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Re:viver  作者: 美乃望
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腐敗した街

―西暦2050年、東京―


 この街はひと昔前まで大都会と呼ばれていた。かつての街は人で賑わい、電車や飛行機が休むことなく動き、人々や物資を運んでいた。様々なイベントや有名アーティストのコンサートには数万単位の人が集まり、きらびやかなステージに向け声を合わせたという。国外の人も社会の中に混じって生活をしていたらしい。


 「今じゃ絶対想像できない話だけどな。こんな暗い街でそんなことあったなんて誰が信じられるんだろうかね」

 イブキは大通りに面するビルの隙間に隠れ、周囲に注意を払いつつ待機をしていた。

 横たわる信号機や窓ガラスの割れたビル、ひび割れた道路から伸びる雑草はものによっては顔の近くまで大きくなっている。夜空にひときわ目立つ月明かりに照らされる街は、外套の明かりがところどころ灯っているだけで、人気のない痛々しい寒気に包まれていた。


 「親父まだかよ。この時期に待ちぼうけは寒すぎる」


 ビルの隙間に落ちる雨粒がアスファルトにたたきつけられ、嫌な音を立てる。冬が明けたばかりの東京はまだ寒く、雨粒がグローブの中に侵入するため手がじんじんとする。

 この腐敗した街で生まれ育ったイブキにとっては、きらびやかな東京など夢物語以外のなにものでもないのである。


 「さて、そろそろ準備しないといけないな」


 ビルの隙間に身を潜めている少年の黒い髪が雨に濡れ、雫が首筋を伝う。

 ほどけかけたマフラーをもう一度まき直し、少年は腰にある短剣の柄に手を添える。


 「今日はほんとに寒いな。上着もう一枚来て来ればよかった」


 濡れたマフラーに口元をうずめてそう言いながら、腕時計の風防上に映るモニターを確認する。モニターには赤い光と青い光が点滅しながら、隠れている少年に向かっている様子が映し出されている。そんな時に少年のヘッドセットに風を切る音と、男性の深い声が流れてくる。


 「そっち行くぞ。ちゃんと足止めしろよ、イブキ」


 イブキを呼ばれた少年はその声を聞くと、舌打ちをして表示していたマップを閉じながら、

 「言われなくてもわかってるし、俺が仕留めるから安心しろクソ親父」

 と返事をして、短剣をもう一度掴みなおした。


 「イブキ、ちゃんと合図で飛び出して来いよ」


 父の言葉に耳を傾け、闇夜に反射する刃を確認する。大人の顔ほどの長さの短剣に映る自分と目を合わせ、徐々に心拍数が上がってくるのを感じていた。


 「3」


 雨音が早く聞こえるのに、カウントが全然進まない。いつもやってることだけど、やっぱり慣れない。


 「2」


 しっかり肺に空気が送れていないのか苦しいし、呼吸が早くなる。


 「1」


 「よし、仕留めろ!」


 父の合図で、イブキは足音が大きくなる大通りに向け、短剣を精一杯の力で握り、飛び出した。そして一瞬の間に、刃が獣の横っ腹の皮膚と貫き、返り血がイブキの服に付着する。手にずしりと肉を裂く重みがのしかかる。

 瞳の赤い狼は死角から受けた攻撃に驚いたように雄たけびを上げた。しかし、狼は足を地につけ、次の瞬間、瞳がイブキに向けらる。

 

 イブキは咄嗟に突きの威力が足らなかったことを理解する。しかし、勢いに乗った体を狼の視界から外すことは不可能だった。

狼は鋭い牙で、横っ腹に刺さった剣を掴んだままの、イブキに噛みつこうと反撃に出る。


 「おとなしくしやがれ」


 すると、声とともに父から放たれた槍が狼の臀部に突き刺さり、再び狼は雄たけびをあげる。


 イブキは父の行動を察知し、突き刺した短剣を切り抜く。狼はより一層大きな雄たけびをあげ、道に倒れ込み立ち上がることはなかった。横たわる狼からは、みるみる赤い水たまりが広がっていった。


 「よし、仕留めたな」


 狼の真後ろを走ってきた筋肉質な男がイブキにそう告げ、弱った狼から槍を引き抜くと頭を貫いた。


 「今日はお前の手柄だな。これで567戦中100勝目か」

 「まぁサポートしてほらってようやくだけど、100勝だぜ。まぁあと1年もしないうちに親父を抜くけどな」

 「それは期待できますな。なんだっけ?東京で一番のハンターさんなんだよな?」


 イブキは狼の首を短剣で切り、袋にしまう。おちょくる父に一度目線を映し、

 「一番のハンターになる男だ。まぁ子どもの中なら俺が一番だと思うけどね」と答える。

 「それはどうかな。まぁこの変わっちまった街を元に戻すためには力が必要だからな。弱い者は食われるし、弱い者は誰も守れやしねぇ、俺みたいにな」


 父の口癖を聞き、イブキは溜息をついた。


 「いつもそれ言うけど、俺は母さん知らないから困るよ。それに親父と同じことにならないように俺を馬鹿みたいに鍛えたんでしょ?」


 父は息子の何気ない一言を聞き、驚きつつも笑顔がこぼれた。

 「俺の訓練はまだまだ序の口なのに、なに一人前みたいな発言してるんだ」


 父はイブキの頭を腕でつかんで、締め上げる。

 「やめろ。痛いから、まじで頭割れる」

 「調子こいた罰だ。でも、母さんはある意味元気に育ったお前を見たら喜ぶだろうな」

 「ある意味ね」


 廃墟と化した高層ビルの屋上にはぼんやりと赤い光の粒が居場所を伝えるように光っていた。



ここまで読んでくださりありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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