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12話目 動かないって言ったわよね、この転移魔方陣

俺が目を覚ましたのは日が傾きかけたころだった。

何か頭が重い。

何かに取りつかれたように。

何だっけ。何か重要なことが頭から抜けているような。

まぁっ、いいか。


俺は簡易キャンプを抜け出し、周りを見渡した。

向こうで、エリナとタイさんがお玉を振っている。

そういえば腹減ったなぁ。

二人そろっているということは、期待できそうだな。

よし、人類社解放記念豪華キャンプ飯だ。


「よく眠れた、シュウ。」

「なんか頭が重たいけど、体は軽いから寝たんじゃないかな。

徹夜後だから、頭が重いのは仕方ないけど。


夜はまたちゃんと寝るよ。


エリナとタイさんはちゃんと寝たの、お玉を振ってたということは料理をしていたんでしょ。」


「二人とも今起きたとこですわ。第312連隊のお昼の残りのスープをいただいたので、温めているところですわ。

この時間だと今日の3食分を今食べるということになりますわね。」


「メニューは何ですか。」

「メニューは肉野菜スープとパン、串焼き肉、サラダとヨーグルトよ。」

「串焼き肉とヨーグルトが付いているということは豪華キャンプ飯ですか。」


「串焼き肉は私だけだって。

昨日はお疲れ様だって、連隊長が食事を持ってきてくれたときに言われたわ。


ほんと昨日は疲れたわね。マラソン。ひどいわよね。

まさか、足が痺れたまま走らせられるとは思わなかったわ。」


「でも、死神の鎌を振り回されたら必死に逃げないと首がチョンでしたわ。

中隊長の目が座っていましたもの。あれは本気でしたわよ。」


「まったく、擦り傷と打撲だらけよ。その上、走っている途中はヒールをかける余裕はないし。

あっ、タイさん、傷の方は大丈夫ですか? 」

「はい、寝る前に乙姫さんからヒールをしてもらいましたから、全快ですわ。」


その時、すっと白い紙がタイさんの目の前に落ちてきた。

俺はお玉を持ったタイさんの代わりにそれを拾い上げる。何か書かれている。


" 請求書 タイ様

昨日のヒール代 0バート

深夜割増手当 200バート

龍宮治療院 院長 乙姫 "


ヒール代の請求書だった。


正確には軍の作戦なのでマラソンで負ったケガのヒールは当然無料だか、治療したのは作戦終了後で、なお且つ徹夜明けの早朝だったので深夜手当が要求されている。


これは凄い。制度のわずかなスキを突く芸の細かさだ。

さすがは守銭奴教の最高司祭なだけはある。

ここまで、厳格な経費管理をしているとは。


「タイさん、治療の請求書でした。」

「あらあら、深夜手当ね。しょうがないわね。

いま、手持ちがないので寮に帰ったら払うわ。」


「払うんですか。軍の作戦なのに。私はただですよ。


シュウにヒールしたらお金を払いたいぐらいです。


まぁ、その時はヒール後に抱きしめてもらうことが条件になりますが。」


それって、ヒールとは関係なくない?

抱きしめるとお金がもらえるということなの? 俺ホスト?


ところでホストって何?

突然思いついたんだけど。誰か知ってる?


「まぁ、こういうことはきっちりしておきませんと。親しき中にも何とやらと申しますし。」


その時に後ろで隠れて様子を伺っていた乙姫さんがスキップをしながら、満面の笑顔を浮かべて近づいた来た。


「悪いわねぇ。

仲間から費用を取るのはどうかと思ったけど、深夜の業務だとお肌がガサツくから、やっばり、何らかの保証は必要と思うのよね。


じゃ。寮に帰った折に。ありがとね。」


「さぁ、食事にいたしましょうか。」

「やったぁ。ご飯だ。昨日から、何も食べてないのよね。今日は何かしら。」


乙姫さんがトレーを持って食事の配給を待っていると、カメさんが何やら紙をトレーの上に置いた。」


「これは何? 」


「タイさんからの伝言だって、今、代筆を頼まれたんだ。いったい、君は何をやらかしたんだ。


タイさんがこんなことをするなんて、普通はありえないからね。

ものすごく怒っていると思うよ。覚悟しとくんだね。」


「えっ、ちょっと待って。」

乙姫さんはトレーの上にもらった紙を広げた。

俺は気になったので、肩越しにその紙を覗いてみた。


" 請求書 乙姫様

昼食代 0バート

串焼き肉、ヨーグルト代 0バート

昼食再調理代 100バート

昼食給仕料 100バート

特別料理再調理代 150バート

特別料理給仕料 150バート

合計 500バート

第108独立旅団私立調理班 エリナ

タイさん

尚、即金でないと給仕できません。 "


あっ、そうと怒っているな、タイさん。

即金でないとご飯抜きだ。


昨日の昼から何も食べていない若者に、焼肉の香りだけでお腹を満たせと。

普通であれば鬼の所業だな。

でも、先ほどのことがあるから乙姫さんは自業自得。


「うえ~ん。ごめんなさい。ヒールの深夜手当なんてもう二度と請求しません。


だから、ご飯をください。


タイ様。タイ様は魚の王様です。

乙姫なんかよりずっと偉いんです。だから許して~ぇ。」


タイ様はふっと笑って、だまって乙姫さんのトレーに肉野菜スープの入った器を置いた。その中身はみんなよりお肉が多めだった。


タイ様はやっぱり優しいや。

俺たちの指揮を執っている凛とした顔も素敵だが、このように皆を慈しむ顔も素敵だなぁ。


とうっとり眺めていると、隣にいたエリナは当然、大福に。

そして、俺の野菜スープにはキャベツの芯しか入ってなかった。


エリナちゃ~ぁん。ごめんよ。そんな、恋愛感情でタイ様を見ていたわけじゃないんだよ~ぉ。


なんか、お姉ちゃんのように見えたんだよ。あっ、俺に姉はいないけどね。


しかし、キャベツの芯をこんなにどこら集めて来たの、エリナちゃん。


「なんてね、これは乙姫さんが素直に謝らずにお金を払おうとした場合に出す予定のもの。


私の大事な旦那様にこんなキャベツの芯ばかりを食べさせるわけがないじゃない。シュウのはこっちよ。」


俺のトレーの上に肉だけが山盛りの肉大盛り汁わずかのスープが乗せられた。


「キャベツの芯と一緒に食べてね。」


やっぱり怒ってる~ぅ。絶対、おこってる~ぅ。


「今日は食事の後に礼拝をしに、新しい教会へに行ってみましょう。

まだ、みんな見ていないんでしょ。新しい教会。」礼拝大好きタイさん


「そうだね。魔力が満タンだから、魔力溜めのアルバイトもしたいし。

第312連隊でまた、250バートで買い取ってくれないかなぁ。」


「大丈夫みたいよ。魔力溜が少なくて、十分な資材を運べないと言ってたから。」乙姫さん


「そうなんだ。エリナの機嫌を取り戻すために稼がなきゃ。」


「1基300バートで交渉がまとまったら、マージンとして30バートくれない。龍宮商会が責任を持って交渉するからさ。」

懲りない乙姫さんがいた。


早めの夕食の後、ソニアの案内で俺たちは新しく解放された社に来た。

既に祭壇に祠も設置され、教会としての役割を負っているようだ。


礼拝に来たなら、教会じゃないとまずいもんね。


ここの社は他のところとちょっと違うような気がした。

どこだろう。


祠と祭壇、転移魔方陣。周りには多数の魔力溜。


ここの転移魔方陣は12基と、隣の部屋にもう一つ4基の見慣れない文様の転移魔方陣が設置されていた。


4基の転移魔方陣と言えば人が5人も入ればいっぱいになってしまう。


「ソニア、隣の変な転移魔方陣は何。」

「それがわからないの。何度も魔力溜を一杯にして魔方陣を作動させてみたけれど、うんともすんとも言わないの。

でもしっかりと魔力は吸い上げているのよね。


何なのこの子(転移魔方陣)は。訳が分からないよ~ぉ。」

んっ、何か声がわざとらしい。知らないふりをしているような気がした。


まぁ、頑張っても何にも起らないので、スネているだけかもしれないな。


俺は祠の前での礼拝もそこそこに、隣の作動しない転移魔方陣がある部屋に来て、いろいろ見て回った。


特に変わったところはないなぁ。


「そうじゃよ。きっと、壊れた転移魔方陣なのじゃ。

こんなところはほっといて、今までいた居心地の良い元の何だ、第1082基地に帰ろうぞ。


あそこの元幹部用宿舎は日当たりも良く昼寝には最高じゃ。

さっ、さっ。粉辛気臭いところは止めて元のところでエリナにおいしい夜食でも作ってもらったらどうじゃ。


そうしようぞ、そうしようぞ。」


おばちゃん何を必死に俺をこの部屋から遠ざけようとしているの。超怪しいんだけど。


「そんなことはないのじゃ。いたって普通じゃ。

まぁ、よいわ。シュウがここが気に入ったというなら、ここに好きなだけおればよいのじゃ。


妾は職校寮に帰って、日向で昼寝をするのじゃ。

じゃさらばじゃ、シュウ。」


えっ、勝手に行っちゃうの。


その時だった。作動しないはずの転移魔方陣が淡く光った。


「シュウ、どうしたのこんな壊れた・・・・、あれ、作動しているね。

この魔法陣。

シュウじゃ発動できないから、誰が・・・・・」

ぴかっと光って、俺とエリナは知らん居場所に転移された。


この壊れたと思われていた転移魔方陣が設置されている部屋の隅には小さな、本当に手を洗うだけが精一杯の泉があった。


社の解放当初は泉に水はなかったが、シュウとエリナがこの変な転移魔法陣の設置してある部屋に入った直後からわずかづづ、水がたまっていったことを誰も気づかなかった。


まして、泉ががいっぱいになったとたんに転移魔方陣が作動したことは転移されたシュウもエリナさえも気づくことはなかった。


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