ボーイ・ミーツ・ガール 1話目 我が家の家宝を引き継ぐ
書いてるうちに妄想が迷走しています。
作者の妄想によるトラブルを主人公のシュウが解決してくれるでしょう。
少しづつ、書き足していきますので、読んでいただければと思います。
「うぁーっ、」
俺はベッドの上で上体だけ起こし、大きく伸びをする。窓の隙間から入る朝日が顔に当たり、まぶしさで目が覚めたのだ。
昨日の晩は今日に備えて早く寝たにもかかわらず、これからのことをいろいろ考えるとなかなか寝付けなかった。
そう、今日から俺は親の元から離れて一人で生きていくのだ。
今日は親から、家族から、友達からそしてこの町からの旅立ちの日。
乱暴に布団を剥いで木の床に裸足で立ち上がる。
いつもはそのまま朝食に今に行くのだが、もう使うことはない、おそらく弟に譲られるだろうベッドをきちんと整えることにした。ちょっとした俺のけじめかな。
初めてこのベッドを父さんからもらった時はうれしくて転げまわったものだが、今じゃちょっと小さくなって寝返りを打つのがせいぜいとなってしまった。
普段はやりなれないベッドメイクを済ますと今度こそ食堂に向かう。
代々使われてきてあちこち歪んでいる床は歩くと軋んだ音がする。
聞き慣れた音を伴い食堂に入る。
「おはよう」
「おはよう」、「おはよう」・・・・
父さんと母さん、そして妹弟たちは既に起きていてテーブルについている。弟はまだ眠いのか目をこすりこすり。
母さんは立ち上がるとにこにこして俺のコップに温かいお茶を入れてくれた。
「いよいよねぇ。」
「ああ。」
なんだかさみし気な母さんの言葉に短く同意の返事をして、お茶を一口すする。
おいしい。でも、しばらく飲めないかと思うと・・・。
「ちょっとこっちに来い」
父さんはおもむろに立ち上がり、隣の居間の方に歩きだす。
何の用かはわからないが仕方がないので俺も父さんの後ろについて居間に行く。
父さんは暖炉の上にかかっている鞘が古びてしまった大剣を外した。
それを俺の方に向けると。
「これをもって行け。」
「えーっ。この大剣は父さんの半身じゃないか。母さんとの絆じゃないか。持ってなって行けないよ。
毎日、神様に語り掛けるように必死にお祈りをささげているほど大事にしているじゃないか。
教会の礼拝より真剣に拝んでいるよね? 」
「俺はこれがなくとも普通の剣で十分だ。母さんもいるし。
魔物や魔族が襲って来ても母さんがいればひとひねりだ。」
「そりゃぁ、そうだけど・・・。」
「お前は当分一人だ。まだ相方のいないお前が、万が一、旅の途中で魔族に出会ったらどうするんだ。
本山まで直接行っても結構かかるぞ。
途中、はぐれ魔族や魔物に出会いそうな場所も通るんだぞ。」
「できるだけ一人ではなく他の旅の人に同行させてもらうつもりだけど・・・。
わかった、取り合えず借りとくよ。ありがとう。」
「言うまでもないがこの<吹雪>を抜くときは、最後の最後だ。
でも命の危険を感じたときには遠慮なく抜け。
それ以外は冒険者や兵士はまだ良いが、教会の戦士や術士に吹雪を一人で使うところを見られないように気をつけろ。
吹雪だとばれる可能性がある。」
「わかった。できるだけいつもの武器で戦い、吹雪は抜かなくてもいいように戦うよ。
これからも抜かなくて良いように鍛えていくよ。」
「ふむ。俺はお前にすまないと思っている。
妹と弟は母さんと同じ白だが、お前は俺と同じ錆色だ。
何故か魔力の量だけはとんでもないがな。」
「謝る必要なんいてないよ。そのことは何度も言っているじゃないか。
錆色でもこうして吹雪を扱えるのだし。魔力が豊富なおかげで今でも吹雪を数回は使えるよ。きっと。」
「この吹雪をお前に引き継ぐ日が来たとは・・・。俺は心底うれしいよ。
漸く肩の荷が下りたというか、解放されたというか・・・・。」
父は何やらうれしそうに剣を眺めている。
「では、お前の引き継ぐ気持ちが薄れないうちに吹雪を引き渡そうか。
引継ぎの儀式だ。とっととやってしまおう。」
父が吹雪を右手で持ち上げ、鞘から吹雪を抜く。
両手で柄を握り何かをつぶやく。吹雪と話をしているのだろうか。
徐々に吹雪が淡く光りだし、光が強くなってきた。眩しいぐらい強くなったところで父が吹雪を俺に渡す。
「吹雪に挨拶しろ。これからは俺が主人だと。
魔力を流し込みながら話しかけるようにそう心で念じればよい。」
俺は吹雪を受け取り、柄を強く握りしめ、魔力を込める。
これからよろしく頼むと魔力を流し込めながら何度も思いを繰り返す。
父と同じように吹雪が徐々・・・・いやいや眩しいほど輝き出す。
目を閉じていても眩しい。
それとともに周囲の温度が急に下がり始め、ソファーなどは霜が落ちたようにうっすらと白くなっていた。
「ううっ。寒い。」
父が叫ぶ。
「もう十分だ。これ以上魔力を込めると属性フィールドが発動するぞ。」
父の悲痛な叫びと同時に頭の中で人のささやく声が。
「ほうっ。これが新しい従者かの。
最近、おじさんに飽きてきたので丁度良いわ。
ほほう。まだ嘴の黄色い坊やのくせに、異常に魔力があるのう。
鍛え方次第では妾を十分に楽しませてくれようのう。
ああっ、これそこの坊やよ。
魔力が余っているようだからついでにその鞘にも魔力を注いでたもれ。」
俺は今起こっていることにかなり混乱していた。
吹雪がしゃべったのか。しかもかなり上から目線だ。
父は俺が吹雪の主人になると言ったと思ったが。違うのか。
俺が従者? 俺が吹雪に仕えるのか?
まぁ、かなり混乱しているが吹雪を片手に持ち、もう一方の手で吹雪の鞘を持った。
そして、同様に魔力を込め始めた。
父さんはどうも先ほどの吹雪が発した冷気に当たったようで、ぶるぶる震えて、慌てて暖炉の火を付けようとしていた。
火種が凍って無駄だと思うけど。
魔力を鞘に注いでいるとまた頭の中に今度は別の声がした。
「いやー、久しぶりに起動しましたよ。
鞘にまで魔力を注いでくれる奇特な人が現れましたか。
魔力の無駄遣いですよ。
まぁ、それでも私に魔力を注いでおくと便利な特典がありますよ。
呼ばれると必ず目の前に現れます。
吹雪お嬢様を置き忘れても、ここに来いと念じれば私ごと目の前に戻ってまいります。」
「あっ、ちなみに吹雪お嬢様を私から抜いた状態で放置しないほうが良いですよ。すねますから。
その後、勝手にあなたの元に戻って来て、刃の方を背中に向けて、ぷすっと。
痛いですよかなり。
600年前はとある王族の心の臓を貫通していました。
日頃の扱いによほど腹に据えかねるものがありましたので。」
「煩いぞ、鞘の分際で。余計なことを坊やに吹き込むでない。」
「失礼いたしました。」
父さんはまだ、暖炉に火を付けようと奮闘していた。
その後ろ姿は何故かうれしそうだった。
「父さん、やっぱり吹雪を借りるのを遠慮したいんだけど。
何か役に立つ前にストレスで胃に穴が開きそうなので。」
「いやいや、もう遅いから。今更いらないなんて認めないから(父)。」
「いやいや、坊やは妾の従者に決定したのでのう(吹雪)。」
「いやいや、たまには私にも魔力を注いで下さい(鞘氏)。」
父さんどんだけ吹雪を手放したかったんだ。
毎日拝んでいたのは吹雪の祟りを恐れていたからか。怒ると背中ぶすっだもんな。
本山からこれまでの報酬代わりにかすめ取ってきて、家宝にしたんじゃなかったのかい。
「諦めが肝心かと(鞘氏)。」
居間で騒いでなかなか戻ってこない俺たちに業を煮やした母がフライパンをお玉でたたきながら、いい放った。
「いつまで漫才やってんの。早く出ないと野宿だよ。
とっとと、朝飯食べて、出掛けなさい。」
俺の旅立ちのめでたい感動の朝が、いつもは聖母のような母さんが鬼の様にお怒りになってしまった。漫才って、母よ俺と吹雪のやり取りが聞こえるのかい?