今さら遅いけど、●●●の懺悔の部屋へようこそ 私は2人目
「 ようこそ、おいでくださいました。
まだ、遅くありません。悔い改めなさい。
この部屋にはあなた以外、誰も入れません
それではおひとりで、神に祈りをささげ、己の黒歴史を余すことなく白状しなさい。
それでは後程。」ガチャッ
私はリーナ、第4軍団の事務総長をしております。
人は私を魔王とか教会本山と軍の裏の支配者と噂をしておりますが、軍の業務を終えれば普通の主婦で、普通の一児の母と思っています。
13歳の娘が、ほんとにあの人の子供とは思えないほど素直で美しい娘になりましたけど、まぁ、私の娘ですもの当然です。
その娘がどうしようもなく好きな人ができたと言ってきました。
職校の課題をこなすための旅先で偶然出会った、聖戦士職校の入学試験のために修行の旅をしている少年だそうです。
一緒に旅をするわずかな時間で、彼のことが自分の命と思えるほど好きになってしまったとのことでした。
13歳といえば大人と子供の丁度狭間の時期。
揺れ動く心に戸惑うことも多々ある時期です。
でも、娘はシュウ君でなければ一生結婚しないし、できないと一途に思いつめておりました。
一時期はこちらが心配になるほど彼との恋に悩んでいる様子を手紙で伝えてきておりました。
私も職校の課題の旅ですので、よほど危険な区域に立ち入ろうとしたり、どうしようもないトラブルに見舞われていない限りは親が手を出すことはしまいと考えていました。
でもね、あまりに娘が悩む様子に現地に飛んで、抱きしめて落ち着かせて、一緒に彼を篭絡しようかと思いました。
しかし、彼と旅を進めるうちに急に彼に頼る姿から彼と一緒に歩んでいくことを考えるようになりました。
しかも、その後も娘の彼に対する愛情は薄まるどころがますます燃え上がっていきました。
その愛情の火は業火というより冬に部屋を暖める暖炉のような柔らかく暖かく彼を包むように、そして衰えることを知らないような火となっておりました。
このように娘が子供から豹変し、大人の女性に変身したのは親としてうれしいやら悲しいやら。
そして、娘と彼は偶然ではありますが二人とペット? の力だけで半世紀ぶりに魔族から社の奪還と解放という偉業を達成したのです。
でも、それを知らせに来た娘は凄く焦っていました。
祠の解放の方法がわからない。このままでは彼の願い、彼が願う人々が安心して暮らせる領域を広げられない。
そして、ここが良く分からなかったのですが彼をおっぱいに取られちゃうと泣きながら私の執務室に飛び込んできたんです。
私はパニックになり掛けた娘を抱きしめ、問いかけました。
「エリナはどうしたいの。」
涙ぐむ娘は息を切らせながら呟いたわ。
「お母様、私に祠を解放する術を教えて。そして、シュウを私のものにするすべを教えて。」
私は娘の初めの方の願いが何を意味しているのかよく理解できませんでした。でも、二つ目の願いはなんとなく察せられました。
まずは一つ目の願いを知りたいと思い娘に問いかけました。
「祠を解放するって、どういうことかしら。ちゃんと話してくれればきっと力になれるわ。」
「お母様、ごめんなさい、きちんと話すわ。
これは人類の運命の転機に関わることなの。」
何を大げさなことをこの娘は言っているのか、この年頃にありがちな現実と願望のはざまの出来事を言っているのかと疑ってしまいました。
しかし、次の娘の言葉で私は心臓が止まりそうになりました。
半世紀もの間にだれも成し遂げられなかったことを、こんな小さな娘とその婚約者たち3人で成し遂げたとは。
いまだに信じられません。
いまだに娘の願いを聞いたあの時を思い出すと動悸が激しくなり、激情にかられ、「エリナ、よくやったわ」と叫びそうになります。
「お母様、落ち着いて聞いて、私もできるだけ落ち着いて話すからね。
今日、今しがたなんだけど、シュウと芦高さんが魔族1個師団を壊滅させ、緑の魔石を奪取し、魔族から社を解放したの。
祠を祭壇に祭るために魔力溜施設から祠をもらってきたんだけど、私は祠の開放の仕方を知らなくて、だからお母さまにお聞きしようかと思ってここに来たの。
早く、祠を、早く、その転移魔法陣を人類側に引き寄せないと・・・。」
「たった3人で魔族1個師団を壊滅させ、その上、社を解放したというの。」
「そうなのでも、早くしないと。」
「事情は分かったわ。さっ、行きましようか。その解放した社に。今すぐ。」
「お母様が一緒に行ってくれるの。お仕事は終わったの。」
「もちろん。これはあなたの母としてだけでなく土属性魔法術士の使命なの。
祠の開放はわたしたち土魔法術士でないとできないの。
エリナ、よく真っ先にここに来たわね。正解よ。
そして、最も優先すべき使命を私に与えたくれたあなたに感謝するわ。
さぁ、行きましょうか。」
取るものも取らずにシュウ君が待つ転移魔方陣施設に急いだわ。
そうして、行く途中でもう一つの願いの詳しいことを聞いたの。
例の戦勝記念館を建立した建築家の一族のお嬢さんがシュウ君を誘惑してお婿さんにし、戦勝記念館から常勝記念館にすることを一族を挙げて画策していることを。
確かに、これまでの経緯を考えるとあの一族にも同情すべき点は多々あるわ。
でもね、あの子は、シュウ君はダメなの。モニカの子をそんな一族の道具になんてさせない。
好きなら堂々とエリナと渡り合って、シュウ君を奪い合いなさいと言いたいわ。
でも、シュウ君を利用して一族の名を上げるなんて私が絶対に許さない。
その祠の開放も大事だけど、エリナとシュウ君の将来の方がもっと大事なこと。
私は一つの決断をするために、エリナの覚悟を聞いたわ。
「エリナ、シュウ君と一生添い遂げる、いえ、そんな聴き方は何の意味もないわね。YESというだけだもんね。
シュウ君と一生添い遂げられるように常に努力できるの?
そして、シュウ君の志をエリナの志としてそれを成し遂げるために二人で一生努力できるの? 」
「もちろんよ、お母さま。
私たち二人は日頃からその志を語り合い、どうしたら成し遂げられるか話し合い、そうして、そうなるように努力を欠かしていないわ。」
「なるほど、うふふふっ、子供と思っていたけれど、いつの間にか愛する男と一緒の道を歩み始めているのね。
親としては、ちょっと寂してけど、もう一人立ちしたのかもね。
でもね、親子の縁はどんなにいやでも一生切れないわ。
だから親はいつまでも子供は子供として扱っちゃうの。
今日は独り立ちしかけたその子供が頼って来たから、母さんは張り切って手伝ってあげる。
エリナ、覚悟はいいの? 」
「何の覚悟を聞いているのかはわからないけど、私とシュウのことを聞いているのなら、どんなことでもどんなことになろうとも、二人が引き裂かれるということ以外のすべてに覚悟はできているわ。
できるかどうかはわからないけど、やり遂げる覚悟はあるわよ。お母様。」
「わかったわ、それを聞いて、母さんも全力で二人を添い遂げさせてみせましょう。
今から丁度、半世紀ぶりの新しい教会の開設を行うところ。
さて、教会の重要な役割はな~ぁにかなぁ~。
はい、エリナちゃん答えは? 」
「もちろん、結婚式。」
「正解よ。今からあなたとシュウ君の結婚式を挙げてあげるわね。
半世紀ぶりに建立した新しい教会の初の行事が我が子たちの結婚式だなんて、なんてドラスティックでロマンチックなのかしら。
教会本山の門前町の劇場に台本のアイデアを売ったら、結婚のお祝いに新婦さんのへそくりとして全部プレゼントするね。
大ヒットのロングラン公演になれば新築一軒ぐらい買えるよ。」
「ほんとなのお母様。
シュウと今日結婚式を挙げられるの。
これで、誰に気兼ねすることなくシュウの隣を堂々と歩いて行けるわ。
誰にも邪魔されず。」
「ただし、一人前になるまでは別々に暮らすのよ。
母さんもまだ、おばあちゃんと呼ばれるのはまだもうちょっと覚悟かいるというか。
お父さんなんて、孫ができたなんて言ったら魂が抜け出ちゃうかもしれないからね。
結婚したことは、母さんがちゃんとお父さんを説得してあげるからね。
ブヅフツ言ったら、離婚よと言ってやればいいわ。」
「でも、私たちの結婚のことでお父様とお母様でもめるのはちょっと嫌だわ。」
「子供は親のことなんて気にしないの。
自分の道をまずは一所懸命に歩みなさい。
その一所とはあなたたちの新しい家庭のことよ。新しい家族を一番に大事にしてね。
さっきも言ったけど、親子の縁は一生切れないわ。
でもね、夫婦の縁はね、努力しないと簡単に切れてしまうわ。
じゃもう一度聞くわ。覚悟はいいのエリナ。」
「はい、シュウと新しい家族になって、一所懸命をすることを誓うわ。新しい祠に。」
「さぁ、転移魔方陣の施設が見えてきたわ。
あの扉があなたの未来への扉よ。
堂々と扉を開けて、シュウ君にあなたの覚悟を見せなさい。」
「はい、お母様。」
そして、まんまと開放したての新しい祠で結婚の誓いを述べさせることに成功したわ。私の一人勝~ち。やったわ。
シュウ君は最初は目を白黒させていたけど、結婚式の意味を私が言わずとも悟ったみたい。
新しい家族の縁は結ばれたわ。
おめでとう、エリナ。
おめでとう、シュウ君。