11話目 後ろにいるのは誰?!
離れたところで休憩していると、後ろの方で大魔法が発動するのが聞こえた。
「おそらく、第2軍団からの渾身の一撃だな。自分たちで魔族を倒したという自己主張みたいなもんだな。
まあ、それで俺たちを追いかけてくる魔族の残党がいなくなることはいずれにせよありがたいことだ。」特攻隊長
「さっ、帰りますか。徹夜でお肌が荒れた分の御代は後でじっくりと第1軍団と第2軍団から取り立てますよね。」
「もちろんだ、来週のお見合いがうまくいかなかったら、全てこの徹夜のせいだ。その償いはしてもらうぜ。」
ぼそぼそ、俺「特攻隊長のお見合いがうまくいかないのはお肌のせいなのか。」
ぼそぼそ、カメさん「万が一にそれが理由の場合も考えられるけど、原因の大部分は本人の性格がガサツなせいだと思うよ。
普段はスーツ姿でできる秘書を装っているけど、3分話すとわかるよ。本性が。
ガサツな性格が、たまたま、お肌に出て目立ったんじゃないかな。この間のお見合いは。」
ぼそぼそ、俺「性格がお肌に出るほどガサツなのか、特攻隊長は。ある意味すごいな。」
ほそぼそ、リンダ「人のことは言えねぇが、俺もガサツだと言われるけどよう、俺はみんなより繊細だと思っているぞ。
例えば、知らない家じゃ夜中に怖くて一人でトイレに行けねぇしな。」
ぼそぼそ、俺「夜中にトイレに行けないのが繊細なのか。」
ぼそぼそ、エリナ「繊細とはちょっと違うと思うけど、知らないお家で夜中に暗いトイレに一人で行くのは怖いわよ。
私は旦那様を誘って行くから良いけど。」
ぼそぼそ、カメさん「つまりこれまでの話をまとめると、夜中にトイレに行くときに一緒について行ってくれる男がいないのがガサツな女性なのか? 」
ぼそぼそ、俺「なんかちょっとだけずれている気がするが、それで今までの話の流れが繋がっているのは多分間違いない。
敢えて言うなら、説明が逆だ。ガサツだからトイレに行ってくれる男性ができないが正しい。と思う。」
ぼそぼそ、エリナ「じゃ、シュウのいる私は繊細な乙女でLAね。」
ぼそぼそ、俺「もちろんだ、エリナ。」
ぼそぼそ、リンカ「ちょっと待って。一部訂正した方が良いと思うわ。
旦那がいる時点で、世間では乙女と認めないと思うわ。」
ほそぼそ、リンダ「じゃ、俺と特攻隊長はガサツだけど乙女ということだな。エリナは繊細だけど乙女ではない・・・・・、わかった、若おばちゃんだ。」
「わたし、おばちゃんじゃないもん。特攻隊長の半分も生きていないもん。
特攻隊長は似非乙女よ、本当の姿はおばちゃんだと思うもん。」
ほそぼそ、俺「エリナ声が大きいよ、それにNGワードが。」
ぼそぼそ、エリナ「ごめん、つい、おばちゃんに反応しちゃったわ。この中じゃ、シュウと一緒で」
大声、エリナ「一番若いのに。」
「「「「「シーッ。聞こえるわよ、本物のおばちゃんに」」」」
ぴきっ、ビキッ、ぴきっ。
何かが割れる。
カロラさんの美しい聖女のような微笑みが。
真っ二つに割れる。
普段は押しこめていた素直な自分が叫び声を上げるために。
ほんとの私はこんなんじゃないの、御淑やかな、美人秘書じゃないの。
いつも、皆に見せている微笑む私は偽りなの。
もう、これ以上偽ることはできないわ。
それは、もう神への冒涜だもの。
さぁ、皆、ほんとの私を見てちょうだい。偽りのない、生まれたままの私を。
「おめぇ~ら、全員、ここに並べ。殺ってやる。」
「「「「「逃げろ~ぉ、大魔神様が、お怒りじゃ。」」」」」
その後、シュウたちがどうなったか知るものはいない。だだ、戦場に吹く風のみが彼らの結末を嘆いているだけだ。
「ごめんなさ~ぃ。もう二度と、カロラ様をガサツ者とは言いません。」
「あぁん、ダメガメ、もう一度言ってみろ、ボケ。」
「ごめんなさ~ぃ。もう二度と、カロラ様をおばちゃんと言いません。」
「あぁん、エリナ、年が一番若いなんてのはあと半年なんだよ。すぐに職校に新入生が入ってくんだよ。そしたらてめ~ぇもおばちゃんだよなぁぁぁぁぁぁ。」
ぼそぼそ、俺「ある意味安心したな。カロラさんはやっぱり特攻隊長だよ。淑女なんて似合ってないよ。普段もスーツを止めて特攻服にすればいいのに。
その筋の人には大もてだと思うけどなぁ。すぐにでき婚できるよきっと。」
ぼそぼそ、リンダ「わかっていてもできねぇから、苦労してんだろ。きっと。
バリキャリにコンプレックスがあんだよ。
以前、他のバリキャリに男を取られたとか。
まあ、人それぞれに生き方を変えたい切っ掛けというものがあるもんだぞ。
ところでよ~ぉ。この頃の姉御はカメさんが絡んでくると妙にうきうきしてると思わねぇか。」
ぼそぼそ、リンカ「そうだね。やたらとカメさんにちょっかい出すし。この間なんか裏拳でトイレのドアまで吹っ飛ばしていたわよ。」
ぼそぼそ、エリナ「その絡みは今の話とはずれていると思うわ。でも、よくカメさん生きていたわね。」
タイさん「それは愛の力ですわね。奇跡を呼ぶ、愛の力。」
ひそひそ、リンダ「なんか厄介そうな天然さんが登場したぞ。」
ひそひそ、俺「視点を斜め横にするとタイさん言っていることが良く理解できると思うよ。
きっと、素晴らしい哲学的なことを言っているはずだよ。
でも、俺は何故か目が痛くて横を見れないので、言っていることが理解できていない。」
エリナ「さすが私の旦那様です。すべての方のいいところを瞬時に見極めて、褒め称えるとは。
う~ん、改めて惚れ直しちゃいました。きゃっ。」
特攻隊長「きゃっ、じゃねぇだろうが、もっと現実をみろ。
旦那をちゃんと教育しないと浮気されて泣くことになるのはてめぇだぞ。」
ぼそぼそ、カメさん「エリナは旦那さんの心配。心配する人すらいない特攻隊は・・・・・、悲しス。」
カロラ「いつもいつも、てめぇは言ってはならんことを。
そこで首を晒せ、ぶったぎってやる。」
ほそぼそ、俺とエリナ「ガサツな上に乱暴者だった、特攻隊長。
やっぱりスーツはやめて本性出した方が良いと思う。無理するとストレスでお肌が荒れるよ。
あっ、元に戻った。ここからルーティーンが始まります。以下略。」
ぼそぼそ、乙姫さん「首を切った後は当龍宮葬儀社に、ぜひ、葬儀をお任せあれ。
極上コースでは格安で独身男の後継人をご紹介いたします。」
特攻隊長「マジか、男付きなの? 」
ぼそぼそ、乙姫さん「お嬢さん、さすがお目が高い。数ある葬儀社の中で当社をご指名なさるとは。それでは、早速採寸を。
で、となたですかなこの棺桶に入るのは。」
土魔法で棺桶作ったよ、この人。仕事早。
「こいつだ~ぁ。」
「もうすでに首がありませんが、カメだけに。・・・・ひっこめた? 」
徹夜明けと戦闘の勝利で俺たちは異常なテンションだったのかもしれない。
隠密作戦のはずが、戦場脇で大騒ぎ。
その後、死神中隊長に特攻隊長を含めて全員正座で叱られました、小一時間も。
そして、そのまま昨日の午後設置した本部(仮)に駆け足で帰る行軍命令が死神中隊長より出されました。
痺れた足でまともに走れるはずもなく、大ゴケする者が続出し、全身、傷と草と泥まみれ。人か泥人形か見分けがつかない有様に。
これで隠密行動がとりやすくなりました。
ぼそぼそ、特攻隊長「これから行ってくっか~ぁ、第2軍団の最前線に。
ゾンビだぞ~ぉ、って、からかいに。」
昨日は午後から魔族師団と2度戦い、徹夜でここまでマラソンして帰って来た。
いくら若いからといっても、もう限界である。
「おかえり~ぃ。お兄ちゃん、作戦はどうだった。」
「ソニア、ただいま。何とか目的を遂げたぞ。そっちばどうだ。」
「私たちも社を見つけたよ。そして、解放したところ。今、第21師団と交代で第1師団が来たところよ。」
「そうか。解放したのはもちろんソニアだよな。」
「そうだよ。生きているうちに魔族から社を解放できるなんて思わなかったよ。
先の大防衛戦で先に人生最後の川を渡って行った戦友たちに報告してたところだよ。」
「それはみんな喜んでいたと思うぞ。いいことしたなぁ、ソニア。」
「さっきなんて、私の代わりにファイヤーランスの直撃を食らって、灰すら残らなかった元隊長によくやったと褒められたよ。」
「へぇ~、それは良かったな。夢でも大事な人に会えて、褒められて。
よっぽどその人のことが気になっていたんだなソニアは。
今更夢で見るということは。」
「お兄ちゃん、何言っているの、後ろにいるよ。
隊長、お兄ちゃんが帰って来たよ。
さすがお兄ちゃんだよ。
向こうの作戦もうまくいったって。」
おれは後ろを振り返った。誰もいない。
誰もいないんだよ~ぉっ、俺の後ろには。
えっ、ええっ。
「ソニア後ろには誰もいないけど、誰に話しかけているんだ。」
「お兄ちゃん、大丈夫? 戦闘と徹夜のマラソンでがおかしくなったんじゃない。
後ろにちゃんと隊長がいるじゃない。」
「そっ、そうだな。きっと俺疲れて目がかすんでいるんだよな。ちょっと休んでいいか。」
「あっ、あっちに簡易キャンプの用意があるよ。今、クリーンを掛けてあげるからちょっと休んだら。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。ソニア、お休み。
よく頑張ったな。」
「お兄ちゃんも。お疲れさま。」
もう何も考えまい。
きっと、俺が疲れているんだ。
きっと疲れているんだ。
そうだ、きっと疲れているんだ。
俺は簡易キャンプの寝袋で休むことにした。でも、震えと冷や汗が止まらない。
そうだ、ここはヒツジを数えよう。
ヒツジが一匹、ヒツジが2匹、ヒツジが・・・・・、・・・・34匹、お化けが35匹、お化けが36匹、お化けが・・・・・zzzzzu。
「何で羊じゃなくてお化けを数えて寝れるんだこいつは。」うるさいさん