8話目 緑の魔石と白い魔石
俺の慢心がゆえに招いた致命的な危機について反省していると,龍宮チームがやって来た.
「今日も完勝のようだね.反撃する余裕のある魔族はこの一帯に見当たらないよ.」カメさん
「まずはお疲れ様.完勝おめでとう.
完勝に浸っているところ,早速で,悪いんだけれども,もうすぐ暗くなるわ.
今やれるべきことを終わらせましょう.
カメさんは中隊長に現状を報告.
エリナは敵の残存部隊と緑の魔石と魔族の社の探索
シュウ君と芦高さんはその護衛.
乙姫さんはここにトーチカを作ってもらって,ここを仮の本部とします.」タイさん
「残存部隊はこの周辺にはいないようなので,魔石の探索行います.
芦高さんにも手伝ってもらいますね.」エリナ
「芦高さん,それでは魔石の探索をお願いします.護衛は・・・,必要ないですね.
転写魔法が切れる前に本部に帰ってきてください.」
「きゅぴ」
通訳さん,芦高さんにまた生き残りの魔族の回収を頼んで.離れた場所にぐるぐる巻きにして置いてって伝えてくれないかなぁ.
「伝えたぞ.わかったって.今回は緑の魔石を探索する口実があるから堂々と探し回れるってよ.」
ありがとう.
「ところで,シュウ,油断するなよ.
今回はマジでやばかったぞ.相手も生き残りに必死なのを忘れんなよ.
相手を卑下することはそれを相手にしている自分も同時に軽く見ているのと同じだぞ.
お前の命は軽くないぞ.少なくともエリナと俺たちにとってはな.」
ありがとう.今回はどうかしていたよ.
トラブル体質かどうかばかり気になって,一番大事な生き残ることに最大限の努力をすることが頭になかったのだと思う.
「わかりゃあ.いいんだよ.芦高がもう行くって.
芦高も心配してたからな.後で,ちゃんと謝っておけよ.」
まじで油断しているとペット以下の扱いになりそうだ.
さぁ,エリナと緑の魔石を探しに行こうとしたときに,丁度,死神さんたちと連絡が付いたようだ.
「こちら第3小隊と龍宮チームです.」
「はい.魔族約1個師団を壊滅させ,緑の魔石と社の探索に作戦行動を更新しました.」
「はい? 伝えます.理由は後で中隊長から皆に伝えてくださいよ.」
「はい.約40分で到着ですね.それではそれまで休憩を取ります.」
「はい.シュウが大丈夫なら.動けると思います.」
「はい.炎属性魔術師がタイさんしかいないのでこれからの行動に支障が出るかもしれません.」
「はい.問題なく行動できます.
行軍中の主力を芦高さんにして,進むということですね.
わかりました.それでは,お待ちしています.」
「死神中隊長は何だって言ったの.皆に伝えてくれるかしら.」タイさん
「それでは中隊長の指示を伝えます.
まずは,敵部隊の発見と,殲滅について礼を言う.
次に,第3小隊及び龍宮チームは敵残存兵力を警戒しつつ,その場で休憩.
携帯食を摂取しておくこと.
旅団本体と第21師団は後40分で到達する.その後,1時間の休憩とする.
旅団の第2小隊と第21師団は緑の魔石と社の探索.
見つけ次第に第2小隊が解放.そのまま,ここの領域の警戒に入る.
第2小隊以外の旅団メンバーは直角に右に曲がり,第2軍団の最前線付近にまで行軍.到達を2時間後と想定する.
行軍は暗くなるだろうが光を使わずに芦高さんの先導で,風魔法術士が芦高さんに合わせて行軍できるように全体を誘導.指示は第1小隊長が出す.
目標地点到達後,第2軍団が交戦中,または,交戦を開始したら龍宮チームの指揮の下に第3小隊が敵師団に向けて雷属性フィールドを展開し,敵の戦力を削ぐ.
それ以上の第3小隊の攻撃は第2軍団が劣勢に立った時とする.
敵部隊の殲滅を確認したら早急にここに戻ってくる.
以上です.」
「ちょっと待ってよ.ここの解放はソニア様たちだから問題ないけど.
第2軍団の方は完全にお手伝いで,しかも何のお得感もないわ.
そんなのシュウ君がゆるしても,我が主神の守銭様が許さないわよ.」
「その辺は軍全体のパワーバランスのコントロールというものを考えているんだよね.
不満があるのはわかるけど後は死神中隊長が説明してくれるって.
これは戦術レベルではなく戦略レベルの話なんで,僕は理解できているんだけど,普通ならばかなり混乱するかもね.」
「とりあえず,休憩にしませんか.これから夜の行軍なんですよね.」
「シュウ君の言う通りたわ.
見張り番は龍宮チームで.
もう一戦あるかもしれない第3小隊は食事と休憩に努めて.」
「わかりました.エリナ,芦高さんには見もう少し魔石の探索を頼もう.
体力はやっぱり魔物だからね.」
「芦高さんなら問題ないと思うわ.芦高さんの足手まといにならないように私たちは食事と休憩にしましょう.
タイさん,お湯を沸かしてもらってもいいですか.
夜の行軍なんで,体を温めておいた方がいいと思います.」
「お湯を沸かすわね.芦高さんが持ってきた荷物はどこに行ったのかしら.」
タイさんは芦高さんに預けた荷物からやかんを引っ張り出し,エリナに水を入れてもらって,ゆっくりと炎を当て始めた.
各自のコップに粉末状のスープを入れ,お湯を入れれば携帯スープの出来上がりだ.あとは奇妙な味のビスケットで携帯キャンプ飯の出来上がり.
このビスケット,なんか腹にたまるんだよね,
俺とエリナは食事をして,見張りの交代をタイさんに申し出たが,断られてしまった.
もう一戦ある人をできるだけ休ませたいとのこと.
昼の戦闘で俺が危なかったことをエリナに聞いたらしい.
ちょっと恥ずかしいが,皆が心配してくれたことは素直に感謝をしたいと思ったので,言われた通りにそのままのんびりと休憩をすることにした.
「カメさんが言っていた,軍のパワーバランスって何のことかしらね.」エリナ
「前,死神さんがボソッとつぶやいていたけど俺たちだけが短期間で,魔族の社を2個も解放したもんだから,歓喜する人と同時に軍の一部には物凄く嫉妬している人がいるらしいよ.
それで第2軍団の事務総長さんを出しにして,そのような嫉妬をかわそうとしているみたいだよ.
嫉妬まではわかるんだけど,それをどうやってかわすのかというところはさっぱりだね.」
「まぁ,大方強引に第2軍団に無理くり魔族の社を解放させて,私たちの功績を薄めようとしているんじゃないかしら.」
「そうなんだ.あまりその辺は俺は考えてなかったな.単純に生き残れて,そして魔族の社を人類に取り戻すことができれば満足だよ.
まてよ,そうすると,第1081と1082基地の運営とここの解放の助力を第2軍団の担当から第1軍団の担当に代えたのも,今から第2軍団が魔族の社を解放するのに合わせて,第2軍団だけの功績の独占を薄めるためということか.」
「そうすると,第1軍団だけ3個の新社を運営することになり,私たちから見て功績の少ない第1軍団だけ得をしているように思えるんだけど.」
「じゃ,第1081と1082基地の運営は第2軍団に戻して,ここだけ第1軍団にするのは?
」
「いろいろ考えられるけどね.兎に角,第2軍団が対面の魔族軍を壊滅させないとね.」
「おい,シュウ.芦高が生きている魔族を回収したって,今回は14体らしいぞ.
後は緑の魔石を2個回収したらしいぜ.」
ありがとう,通訳さん.
芦高さんに伝えてくれる,
回収した魔族を引っ張ってここから歩いて5分ぐらいのところに連れてきてって.俺もそっちに行くからってね.
「伝えたよ.わかったって.」
俺はトイレと言って,エリナから離れようとしたら,ついて来ようとするのでさすがにお断りした.
それでもついていくと言われたら,ダ〇でもかと言うつもりだったので,なんとかそれを言わずに済んでホッとしたよ.
歩いて5分ぐらいのところに芦高さんと14個のぐるぐるが置いてあった.
「芦高さんお疲れ様.」
「きゅぴぴ」
「どういたしまして.だって.」
「ぐるぐるを外してくれるかな」
芦高さんは器用にぐるぐるを外し始めた.中からはぐったりとした傷ついた魔族が出て来た.
「おばちゃん,ペット魔族さんに渡してくれる.」
「わかったのじゃ,任せよ.しかし,毎度毎度,ご苦労なことじゃな.
止めを刺せば放っておいてもいいのにのう.」
「まぁ,敵対しない者はできるだけ助けると決めたからな.」
「まっ,送っておくかのう.ほれ,ほれ,ほれ.」
「シュウ殿,ありがとうございます.かなり危ないものもいるようですが,必ず救って見せます.またよろしくお願いしますね.」
「そういえば,妊婦さんはどうですか.順調ですか.」
「ありがとうございます.順調ですね.
この間は軍医さんも混じっていたのでねさらに安心して暮らせるようになりましたよ.
ほんと,野菜のように急に育って,お腹が大きくなったらどうしようかと思いましたが.軍医さんに言わせると順調なようです.
あっ,大変なことを忘れるところでした.
一つお願いがあるのですが,聞いていただけますか.」
「は~ぁっ,なんでしょうか,改まって.」
実は魔族はその誕生の際に親や親戚縁者が魔力を込めた魔石が必要です.その魔石を一ついただけないでしょうか.
今日は大規模な戦闘があり,シュウ殿が勝利したと聞いています.
魔石が落ちていると思いますので,それで構わないのでいただけますか.」
「緑の魔石ならすぐに渡せますが.」
「緑の魔石ですか.将来,軍の将官となれるかもしれませんね.
いえ,生まれてくる子供は武器で戦うのではなく,人類との懸け橋になる子になってほしいと思います.
普通の魔石でお願いできますか.」
「わかりました.生まれてくるお子さんと俺も戦いたくないですし.
できれば別のもの,例えば古い因習,つまり魔族と人は絶対に共存できないと言う考えと戦っていきたいと思います.
そのときはできればお子さんにも立ち上がってほしいと思います.
まぁ,まずは無事に生まれるように白い一番大きな魔石を探しますね.」
「よろしくお願いします.」
俺はエリナのもとに帰る道すがら,一番大きい魔石を芦高さんとともに探した.
見つかったそれは,通常の倍もありそうな大きさだった.
これで生まれてくる子供にペット魔族さんが一杯魔力を込められるだろうと思う.
それをおばちゃんからペット魔族さんに渡してもらった.
エリナがほっぺ大福で待っていた.
「シュウ,遅いわよ.超特〇イだったの.」
うわぁぁぁぁぁぁぁ,誤解されてる.
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。