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4話目 赤ちゃんオオカミに残せるもの

朝が来た。

無事に男4段極狭本棚倉庫ベッドに朝が来た。


なんだこの感動は、無事に夜を越せることの幸せ。

今日も一日頑張るぞ。


「シュウ、おはよう。いい朝ね。


今日は午後から探索ね。

今日の夜は約束通り頑張ってもらうから朝と昼に高カロリーの食事を作ってあげるわね。」


「あ、ありがとう。」


そうだった。

昨日の夜、一緒の部屋でと言うところをやっぱりちゃんとした3LDKの新婚用宿舎を確保してからら一緒の部屋で寝ることがけじめだろうと言い張って、昨晩は男4段極狭本棚倉庫ベッドに転がり込んだんだった。


昨日は熊さんもカメさんもいなくてボルガだけだったので、かなり狭くはあるが静かな夜を過ごすことができたのだった。


本来はさわやかな朝を迎えて、一日のやる気に満ちているところのはずが・・・・。


昨日のエリナとの約束を突き付けられ、またどんな言い訳で今度は新しい宿舎の一人部屋で今晩からゆっくり寝るかを考えなくてはならないことに気が付いて、どよ~ンとした朝に一変したのだった。


ホルガに言わせるともうあきらめてオオカミのお父さんでこれから生きて行けばいいんじゃないかと無下に言われてしまった。


じゃぁ、てめぇは今すぐシュリさんのところに行ってオオカミのお父さんになって来いと言ったら、

僕たちは清い交際ですからと言われてしまった。


じぁっ、俺とエリナはどろどろの交際なのかと聞いたら、人生の墓場と言う泥沼にどっぷりはまり込んだシュウ君はどろどろでいいんじゃないのかと捨て台詞を残して、さっさと男4段極狭本棚倉庫ベッドの一番上に潜り込んで、あっという間に息を立てていた。


絶対狸だと思ったが、これ以上突っ込むとさらに手痛い反撃に、ここからエリナの部屋に追い出されそうで、かなりやり場のない憤慨感は残ったが、明日も早いので寝てしまった。


寝てる間は平和だったはず?


取り敢えずは本棚から這い出て朝食をとることにした。


朝からとんかつ3枚はさすがに食べられません。


午前中の講義と訓練が終わり、俺たちB部隊は第1083基地の社の前に集合した。


「それではB部隊に探索をお願いします。

本日は仮想エリア5を進み、ここから5km進んだところで休憩、左に2km進んで、小休憩。

そして仮想エリア6を探索して戻ってくる。


仮想エリア1と2は昨日我々が探索をしたが、残念ながら何も発見できなかった。


また他に仮想エリア外、ここの基地を中心にして左右のエリアを第32師団が探索したが、やはり何もなかったようだ。


あるとすれば我々旅団の仮想エリアだけになるので、気を抜かないで探索の任務に当たってほしい。


私からは以上だ。あとの指揮はタイさんに任せる。」


「それではB部隊出発しますが、装備の再点検は済ましてありますね。

じゃぁ出発しよう。」


ここの第1083基地周辺も第1081と1082基地のそれと同様に、いまだに例の大防衛戦の爪痕が至る所に残っていた。


あの変色した草も木も生えていないただ黒く焼けただれた大地は大魔法の跡であろうか。

その中に人がいた場合は骨すらも残らなかったに違いない。


この焼けただれた大地に何の痕跡も残せない死とは、数十年懸命に生きて結果としてはあまりにもむごすぎるのではないか。


人類にせよ魔族にせよ敵が攻撃してくる可能性があれば生を得るためには相手の死を望まねばならないのが戦である。


それはわかるのだが、骨や衣服、装備さえも何も残らない死と言うのは果たして生きてきた意味があるのだろうか。


「シュウどうしたの。ぼーっとしていると危険よ。ここは戦場の真ん中。

一歩の出遅れが死に直結する場所。


そんなに真剣に何を考えていたのかしら。


今晩のことを考えているの。

シュウがまだ、その、あれをまだ望まないなら、いまは別にいいのよ。

無理して、オオカミにならなくても。オオカミのお父さんにならなくても。」


「あそこの焼けただれた、あの大防衛戦の跡を見ながら考えていたんだ。

ここで戦った者たちの生きていた意味を。」


「生きてきた意味? 」


「おそらく、あの中にいた者は魔族であれ人であれ骨すら、装備すら残らなかったはずだと。

最後の生きざまを残すことなく、逝ってしまったんだ。


それを考えるとこの風景が哀れになって来てね。

軍人でいることのむなしさと言うか。そんな気分にさせられたんだ。」


「死んでいくことの意味みたいなもの?」

「ん~っ、それも考えないことはないけど。今、思っていたところとはちょっと違うかな。


自分が生きていた証と言うか、俺はここにいたんだぞと言う主張と言うか。


生を持っているかぎり、いつかは死を迎えるよね。まぁ、大精霊には死と言う概念が当てまるかはわからないけどね。


その時に自分が生きていたことを示すと同時に、こういう死を迎えたということをを誰かに知ってほしいということなのかな。


今のまま、エリナと間に子供ができて、考えたくはないけど俺が逝ってしまった場合、俺は何を残せるんだろう。

少なくても子供に俺の死に様をわかってもらえることは難しいかなと。


前回での戦闘で、実際、危なかった。

周りの力のおかげでぎりぎり生き延びられた幸運が俺にあったよ。


でもその幸運が少し途切れたら、俺はあのただれた大地の中で逝ってしまった者たちと同じ運命をたどるんだと思ってね。」


「そんなことさせないわ。私が守り切るのシュウを。


でも、なんかうれしいわ。ただ何となく私との同衾を拒んでいたわけではなくて。

まだ、いないけど、私たちの小さな命まで考えてくれていることが。


そうね。私また焦っちゃったのかな。先日大失敗してシュウに迷惑を掛けたばっかりなのに。


ごめんね、


私たちがもう少し大人になって、それから、ちゃんと責任が取れるようになってからだよね。

今はまだ、普通だったら職校生だもんね。


シュウが大人で、実績もちゃんと残せているから自分も大人になったように勘違いしていたのかも。


そうよね。親になるということだもんね。

大地の大精霊様のような無償の愛が必要なんだよね。」


「まぁ、あの土の大精霊様はちょっと違うかな。

ソニアの保護者的な立ち位置なんだろうけど、どちらかと言うか姉妹だよね。」


「そうね。チンチクリン三姉妹だし。親と言う感じはしないわね。」


「俺がもっと大人になって、自信がついたら、オオカミさんになっって、オオカミさんのお父さんになってもいいかな。」


「もちろん、その時は私もオオカミさんのお母さんだもんね。全然嫌じゃないけど。

母オオカミさんになってもいいように準備をしておくわ。」


「あの~っ、

龍宮チームと一緒に探索の途中で将来の家族計画をご相談するのは後で地獄を見るよ。

特に家族計画は資金計画とか言って、他家の家計に嬉々として土足で入ってくる人がいるでしょ。


もう、何年何月に一人目の子供がいて、それまでにいくら貯めてとか事細かに妄想を展開するんだきっと。


ますます、探索が進まなくなるよ。暗くなっても仮想エリア5にいることになってもいいの。

オオカミどころが、魔族の師団にまた遭遇しちゃうよ。」


「カメさん、私を呼んだ?

私乙姫の人生相談所、一生涯の資金計画生まれてから棺桶までをすべてまかせて安心に何か用なの。」


「「「いえ、特になにも呼んでおりません。気にせず目視警戒を続けてくださいな。」」」


「皆、油断しすぎですわ。ここは基地ではなく間違いなく敵との最前線ですのに。」


タイさん指揮官に怒られてしまった。

変な感傷と妄想は一端忘れて、任務に集中しないとな。


まぁ、妄想のおかげで今晩から豪華な一人部屋でゆっくりと睡眠をむさぼることができそうだ。

あとはエリナがプラス飯を作ってくれていることを祈ろう。


「全く、オオカミさんにもなり切れない甲斐性なしのくせに腹だけはきちんと減るのじゃな。


もう、妾はいつシュウがオオカミになるかが楽しみで昨晩は一睡もできんかったぞ。

どうしてくれるんじゃ、この甲斐性なしめ。怒怒怒怒じゃ。」


「婆ちゃんまだあきらめていなかったのか。シュウはこのままオオカミになんてなれるわきゃないだろ。いい加減悟れ。」


「むふふふふっ、赤ちゃんオオカミ、むふふふ、赤ちゃんオオカミが楽しみです。きっともうすぐですわ。」


「おめ~ェもいい加減に悟れよ。

シュウの甲斐性なし度を。


キッスするのにもどんだけかかったと思ってるんだ。

エリナがあんなに誘ってもほっぺが精々だっただろうが。

もう、あきらめろ。」


「やだ~ぁ、絶対ぜったにいやだ~ぁ。


旦那様と奥様の赤ちゃんオオカミをこの手で抱っこし、おむつを替えてあげるのが私の務めであり、夢のなのですわ。」


「「あっ、無理、それ絶対無理。

赤ちゃんオオカミが居ても無理だから、指輪におむつ交換なんて。」」


活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。

お話に興味がある方はお読みくださいね。


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