7話目 探索の日々
旅団の雑収入って、かなりやばいものが入ってんじゃないの。
怪しい旅館経営に怪しい品のオークションのピンハネ、もう真っ黒です。
黒字だけど。
あとでもめて、処理するために一面真っ赤に、赤字じゃないよ物理的にだよ、ならなきゃいいけど。
次の日、A部隊は仮想エリア10と9を探索に行ったが、やはりそうそう見つかるものではなく、手ぶらで帰ってきた。
「お兄ちゃん、何にもなかったよ。」
「ソニア、それは良かったな。
でも何か見つけたらすべてそこの熊さんに擦り付けてここに帰ってくるんだよ。
ソニアの代わりはいないのだから。」
「俺はいいのか、俺の代わりもいねぇぞ。
俺がいなくなったら、剣の修行はどうする。
俺以上の師匠はこの世にいないと心得ろ。」
「ソニアとそれに飼育されている熊さんを天秤にかけろと。
そんな神への冒涜のようなまねはできません。
まわりの第32師団の方々にも聞いてみましょうか。
いかに俺の意見が正しいか、瞬時に世間相場がわかりますよ。」
聞くまでもなかった、周りの方々は全員、既に目を細めて何言っているんだこの熊は、とっととソニア様から離れて森に帰れと言うような蔑みの眼差しを向けていた。
まぁ、熊さんだから他人のそんな目も気にせずにふふんっという態度を取り続けていた。
まぁ、熊に忖度は当然ながら、察しろよと言うことを理解したくないことを改めて確認させていただきましたとも、はい。
俺は、もともと無理だとはわかっていたが、熊さんの説得は諦めて、ソニアの方に危ないところには近づかないように再度注意を促すことにした。
「ソニア、人には人としての、熊さんには熊さんとしての生来の役割があるんだ。いいな。
熊さんの役割を奪うことは熊さんが生きている意味を奪うことでもある。
他人の役割を奪っちゃいけないよ。ここまでは分かった? 」
「わかったよ。人それぞれの役割があることはノームちゃんとアクアちゃんが良く話してくれるもん。」
「そうだろう、だから、危険なことはすべて熊さんに投げつけて、ソニアはソニアの役割、ここに無事に帰ってくることだけを考えて動けばいいんだよ。」
「俺は死にそうな目にあうのが役割なのか? 」
「当たり前でしょ。師匠は壁役の熊、カベぁーなんだからね。」
さらに次の日、今度はB部隊が探索する番だった。
今日は仮想エリア4と3だ。
前回はこの区割りで魔族の師団と遭遇したでの、B部隊も一昨日よりも気合と緊張が入っていた。
「それでは行ってきます。
出発しましょう。」
見送りに来た死神さんとおまけはチームに挨拶して、俺たちBチームは探索に出発した。
ここ第1083基地も日々拡張が行われ、隣の第23基地とも馬車による定期連絡便が開通した。
両最前線基地間の移動の主な手段は教会本山を介した転移魔法陣である。
こちらの方が圧倒的な速度と運搬量を誇るが、やはり直接基地間を移動する方法は必要である。
馬車による直接的な移動方法は、出発と到着地点しかない転移魔法陣のそれと比較して、基地周辺の状況を確認できる防衛面への寄与が大きい。
風魔法術士による基地周辺の検知は常に行っているのだが、精々半径2kmの範囲しか状況を把握できない。
基地から2kmまで敵の接近をただ許せば、基地に立てこもっての局地防衛しかできなくなってしまう。
事前に敵の接近が探知できれば局地防衛戦の他に戦術的な防衛戦を展開することが可能である。
もちろん定期的に基地からパトロールの部隊を派遣してより遠くの地域の状況を把握している。
軍ではこのパトロールを兼ねた馬車による直接的で定期的な運搬を重要視しているのだ。
その定期便も俺たちと一緒に出発した。
徒歩と馬車であるからすぐに置いて行かれてしまったが。
当初は第1083基地も第1軍団に任せるつもりだったが、定期便による両基地間の連絡を考えた場合に同じ軍団の方が何かと都合がいいということになり、新規に開放した社のうち第1081と1082基地は第1軍団が運営し、第1083と23基地は第2軍団が運営することになったのだ。
こうしてみると碌に社の解放に貢献していない第1軍団が新たに2つの社の運営に当たることは非常に得をしたような状況になっている。
しかし、この運営方法については、以前に死神中隊長から説明があったように、旅団は解放した社を独占運営するつもりはなく、むしろ物質的に人的に旅団を支援してもらえれば今後解放した社の運営を委託してもいいぞという他軍団宛てのメッセージになればいいという考えだ。
どうせ開放しても1個中隊に満たない旅団では持て余すのは明白だし。
さらに、大した働きもしていない第1軍団が新たに2か所の社を運営しているという羨ましい事実は嫉妬の対象となるには十分であり、社を解放したことによる負の部分を第1軍団がすべて引き受けてくれているような状態になっている。
加えて、これは冷静になった後に気付いたことだが、新しい社を解放したのはほとんど俺の力ということになってはいるが、俺に対する印象は例の結婚式の間抜けた対応から蔑みの対象にはなってといるが嫉妬の対象には一般的にはなっていないようであった。
嫉妬の対象でなければ陰湿ないやがらせや表立った妨害もないだろうと思われた。
この状況を作り上げた真の魔王様は意図したのか、たまたまそうなってしまったのかをいつか聞いてみたい気がするのは無謀なことであろうか。
俺と越後屋さんは探索にはあまり役に立たないので、若干暇をもてあましぎみで余計なことをつい考えてしまう。
仮想エリア4の先端に到着した。
特に何事もなく、何も発見できなかった。
ここで小休憩して、今度は右に2km移動し、そしてエリア3を探索することになる。先日、A部隊がエリア2を探索した時には何も発見できなかったし、今日のエリア4でも何もなかったので、エリア3でも何かを発見する望みが薄いと思われた。
休憩後、右に移動し、さらにエリア3を探索したが、予想通り何も発見できなかった。
秋も深まり、大分日が短くなってきた。
それに伴い朝夕の風の冷たさが少し身に染みるようになってきた。
俺たちは、きれいな夕焼けが第1083基地を覆う頃に漸く探索から戻って来た。
まずは死神さんに報告だ。
「仮想エリア4と3を探索しましたが、社及び魔族の部隊を発見することはできませんでした。」
「ご苦労様でした。それでは明日の午後は旅団全員で仮想エリア7と8を探索します。
A部隊はエリア7をB部隊はエリア8を探索し、帰りにエリア7にて探索の演習を行います。B部隊は2日連続の動員で申し訳ないわね。
明日、何も発見できなれば2日間の休暇後に仮想エリア5の先端にもっと先を探索するためのベースキャンプを3日かけて新設します。
そこには我々旅団と第322連隊が駐留します。
そして、また仮想エリア、今度はエリア11~20として、仮想エリアを旅団が探索し、それ以外の残った両脇の部分を第322連隊に探索してもらいます。
以上です。質問は? 」
「明後日とその次の日に休暇を設けたのは何か意図するものがありますか。」
「ほほ~ぉっ、カメちゃん、いいところに気が付いたわね。
ほんとは休みたくないんだけどね。
休まなくちゃいけないのよこれが、全く。
誰か理由がわかる人は? 」
「もしかして、第23基地の前方の探索が遅れているからですか? 」
「さすがカメちゃんね。その通り。
やつらがおっかなびっくり、へっぴり腰で探索しているからまだ終わっていないようなのよ。
私たちだけが次の仮想エリア設置して探索を始めても突出するようで万が一、魔族の部隊がいると囲まれる危険があるわ。
それを避けるため、第23基地のぼんくら共と探索の歩調を合わせなきゃなんないのよね。
わかってね、カメちゃん。」
第23基地の前方は第2軍団が探索をしているが、今のところ社や魔族の部隊を発見できてはいないとの情報を俺たちに伝えるてくれたのだが、その口調からは向こうの探索が進まないのを苛立っている死神さんでした。
苛立つのはわかるけど、その覚醒していないとはいえ闇のアーティファクトをぶんぶん俺たちの目の前で振り回すのは絶対やめてください。
突然、覚醒したら俺たち全員クビチョンですから。
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。