施設説明
「では、まず荷物を置かないといけませんね。男子寮の方に向かいながら学園の案内させていただきます」
そう言う佐伯からイブキは荷物を受け取る。自宅を出発する際にも感じだが、最低限の荷物ということもあり、受け取ったボストンバッグは長期間、学校生活に対応できるとは思えない軽さであった。
「パンフレットを読まれておそらく理解はされていると思いますが、この学園は全寮制のため、入寮が義務付けられています」
「もちろん理解してます。それに帰っても誰もいないから大丈夫です」
イブキの反応を見て、表情を変えずに佐伯は話を続ける。
「そうですか。では、入学式は午後になりますので、それまで施設内、特に寮など生活面について話をさせていただきます」
佐伯は手に持っていた革製の黒いバインダーを見ながら、校舎の特徴などを語り出した。
「まず、校舎は目の前にあるコの字型の建物です。二階建ての石造りで歴史を感じる落ち着いた雰囲気になっております。もともとの学生数が少ないため、校舎自体そこまで大きくないと思います。そして、校舎と繋がっている建物が寮になります。コの字で表すなら出っ張っている二つの部分は寮になります」
基本的には校舎はこの正面の部分のみで、両脇が寮になっているようだ。パッと見た時に建物全体が校舎だと思ったが、どうやら校舎に寮が接続されているらしい。
「正面から見て左側が女子寮、右側が男子寮になります。在校生全員が寮生となるため、こちらは大きく作られております」
佐伯は一つ一つ指差し、イブキの理解を待ちながらゆっくりとしたペースで説明をしていく。
佐伯の指摘するように、学生寮は校舎の半分ほどの大きさをとっており、かなり大きめに作られているようで、部屋数は各寮150部屋用意されているらしい。
話の途中で、佐伯はふと思ったようにつぶやく。
「ちなみに、女子寮に入ろうなんて思わないでくださいね」
イブキはその発言を聞くと、顔を赤らめて、
「そんなことしないわ!」
と素早く切り返す。
そんなイブキをみて、
「それならいいんですけどね」
と佐伯はメガネをクイっと上げ、ニヤリと微笑む。
突然いじりだしたり、無表情の奥にある佐伯さんのキャラはよくわからない。
イブキはため息をついて、女子寮をチラッと横目で覗く。
「ん?」
「どうかしましたか?」
一瞬、誰かがこちらを見ていたように感じた。すでに、入寮してる人か先輩か何かだろうか。揺れるカーテンはそこに誰かがいたことを物語っている。
まぁ先に寮にいれば誰が来るのか気になって、見ることもあるだろう。
「なんでもないです」
イブキの言葉に、佐伯はそうですかと一言言うとその後も寮について説明を続けた。
「あとで、寮の規則について資料をお渡しするので、目を通してくださいね」