7話目 慢心を振り払おう
「旅団本部と連絡が取れました。中隊長からの指示を伝えます。
まず、僕とエリナさんが黒い霧をギリギリ探知できるところまで後退。
土魔法によりトーチカ陣地を秘かに築いて、魔族の部隊の監視を継続。
敵がこちらに進軍した場合は同じ距離を保ちながら後退。
また、右に行き、第2軍団の側面及び背後を脅かす場合にはシュウと芦高で攻撃開始。足止めを狙え。
こちらはこれから30分後に出発、約2時間で旅団の残りと第21師団が到着する予定。
到着した時点で、シュウの雷属性フィールドを保持魔力1/3を使って、敵全面に展開。
総攻撃を行う。
トーチカの準備ができたら一度連絡をくれ。
以上です。」
「了解しました。
まずは、カメさん。探索魔法を発動し、敵の黒い霧がギリギ捉えらりる距離まで移動して、それから100mこちらに戻って来てくれる。
その間にエリナはシュウに雷属性魔法のうち必要なものを一通り転写してね、あとスピードアップもね。
芦高さんには氷属性魔法で必要なものを一通りとスピードUPを。
切れたらかけ直してね。」タイさん
カメさんは来た道を戻っていき、500mほど進んで、100m戻ってきた。
「エリナはあれ以上の範囲を探索できるだろうから、カメさんと交代で魔族と黒い霧の監視をお願いね。」
「「「わかりました。」」」
エリナが、まず、俺と芦高さんに必要な魔法を転写した。
その後にみんなでカメさんのところまで急いだ。
「乙姫さん、ではトーチカの建設をお願い。
その後に100m前方に防御壁をお願い。長さが50m、高さが2m。防御壁の前に幅5m深さ2mの堀を掘って、水を張っておいてね。
それでは、まずはエリナから敵の監視をお願い。20分でカメさんと交代ね。
カメさんはトーチカの準備がて来たと旅団本部に連絡を送ってもらえるかな。」
「「「了解です。」」」
芦高さんはトーチカに入れないので外で待機だ。
そのスキに背中のぐるぐるで食事をするとのこと。
俺もここではやることがないので、ひとことタイさんに声をかけて芦高さんの隣で休むことにした。
もちろん失礼に当たるのでぐるぐる食事は見ないよ。
「外で見張り番をしながら芦高さんと休んでいます。用があるときは呼んでください。」
しばらく、動きがなく1時間半ほど経過した。
なんか今日は暖かく、暇なのと相まって眠気が襲ってきた。
ううっ、死神さんに今朝言われたようにすこし弛んでいるのだろうか。
俺は屈伸をして、体を動かして眠気を取り払うことにした。
「きゅぴぴ。」
「ひまだってよ。」通訳さん
まぁ、どっちにせよ、今から大戦だよ。
援軍が到着するまで魔族が動かなかったら、夜戦だな。
夜戦は初めてだな。
雷属性フィールドをうまく展開すれば昼間のように明るくなるかな。
「きゅぴー、きゅび」
「芦高は夜目が効くから、細かく情報を教えてくれるってよ。」
「シュウ君、タイさんが呼んでいるわ。」乙姫さん
「今、行きます。」
何か動きがあったのかな。それとも新たな指示かな。
「敵、1個中隊がこちらに接近するとともに黒い霧が徐々に右に移動し始めました。」エリナ
「敵中隊までの距離と移動速度はどう? 」
「かなりゆっくりですね。探索ですかね。ここから2000mまで来ています。」
「では、黒い霧までの距離と移動速度はどう? 」
「こちらは通常の行軍速度でしょうか。ここからは2500mですかね。」
「ふむ、カメさん、中隊長は捉まりそう? 」
「大丈夫です。だいたいの位置を補足しています。」
「それでは連絡をお願い。
敵黒い霧、第2軍団方面に移動。
味方への奇襲を避けるため、我々は指示通りに逆に奇襲を仕掛ける予定。
以上。」
「それでは我々の作戦を伝えます。
まず、主戦はシュウ。敵偵察隊の左横まで急速接近後、魔力の1/3を使って雷属性フィールドを発動し、敵本隊の黒い霧をすべて覆え。
その後は敵殲滅に努めろ。雷だけでなく氷系統の魔法もエリナに転写してもらえ。
第2陣は芦高さん。シュウが1000m進んだら、出発。シュウが敵偵察隊500mに接近したら、ピンポイントでサンダーアローを高密度で敵偵察隊に斉射。シュウの進行を敵偵察隊が妨害しないように補助。
さらにこれまでの魔族の戦いからして、シュウが雷属性魔法フィールドを発動後に敵より巨大な炎属性魔法の発動が懸念される。
それを感知したら、シュウの前に巨大なアイスシールドを急速展開し、後方を防御しろ。
芦高さんも、雷、氷、スピードUPの転写が必要です。
後続はエリナ。
芦高さんの後方に続いて、更なる別動隊や空中戦力の警戒と殲滅。
方法は予測がつかないので任せる。
今回の作戦の要は魔族からの反撃を芦高さんが防御できるかにある。
芦高さんは必要であれば必要なだけ魔力を使え。
それでは敵魔族部隊への奇襲を敢行する。掛かれ。」
「「「「了解。」」」」 「きゅび」
エリナに転写魔法をもらった俺は、どんどん加速した。そして、敵の別動隊が目視でも確認できるようになった時に後方から光の束が低い位置を駆け抜けていった。
芦高さんのサンダーアローだ。敵100体ほどを一瞬で倒す必要があるため、敵の本体にある程度認識されてしまうのは仕方ない。
俺はさらに加速し、敵偵察隊の左隣に到達。敵偵察隊で俺に反撃できそうな存在はとりあえず確認できない。
敵偵察隊の妨害がないことを確認し、俺は雷属性フィールドを発動。敵の黒い霧に向けて急速展開。
属性フィールドなのに放電の走狗が相変わらずものすごい。芦高さんの先ほどのサンダーアロー以上の光の束が前方に展開し、黒い霧を白い光に変え、そして、雷の連鎖。
魔族にはこれまでの2回の師団壊滅の様子が伝わっていないのであろうか。
相変わらず何かしらの金属を身に着けているものが多い。
放電は無数の雷となり、金属を伝わり歩く。その雷は一つではない、無数の雷が逃げ場がないように金属間を伝わりまくる。だいたい2km四方に雷属性フィールドを展開した。その中を光の束となった雷が暴れまわる。
これはまた完勝かと思った瞬間、赤い光の束、いや束ではない山のような塊がこちらに飛んできた。
炎の塊、火山の大噴火のような炎の塊が俺に急速に向かってきた。
おれはあっと思ったが、アイスシールドを展開する余裕がなく、炎の塊に飲み込まれる瞬間に巨大なアイスシールドが俺の前に立ちふさがった。
シールドというより氷の山だ。これが敵の放った炎の塊により徐々に溶かされてはいるが炎威力も急速に弱まり、やがて消えて行った。
芦高さんのシールドが間に合った。ありがとうな。
「きゅぴきゅび」
「当然の仕事だよ。ご主人様を守るのはだって。」
はははっ。できるペットを持つと助かるなぁ。
しかし、この攻撃を予測していたタイさんの戦術眼は凄いな。
作戦時に敵のこの反撃の可能性の指摘と対策がなかったら、間違いなく人生最後の川を渡っていたな。エリナとの約束も果たせなかった。
油断はしていないつもりだったが、自分でアイスシールドを張れなかったのはやはりどこか緩んていたのだろうか。
これは落ち着いたら3日間ぐらい無心におばちゃんを振らないとだめだな。
「酔うので、普通の大剣にしてくれないかのう。」おばちゃん
おばちゃんも緩んでいるから一緒にがんばろうよ。
「いやじゃ。緩んでいるやつだけ頑張ればいいのじゃ。
妾は先ほどの魔族の反撃時にはかび臭い奴も一緒にシュウをあの空間へ送る準備はできておったぞ。油断はしたいなかったぞ。だから、シュウだけ頑張るのが筋じゃ。」
うるさいさんとおばちゃんは強制的に参加だな。身に着けている以上、連帯責任だ。
「関係ない俺をまきこむんじやねぇ。どうしてもというなら芦高を貸してやる。」
「きゅぴぴ、きゅぴ」
「シュウと一緒に訓練するってよ。俺は嫌だからな。」
こんなやり取りをしている間にも芦高さんは残った魔族にアイスランスをぶち込んでいく。
ほんと優秀なペットですね。おれも頑張らないと芦高さんのペットとか周りに言われそうだよ。影が薄くなって。
「シュウ、芦高さんお疲れさま。終わったみたいね。今日も完勝だわ。
シュウは魔族の予想外の反撃で危なかったわよ。
タイさんに事前に言われていたんだから、雷属性フィールドの結果ばかりを気にせずに防御も考えておかないとね。」
「そうなんだよな。俺この頃ちょっと緩んでいるようなんだよ。少し鍛え直さないとね。何か完勝続きで、危機感が薄れちゃっているんだと思ったよ。」
「私をこの年で未亡人にしたら許さないんだから。
一緒に、無心で大剣ありましょうよ。邪心が抜けるまで。」
「エリナは振らなくていいんじゃない。」
「旦那様の慢心を見抜けなかった妻は反省するために、大事な旦那様の横で大剣をふるわ。一緒に無心になるまでがんばろ。」
「わかったよ。その前に戦果を確認しなきゃね。緑の魔石あるかなぁ。」
活動報告に次回のタイトルと次回のお話のちょっとずれた紹介を記載しています。
お話に興味がある方はお読みくださいね。