7話目 道場に入ったよ。早速、剣の修行だ。
次の朝、俺はエリナとともに教会を出て、さっそくキーライさんの道場を訪ねることにした。
場所は意外と教会から近く歩いて5分ぐらいのところにあることを宿坊の受付で聞いた。
俺はちょっと緊張しながら道場に歩いていく。
「どんなところかしらね。鬼みたいな人がいっぱいいたら怖いね。」
「武道の修行や指導をしている人たちなので、商人のようににこやかとはいかないけど、さすがにオーガのような集団ではないと思うよ。
2~3人の鬼はいるかもだけど。」
「鬼が出たら、シュウ、私を守ってね。」
「いくら何でもいきなり襲い掛かってくることはないと思うけど。」
「わからないでしょ。可憐な私を見てついオスの本能が全開、有り得るわ。」
「はははっ。本当にそうなら俺が容赦しないよ。大丈夫。」
「シュウ。漸く笑顔になった。
緊張するなとは言わないけど、余りガチガチなのも。」
「ありがとう。エリナと一緒で良かったよ。」
エリナのかわいい冗談で心にすこし余裕ができた。
そうこうするうちに道場の門の前に着いた。
門があるなんて広い。さすがは道場。
どう声を掛けようか悩んでいると丁度俺くらいの男の子が門の方に歩いてきた。
「あのすいません。キーライさんに取り次いでほしいのですが。
ルーエンから来たシュウです。」
「ちょっと待って、取り次いで良いかわからないから先輩を呼んでくる。ここで待ってて、中には勝手に入らないで。後で俺が叱られるから。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
そのまま、少し待っていると別の青年という感じの人がやってきた。
「君かい。キーライ館長に会いたいというのは。」
「はい。」
「取り次ぐ前に少し確認させてくれるかい。
私はここで師範代をしているものさ。」
「俺はシュウ。ルーエンから来ました。
要件はここで武者修行をしたいので、キーライさん、キーライ館長にお願いに来ました。」
「武者修行? 武道職校への入学ではなくて? 」
「はい。2~3箇月の短期間の修行です。
あっ、父から館長に宛てた推薦状も持っています。これ。」
「確かに館長あてですね。
ちょっと預かってもいいかな。館長に見せてくるよ。
悪いけど確認が取れるまでもう少しここで待っていてくれるかい。」
「クズミチちょっと、彼らの相手をしていてくれるかい、すぐ戻るから。」
「わかりました。見張っています。」
「クズミチ、お客さんなんだから穏便にね。」
師範代はクズミチとかいう最初に声をかけた少年の肩をポンと叩くと再び奥に入っていった。
「クズミチ君、あなたはここで修行しているのかしら? 」
エリナが優しく語りかける。
そうするとクズミチは顔を真っ赤にして、少しうつむきながら「うん」と答えた。
クズミチ、お前も美少女様の魅力に心を射抜かれたみたいだな。俺もそうだったぞ。
目の前の少年と一方的な親近感を持った俺。
「おおおっ、俺はここの武道職校に今年入ったんだ。
この道場は職校を兼ねているんだ。」
「えーっ。あなた13歳なのね。私たちと同じね。」
「えっ。あなたも俺と同じ年??? うちの姉ちゃんみたいに凄く落ち着いているし、気品というのかなぁ、大人びているからもっと年上かと思った。すげーきれいだ・・・・。」
わかるよ、クズミチ君。
エリナは女神様だよな。
俺なんで毎日何回もエリナを見てぼーっとしてしまうよ。
「ありがとう。でも、年上には見られたくないわ。まだ、13歳だし。」
そんな風に美少女様を二人で崇めていると、奥からざわざわと人の来る気配がした。
「おおっ、君がシュウか。よく来たな、
ダンはまだ生きているか? モニカ様は相変わらず美しいか? 」
ひげ面の大男がこちらに親しそうに近寄ってきて、俺の肩をバンバンたたいた。
痛いです。
「はい、父さんは元気にしています。母さんも元気です。」
「そうか、そうか。でもあのダンの息子が俺のところで武者修行か。
いいぞ、死なない程度に鍛えてやろう。」
えっ、会っていきなり、死ぬ一歩手前のハードな修行ですか。
「まぁ、手紙に書いてあったが、ダンがつきっきりで3年間鍛えたようだから、俺のところでの修行についてこれないことはないたろう。
初めから死ぬような修行でも構わないな。」
このひと軽く言ってるけど、死ぬこと前提の修行ですか。
短期間の修行のお願いだからと言って、危険な修行ばかりピックアップするつもなんじゃ。
「いまのは冗談だが、実践形式の修行が多くなるので、危険なことは承知しておいてほしい。
状況によっては覚悟しておいてくれ。
まぁ、聖戦士になるんだったらこのぐらいの危険は平常運転だな。」
マジでだんだん怖くなってきました。
聖戦士としての戦いより、キーライさんのこれくらい軽い軽いという発想に死の危険を感じたぞ。
「じゃ、実際の修行はここの職校の教員でもある師範代のキョルギに任せる。クズミチの指導と一緒にたのむぞ。」
「わかりました。死なない程度に鍛えます。シュウ君よろしく。」
「師範代、よろしくお願い致します。」
「師範代ではなくギョルギと呼んでください。」
「では、ギョルギ先生よろしくお願いします。」
「んんんっ。まっ、それでいいでしょう。」
「ところでシュウと一緒に居るそこの女の子はどなたですか。
シュウの家族とか。」
「私はエリナ、今日はシュウの付き添いです。
シュウの修行の様子を見たいと思いまして。」
「そのローブは見習い魔法術士かな。
こんなところに居てもいいのですか。職校はどうしました。」
「ふふふっ。本当は今職校の課題をしているのです。魔物を倒すという課題です。」
「よくわからないのですが。課題中の見習いさんがシュウの付き添いというのは? 」
「実は課題は終わっているのです。
シュウと臨時チームを組んで。2回の戦闘でオーガ12体とオーク6体。後、魔石を回収できなかったけれど魔族も1体倒したわ。
もう少し魔物を倒して、成績を上げることを目論んでいます。」
「あのー、シュウがあなたとチームを組むのであれば、ここでの修行や教会本山での職校すら行かなくていいと思うのですが。」
「いえ、聖戦士はどのような形で魔族と戦闘になるかわかりません。
だから、一人でも少なくとも魔物を倒せるようにはなっておく必要があると思います。」
「その通りだな。聖戦士も戦士だ。魔法術士の魔法砲台ではない。
自分で戦うことが必要だ。
そのためには戦い方の引き出しをたくさん用意しておく必要がある。
その引き出しは日々のいやというほどの単調な訓練の繰り返しと実践より得られる。
シュウよ、生き抜くために戦いの引き出しを早く、より多く用意しろ。
それこそがここでの修行の意味合いだ。」
「わかりました。努力します。」
「クズミチもそうだぞ。武に生きるものは戦いを避けることができないことがある。
その戦いを生き抜く、勝ち負けではなく、生き抜くことが武に生きるものの心得だ。」
「ありがとうございます。館長。俺も努力します。」
「エリナ。見習いなのによく聖戦士の本質まで理解しているな。」
「お母様から、教えてもらいました。
将来、聖戦士とし一緒に戦えるようにと。」
「それは素晴らしい考え方のお母さんだな。
ちなみに名前を聞いてもいいか。
俺も昔は聖戦士だった。
エリナの母親の代の魔法術士あれば知っているかもしれん。」
「あのー、でもー。」
「いやなら言わなくても良いのだ。
ただ、今の話で聖戦士のころを思い出しただけだ。
俺の相方は先の大戦で俺を助けるために犠牲になった。一人でも相方のことを覚えていてくれる人がいればよいと思っただけだ。」
「ふーっ。
私の母はリーナ、リーナ・エルメルよ。」
「リーナ。
ゲッ、あのリーナか。
これは大変失礼致しました。エリナお嬢様。」
まただ。リーナさんの名前を聞いた途端に脊髄反射して、最敬礼したよ、館長。
「だから、言いたくなかったのに。」
「リーナ様様様とモニカ様のお子様が、臨時チームを組んだか。
時代は進むか。俺も年だな。」
リーナさんは様が3回、母さんは普通に様。
こんなところの道場の館長を恐れ戦かせるエリナの母さんは魔王か。
怖すぎる。会いたくない。
「館長、リーナ様様様とはどのような関係ですか。」
「思い出すと胃に穴が開きそうなので言いたくない。
ギョルギ、俺は胃が痛いので今日は休養だ。
寝るので後のことは頼む。
後、エリナ様にはぜーたいに失礼のないように。
まずはお茶でおもてなしを。
最高級のきんつばをすぐ買って来い。」
「エリナ様をもし粗末に扱ったことがあのお方、名前を言うと胃にもう一個穴が開きそうだ、いたたたた、あのお方に知られたらこんな道場次の日には跡形もなく更地になるぞ。
当然、俺たちは全員神隠しだ。」
リーナ様様様、すげー破壊力だ。
元聖戦士の大男を名前を聞かせただけで胃潰瘍にさせるなんて。
「シュウ、お母さまはそんな怖くはないから。本当にやさしいのよ。
誤解しないで。信じて。ぐすん。」
エリナが泣きそうになっている。ここはしっかりホローしないと俺たち全員に明日はない。
「わかっていよ。
こんな素敵なエリナを育てたお母さんだもの、そんな怖いことはないさ。俺も会いに行くのが楽しみだにゃ。」
かんだー、心にもないこと言って、かんだー。
「にゃだって。シュウおかしいわ。ふふふっ。」
やっと笑ってくれた。かんだけど、結果オーライ、俺ナイスホロー。
今日は忖度のスキルを習得したので、修行は終わって良い? なわけないよねー。
「館長が寝込んでしまいましたが、シュウには時間がないので、さっそく修行を開始します。
エリナさんも一緒にやりませんか。」
「私もですか? 」
「そうですよ。シュウとチームを組みたいのなら、シュウの動きを身をもって体験した方が良いでしょう。
また、聖戦士だけが戦いの中にいるわけではありません。
あなたも思わぬ方向から攻撃されるかもしれません。
その時は自分で身を守る必要があります。
戦いの引き出しが必要なのは聖戦士だけではないと思いますが、どうですか。」
「わかりました。私もここにいる間は鍛錬します。
職校でも武術の鍛錬はしていますので、全くできないことはないと思います。」
「では、さっそく始めましょう。
荷物をそこにおいて、剣と盾を持ちなさい。
エリナにはこれを貸しましょう。」
ギョルギ先生は門の脇にある庭に俺たちを案内した。
そして、用意していた盾とロングソードをエリナに渡した。
俺もクズミチも自分の盾と剣を構えた。
「まずは盾を自分の体の左半分に構えて、剣は前に突き出すように右半身の前に構えなさい。これが構えです。戦闘の準備ですね。」
「次は、盾で身を守りながら、剣を突き出しなさい。
そうそう、相手を突き刺すように。
構えの時に腰を十分に落とさないと剣を突き出すときに腰が伸びてしまい、剣先に力が伝わりません。
では構えからやり直し。
そうそう、足幅にも気を付けて。」
「左膝がつま先の前に出ているように構えてください。これが体を前にバランスよく進める力になります。では、繰り返します。構え、突け。」
「いいですよ。これを100回繰り返します。
その後、チェックしますので手を抜かずにやりましよう。
私ももちろんやりますよ。
では、始め。」
俺たちはこの動作を繰り返した。
「皆さん100回終わったようですね。
それでは一人づつ、もう一度やってください。
まずはクズミチから。」
クズミチは慣れた動作なのかスムーズにできたようだ。
俺は慣れない動作の繰り返しで、疲れて腰が高くなってしまい、突く剣先がわずかに下にそれた。」
「シュウ、全くなっていません。
それでは敵を貫けませんよ。
少し休憩した後に今度はゆっくりと確実にもう100回やってください。
次、エリナ。」
エリナは慣れない剣と盾の動作で、疲れて立っているのもつらそうだ。やはり剣先が狂ってしまい、さらに疲労で剣は土をついてしまった。
「エリナは慣れない動作で、そうなってしまったのは仕方ありません。
しかし、今の段階で魔物が正面から襲ってきた場合に迎撃できるのはクズミチ、牽制できるのはシュウ、エリナは残念なことになります。
エリナは焦らずに、十分に休憩してから今の動作をまた30回確実に繰り返してみてください。
クズミチは私と一緒に後200回ね。」
俺たちは先生のアドバイスに従い各々の課題を進めた。