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3話目 母親たち

教会に宿坊に必要のないものを預けて、昼食を取りに町に戻った。

町中にある雑貨屋兼軽食屋で、昨日の野宿で使ったものを補充するために買い物をした。

ついでにパンとミルクを買い、公園のベンチに座って簡単な昼食を済ませた。


先ほど通った町の門では、まだ同じ兵士が番をしており、俺たちに気が付いて声をかけてきた。


「魔物を探しに行くのか。気を付けてな。

暗くなる前に戻った方が良いぞ。」


「ありがとう。

先ほど教えてもらった、あの丘の向こうのに行ってみるつもりです。では行ってきますね。」

「いってきまーす。」


俺とエリナは教えてもらった丘の方に向かうのだった。


丘までは1時間以上掛かりそうだ。

天気も良く、初夏の日差しを受けてエリナは気分が良さそうに弾むように歩いている。


「シュウって、モニカ様の子供だったのね。

お母さまが前にモニカ様とは親友だったと言っていたわ。

すごい魔法尊師だったって。」


「そうなんだ。俺はそんな親友がいたなんて母から聞いていないなぁ。

エリナのお母さんは今何しているの。」


「私のお母様はリーナ・エルメルよ。

青色第4軍団で事務総長をしているわ。

事務総長なんて偉そうに聞こえる役職だけど、軍の後方支援ね。


でもなぜか軍の上司や他の幹部はお母様を見ると緊張して、最敬礼したりするの。

青色軍だけでなく他の軍団の総司令官もそうなの。


どうしてかなぁ。

お母様はみんなに親切で優しいのに。皆様、何を怖がっているのかしら。」


「へぇー、エリナの母さんは軍の高級幹部なのか。

それも軍を支える部門で一番偉い人の事務総長。


後方支援がないと行軍中にその日の食料の確保もできないから、みんな敬意を払っているんじゃないかなぁ。」


「私も初めはそうかなぁと思ったんだけど、お母様を見かけるとみんなこそこそ隠れるの。

見つかるとなぜか大汗を拭きながら、見習い術士のように大声で挨拶しているの。

役職もずっと上の方がそんなことをするなんて、おかしいわよ、絶対。」


「何か弱みを握られていたりして。

プライベートでやらかしちゃったこととかみんな知られているかも。」


「まぁ、考えても仕方ないか。

私は私の道を行くの。

あなたと一緒に。」


あわわわっ。さらに、俺の将来のレールが敷かれていくよ。

エリナによって。

もうこうなったらどこまでも付いていきます美少女様に。


「今度はモニカ様の話を聞かせて。

お義母になる方の。

私のこと気に入っていただけるかしら。」


えっ。義母だって。じゃぁ、俺の義母様は軍の総司令官が最敬礼するようなすごい権力者なのか。

俺、怖くて話なんてできないぞ。

話なんてしたら絶対緊張して噛んじゃう。

ちびっちゃうかも。


「俺の母さんは町の教会で司祭をしているよ。

別にこの付近の司祭様と比較して階級が高いということはないと思うよ。


過去に魔法協会の参議をしていたなんて、今日初めて聞いたよ。

でも、母の姿を見ていると今の司祭の仕事を楽しんでいると思うよ。

いつもニコニコして、教会を訪ねてくる人に接しているよ。」


「そうなのね。大戦を生き抜いたんだもの、幸せにすごしてほしいわね。」


「そうだね。」


母親たちについて情報を交換しているうちに目的の丘のてっぺんに着いた。周りを見渡すとまばらに木が生えた草原だった。ずっと向こうに森が見えた。


「魔物を探知をしている間、休憩にしましょう。」


「了解。飲み物を出すね。」


軽食屋で水筒に入れてもらったお茶を2つのコップに注ぐ。

暑いから冷たい方がいいかも。


「探知が終わったら、悪いけどお茶を少し冷やしてもらえるかなぁ。暑いから冷たい方がいいでしょ。」


「ありがとう。ちょっと待って、冷やすね。」


エリナは氷の属性フィールドをコップの周りにだけ発動し。冷やし始めた。


「ああ。魔物いないわね。

探査に引っ掛からないわ。

もうあきらめて、ゆっくりお茶にしましょう。ピクニック日和ね、」


「あまり油断しないようにな。

突然、魔族が目の前に現れたらビビるから。」


「ちゃんと探査は発動中。任せてよ。」


冷たいお茶を楽しみながら、俺は獣や魔物が近づいてこないか目を凝らす。


「あっ。魔物よ。多分今度はオーク6体。

向こうの方、距離3km。こちらに気が付いていないわ。

倒す? 」


「オークは放置できないからな。

さてと、どう倒そうか?

転写魔法をくれれば行って来るけど。」


「距離があるのでシュウに任せるわ。

私が一緒でなくても、あなたならすぐ倒せるわ。」


「了解。アイスシールドと速度アップ、烈風、クリーンをお願い。

このロングソードだけで倒してみる。剣技を鍛えたいし。」


「剣技だけで? 万が一もあるから私も付いていくわ。

最後まで手は出さないから。

頑張って倒してみて。気を付けてね。

それじゃー、転写魔法発動。」


転写魔法をかけてくれる時の掛け声が変わった模様です。

魔法発動はイメージによるからどんな掛け声でもいいけど、本来何も言わなくてもいいはずなのに。

まっ、雰囲気作りは大事だけどね。


俺は速度を上げて、オークに近づき剣を薙ぎ払う。

同時に2体のオークを切り裂く。

剣についたオークの肉片は切れ味を悪くするため、クリーンを発動。オークの血と肉辺が取り除かれた剣が再び輝きを増す。


さらに後ろから近づくオークに対して振り返りざまに剣で心臓を突く。

素早く剣を引き抜き、別のオークの横に移動し、袈裟懸けで切りつける。


切りつけ、突く、クリーンを繰り返し、オーク6体を2分ほどで殲滅する。

オークは動きが鈍いので速度アップを発動した俺をその目でとらえることは不可能である。

俺の一方的な殲滅戦となった。


「スピードに振り回されない、力強い攻撃だったわ。

さすが私のダーリン。

剣の腕前も聖戦士として問題ないんじゃないの。

かっこよかったわ。」


「おだてても何も出ないよ。

それより、もっと強い人と稽古したいな。

一方的だと得るものがないな。」


「お父様と稽古してきたんでしょ。

お父様より強い相手なんて、教会本山や軍以外でいるのかしら。


シュウの武者修行の旅も前途多難ね。逆の意味で。

とんでもない強い相手を探さなければならないなんて。」


「一応父からは、その強い相手を紹介されているから大丈夫だよ。きっと。」


「シュウが強い相手と稽古して、ケガをしたら私が治してあげる。膝枕して。」


おおっ、膝枕解禁宣言だよ。

あの白い綺麗な足の上に頭をのせるなんて。

妄想しすぎて鼻血が垂れてきそう。

まずい、わざと負けたくなってきた。


「さっ。魔石を回収しましょうよ。

オークの亡骸はこのままでいいかな。

肉は売れるけど、安いし。持っていくの面倒だし。

放置しても2日もすればスライムがきれいに片づけてくれるでしょう。」


「そうだね。そろそろ戻ろうか。魔物も倒したし。

今日の夕飯は何かな。」


俺たちは魔石を回収し、町に向かって引き返す。

夕焼けがきれいだ。

夕日が美少女の横顔にあたり、白い肌がオレンジ色に輝き、エリナは天使に見えた。


「そろそろ押し倒してもいいころじゃのう。

エリナも待っておろう。シュウのお手付きになることを。」


「お嬢様。それはちょっと無理でございましょう。

シュウ殿にそのような甲斐性がございましたら、もう昨日のうちに。お二人は。むふふふっふでございます。


それは後程のお楽しみとして、それより問題なのは今夜の宿坊でございます。

あの司祭はタヌキでございます。」


「タヌキとな。」


「はい。間抜けたフリをしておりますが、先の大戦を生き抜いた抜け目のない御仁かと心得ます。

決して、お嬢様の素性を知られてはなりません。

知られたら、教会本山のかび臭い宝物庫にまた閉じ込められてしまいます。


漸くダンを丸め込んで下界に開放されたことをどうぞお忘れなきようにご対応をお願い致します。」


「わかっておるのじゃ。まぁ、やつの息子もこの通り腑抜けじゃ。

我らを出し抜いて教会に通報することもあるまいぞ。

精々色ボケをあおってやることしようかのう。」


全部聞こえていますけど。

おばちゃんたちは今のところ何にも役に立っていないのだから、教会本山に売っちゃおうかなぁ。

いくらになるかな。路銀の足しに。同しようかなぁ。


「シュウよ、いや、シュウ殿。

妾はそちをとても優秀な聖戦士と思うておる。

聖戦士にはふさわしい武器というものがあろう。

それは妾以外にはないと思うがのう。

それを売るなんて、宝を敵にくれてやるのは感心しないのじゃ。」


ちょっと脅したら手のひらを返したように従順になるちょろいおばちゃんだな。


こんなことを裏でやり取りしながら、俺たちは町に戻ってきた。


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