5話目 ただひたすら駆けるもの
朝起きて、食堂の前でエリナと待ち合わせ。
「おはよう。」
「おはよう。シュウはよく眠れた? 」
「あっという間に。気が付いたら朝だった。
同室の人も疲れていたのか、二人で9時前には寝たんじゃないかな。」
「よく眠むれてよかったね。
私は教会関係者なので一人部屋なの。
ちょっと遅くまで、昨日のオーク殲滅の報告書をまとめてたの。ほとんはシュウが倒したんだけど、転写魔法の効果について簡単にまとめたわ。」
「チームなんだから2人で倒したのさ。役割の違いだよ。
今日も次の町を目指しながら、魔物を探そうか。」
「ふふふ。そうしましょう。
シュウと一緒の旅。ほんと楽しいわ。
ついこの前までは一人で旅していたので、つまらなかった。
とにかく早く魔物を倒して、本山に帰りたかったの。」
「俺もエリナと一緒で旅が楽しいよ。今日もよろしくね。」
「こちらこそ。」
二人で食堂に入ろうとしてら、例の司祭様に声をかけられた。
「おはようございます。」
「おはようございます。」「おはようございます。」
「神父様。もう戻られたのですね。本山でのご用事は済んだみたいですね。」
「何とか終わって、昨日の夜遅く帰ってきました。
リーナさん、いえ、あなたのお母様にお会いしました。
初めての一人旅で大変心配しておられましたよ。お手紙でも出されたらいかがでしょうか。
シュウ君がいるので転移魔法陣用の魔力に不安はありませんし。
私の方から簡単にあなたの昨日の様子をお話しさせていただきました。
シュウ君と非常に仲睦ましい様子をお話ししたところ、初めは驚いていらっしゃいましたが、最後は大変うれしそうにされていました。
シュウ君が本山に到着した折には是非お二人で訪ねてほしいとのことでした。
最後は何か婚約の儀の準備がどうとかおしゃっていましたが・・・」
俺、だんだん既成事実が積みあがって、這い上がれないくらい高い壁になってきたんだけど。
「・・・・そうね。婚約は大事よね。
世間に知らしめなければ、シュウの貞操を狙う不逞の輩が現れるかもしれないし・・・・・。」
俺の貞操って。
エリナが真剣な表情で、何か一人でぶつぶつと言ってるけど。大丈夫か。
「お引き留めして申し訳ありません。
朝食を召し上がってください。
できれば出発前に、魔法陣の魔力溜めを一杯にしていただけると助かります。」
「わかりました、出発前に転移魔法陣の部屋に行きます。」
俺たちは調理場の入り口で朝食と昨日約束した昼のお弁当を受け取った。
そして、テーブルに着いて朝食にした。
「昨日のオーク6体で課題の評価はAになりそう? 」
「うーん、微妙なところだわ、昨日の魔石を全部もらっても。
やっばり、魔族の魔石を取りこぼしたのが痛かったわ。」
「あれはしょうがないよ。一撃で仕留めるため、超過剰な攻撃だったんだから。」
「そうね。それじゃぁ、今日もまた魔物を探しましょう。」
「そうしよう。」
朝食を済ませ、転移魔法陣の魔法溜めを一杯にした。
その後、荷物を背負い宿坊の受付に顔を出し、出発する旨を伝えた。
その時、昨日の宿賃500バートが返ってきた。
町中を抜け、町に入った時とは逆の南門から出る。門番は偶然にもあの兵士だった。
「出かけるのかい。気を付けてな。」
「ありがとう。行ってきます。」
軽く挨拶して、俺たちは街道を歩き出した。
「魔物はいないわねぇ。」
「そうそう街道に魔物が出てきたら、他の旅人が困るよ。
焦らないで、ゆっくり探そうよ。」
「そうよねぇ。わかったわ。」
俺たちは雑談しながら、南の町を目指す。
このまま何もトラブルがなかったら、夕方までには次の町に着くだろう。
「漸く町から離れたようじゃのう。教会は息苦しくてのう。
妾にはこの自由な空気が必要じゃ。」
「お嬢様。いい天気でございますね。
ピクニック日和でございます。」
「ピクニックとな。それは良いな。
うーん、あちらの森の方に行ってみたいぞぇ。
これシュウよ。ちと、あちらに向こうてたもれ。」
ピクニックよりも魔物を探してほしいのだか。
昨日は仕事をしてないでしょ、おばちゃんたち。
今日は働いてもらうからね。
「しょうがないのう。また、魔物を引っ張ってきたらいいのかえ。」
そうそう、わかっているじゃないか。
夜は今夜も教会でじっとしていなきゃいけないんだから、おばちゃんたちは。
日中は仕事して体を動かそうよ。ボケるよ。
「妾にボケるとは何たる言い草じゃ。
シュウめ。
お仕置に特別な魔物を呼んでやろうかのう。
己の迂闊さを呪うが良いぞ。」
魔物を呼んでくれるんだ。
でも、またスライムだよきっと。
一昨日は魔族を直接呼んだのではなく、スライムをいっぱい呼んだら、最後に魔族が付いてきた感じだったから。
まぁ、運が良ければ今日もオーガくらい付いてくるかも。ちょっと期待しよう。
おばちゃんは、また、微量な魔力を向こうの森の方に放った。
また、エリナはなんか魔力を感じて、キョロキョロ周りを見渡している。
しばらくすると、地響きが。
魔物キター。おばちゃんやるなぁ。
今日はスライムじゃないよ。大型の魔物がたくさん。
よおーし、今日も魔物狩りだ。
さらに地響きが、土煙とともにこちらの方にやってくる。
何の魔物だ? 人の形をしているぞ。すごい形相だ。
人間ではないとするとなんだ。
あっ、足が馬だ。ケンタウロスか。
ケンタウロスの集団は俺たちの前を横切り、通り過ぎて言った。土煙がすごい。
おばちゃん魔物来たけど、すぐに行っちゃったよ。
おばちゃんの力は分かったけど、使えねぇ。
エリナなんて、口を開けて唖然としているじゃないか。
しかし、ケンタウロス半端ないな。全力で走ってるよ。
死んでも止まらないという感じだ。
俺は何か感動した。
変な邪の考えもなく、ただひたすらにまっすぐ走る。ただひたすらに。
俺はその純真さに感動した。
「あれは、メスを追いかけるオスのケンタウルスじゃな。
発情期のメスを追いかけるオス。
魔物も本能のままに生きるのじゃな。」
「お嬢様。春でございますから。繁殖の季節とはオスを狂わせる季節かと心得ます。」
えっ、メスを追いかけているだけなの。ただの発情期なの。
己の可能性を掛けて、ただひたすら駆け抜ける美しき生きる姿じゃないの。
俺は打ちひしがれた。もう立ち上がれない。
「魔物も好きな人をひたすら追いかけるものなのね。」
おおっー。美少女様だけは世の中の穢れを知らず、ただただ純粋な生きる力を信じていらっしゃる。
女神さま。俺はついて行きます。その目指す聖地まで。
今日、魔物は狩れませんでした。
俺たちは夕方、次の町に入り、地元の教会に宿をお願いに行くのでした 丸