5話目 素焼き煉瓦と頭
「いえ、遊びに行くわけではなく、教会本山に一度帰りたいと考えています。
一度、親にも手紙を出したいと思いますし。
この間、妹からは絶縁場が届きました。あまり、音信不通だと本気で絶縁状が来そうで怖いです。」
「このところ、任務続きで、ろくに休みもなかったからね。一度、休暇を取ってくるのもいいかもね。
ただ、音信不通のままの方がご家族は幸せかもしれないわよ。」特攻隊長と運動してさっぱりした死神中隊長
「えっ、どうしてですが。
自分で言うのもなんですが、このところいろいろ活躍していると思うんですが。
誇れるとは言いませんが、なんかいない方が都合がいいと思われてしまうようなことはしていないと思います。」
「わかってねぇだろ。シュウ。
一度、門前町を見てこい。特に演劇場を。
そしたらわかる。わからんとだめだそ。ここは。」意味深なリンダさん
「同どういうことですか? 」
「この駄×4男ははっきり言わないとだめだと思うわ。
いい。今、門前町で、いえ、全人類で一番はやっている娯楽が何か知らないでしょ。
なんせ逃げ回っていたもんね~ぇ。
それはね、あなたとエリナの結婚式の演劇。"ダマ婚"て言うんだけど過去ダントツNo.1の演目だって。
同時発売の記憶玉はミリオンセラー間違いなしだし。
あなたたちの結婚式のシーンは全人類、もしかしたら魔族の一部も見ているかもね。
一応、記憶玉の方の登場人物は顔が修正されているんだけど、シュウ君の顔がヒーロー役としては平凡すぎるからね。
この顔修正が入って市場に出回っている記憶玉はver.1.xなの。
私も版元から卸ろして販売のお手伝いをしているわ。
しかし、顔修正の入っていない生のシーンの記憶玉のver.0.xが存在するの。
版元と言うのがリーナ様で、リーナ様からこのver.0.xを2本、シュウ君の実家に贈るように命令され、ほんとは嫌だったんだけど、リーナ様に逆らえるはずもなく直ちにその場で届けたわ。
リーナ様としては急なことで式に参加できなかったご家族にシュウのバカ姿、あっ本音が出ちゃった、もとい、晴れ姿を見せたかったんだと思うけど。
息子のアホ姿を見たご両親とご家族の心痛を察するとさすがの私も良心の呵責に耐えられないわ。」
「じゃ、妹からの絶縁場は兄弟の縁を切るという意味の絶縁状じゃなくて、俺がルーエンにいたことすらなかったことにするという、故郷全体からの絶縁と言う意味か。」
「そんなの来ていたんだ~ぁ。
まぁ、私もカメさんとver.0.xを見たけど、妹さんの気持ちが手に取るようにわかるわ~ぁ。
あんなのが身内に居たら耐えられない。
まぁ、エリナはかわいかったから、シュウのご家族としてはシュウはいなかったことにして、エリナが養女に来たような形を取りたいんじゃないかしらね~ぇ。」
「俺、ルーエンで存在しなかったことになっている? 」
「その絶縁場はそういう意味じゃないの。おそらく。
こんな魔族との戦場で逃げ回っていないで、真の戦場で戦っておくべきだったわね。
もう遅いけど。」所詮他人事の死神さん、
「戦士が戦いから逃げ回るということはそういうことだ。
負け犬ですらない。負けGだ。」いつの間にか冬眠から覚めて好き勝手なことを言う熊師匠
「まだ、間に合うわ。これから戦うのよ。私と剣で。」????な特攻隊長
「剣で戦うって、どうして特攻隊長と戦うんですか。」
「戦って、戦って、その先に清々しさを感じ、この程度のことで悩んでいる自分がばからしく思えるようになるまで戦うのよ。」
「そっ、そうですよね、このぐらいはなんて言うことはないですよね。
家族に故郷に絶縁されても。
さっ、エリナ行くよ。教会本山に。
もうなんも恐れるものはないんだ。」
「ええっ、行きましよう。私たちの崇高な結婚式を恥じることは何もないわ。
さっ、ソニア様も一緒に。」
「えっ、私はちょっと。急に指名すんな~ぁ。
あっ、でもむり、持病の癪と腰痛が。いかんせん年だから。
代わりに、そうだカロラ。
シュウたちの行く末を見届けてくれ~ぇ。」
「えっ、わたし。私はここで戦うのは問題ないけど、教会本山で一緒にいるのは、さすがにちょっとねぇ。
死神さんなら大丈夫じゃない。人枠から外れているから。」
「てめぇえ、なんていうことを。ちょっと表にでろや。勝負だ。」急に張り切りだす死神中隊長
「けちょんけちょんにしてやる。さっ、いざ勝負。」死神さんに軽くウインクする特攻隊隊長。
「じゃ、私たちも訓練に戻りましょうか。」良く事情が呑み込めていないが、特攻隊長と死神さんが模擬戦をするようなので自分たちも訓練を始めなきゃと主張するまじめなタイさん。
「「「「「「そうよね~ぇ、訓練に行きましょう。」」」」」」矛先が向かってくる前に死神さんたちについて行こうとするカメさん、最高司祭、おまけはチーム。
「俺も訓練について行くか。」剣を振り回せるところと酒のある場所が俺の居場所の熊さん。
「私はここ、第1803基地(仮称)で、私たちの駐屯地を整備しておくね。
ごゆっくり、お兄ちゃん、お姉ちゃん。デートを楽しんで来てね。
あっ、芦高さんも駐屯地の整備を手伝ってね。」
「きゅび。きゃぴ。きぴぴひ。」
「行ってらっしゃい。僕もここで頑張るって。」通訳さん
「じゃっ、2人で行きますか。その方が都合がいいし。」
「そうねぇ、そのほうがいいかもね。ソニア以外はまずいわよね。」
「こいつら、デートの邪魔がいなくなってほっとしているぜ。
これから起こる悲劇、違うな喜劇だな、を知らないということは幸せだぜ。」意味深なリンダ
俺とエリナは旅団のメンバーから離れて、祠の転移魔法陣を作動させた。
そしてそこは、見慣れた教会本山の転移魔法施設だった。
そこには口と目をこれ以上ないぐらい開いて、持っていた書類の山を足の上に落とした施設長がいた。
たっぷり10秒の沈黙の後。
「シュウ君だよね、シュウ君。
久しぶりに見たような気がするよ。君のうわさがものすごい勢いでいくつも駆け抜けていくので、もう何年も会っていないような気がしたよ。びっくりしたよ。」
"ひそひそ"
「はい、所属する旅団の演習に出発する前にお会いして以来ですから、20日ぶりぐらいですかね。ひと月は経っていないと思います。」
"ひそひそ"、"えっ、あれが。"
「その間に君たち旅団は3つの社を解放したんだね。
そして、第2軍団も一つ社を解放したので、ここひと月で4つも解放しましたか。
人類史上初かもしれませんね。おめでとう。」
"ひそひそ"、"えっ、まじか、噂通りの間抜け面だ。"
「ありがとうございます。
でも俺の力だけではありませんよ。
ここにいるエリナと旅団の皆、そして、第1、2軍団の力を合わせた結果です。」
"ひそひそ"、"見たか? あの演劇と記憶玉。ふつうは初めの4語で気が付くよな。"
"ひそひそ"、"筋脳はこれだから。いや筋脳に失礼だなこの場合。
煉瓦が入っているんじゃねぇか。素焼き煉瓦脳。"
"ぷぷふっ。
良く教会本山に戻ってこれたな。
俺だったら間違いなく50年は山の中の洞窟に引きこもるな"
"指さしちゃいけません。
目が合ったら素焼き煉瓦の脳が移るわよ。ものすごい感染性が高いと言う話よ。早く、いなくならないかしら。素瓦脳の人。"
「はははっ、気にしないで、人のうわさも75日と言うし。
まだ、2箇月残っているね。」
「あの、微妙に俺から離れて行ってません。」
「そんなことはないと思うけど、体が勝手に。」
「俺はここでどう思われているんですか。? 」
「「「「瓦素の脳の人、ガス脳君。もはや頭に固形物が入ってない。」」」」