。」と厳命されてしまった。


遂に馬と同じ扱いか。

一時期、英雄とか言われたことは遠い昔のこととなってしまった。

英雄よりも結婚式をやらかしちゃったお察しな人としての方が世間では通用しているが、それでもまだ人の枠内だったのに。


「シュウは馬か、俺は熊だ。でもちゃんと生きている。」

と微妙な励ましらしきものを熊師匠よりかけてもらった。


俺が馬の世話をしていると近くには熊さんとボルガも所在無げに座っていた。

聖戦士って、戦闘以外ではとことん役ただずなのがはっきりわかった。


「剣でも振りますか。」

「おおっ、それいいな、暇つぶしには。やることねぇし。」

「僕たちってホントに手伝わなくてもいいんですか。後で、さぼった罰を受けるのは嫌なんだけど。」


「何か手伝うことはないか死神さんに聞いてみなよ。

邪魔だ~ぁ、あっち行って馬と一緒に草でも食ってろと言われるから。」


「それってつまり・・・・・。」

「熊さんがいここにいる時点で分かるでしょ。」

「人の枠に加わりたい・・・」ボソ

「また今度だな。戦いになれば人に戻れるかもな。

それまでは剣の一部になり切って、素振りだ~ぁ。

さぁ、人の枠は諦めて、振るぞ~ぉ。」


「馬が草食うとこ見ているよりはましかな。どれ。」

「熊師匠、シュウ君。あきらめないでね。人に戻るの。」


俺たちが剣を振っている間、昼飯とベースキャンプの建物の外枠が出来上がっていた。

これから内装だそうだ。


そんなに長く住まないのにそこまで整えなくてもいいのではと言うと、

「じゃっ、シュウたち男共は穴掘ってそこに防水した布を掛ければ十分だな」と返されてしまった。


午後から仕事ができました。

穴掘りです。


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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