表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

正月乗務

作者: 悠蓉

【よつ葉お正月企画】への参加作品です。

「いやあ、これから××号乗務なんて悲惨ですねぇ」

 隣でそうこぼしているのは、後輩の高橋車掌。これから××号で共に乗務する相手だ。

 確かに、大晦日から往復四日間の行路なので、帰ってくるのは一月三日。正月気分も何もあったもんじゃない。おまけに、この四日間は休みになる店が多く、うっかりすると乗務で行った先で何も食べることができなくなる。

 おまけに、今朝新聞で見た天気予報は大雪。こうなると無事に運行されるかは運次第だ。


 そうこう言いながらも二人で車両基地へと到着し、今日から四日間乗務する車両へと乗り込んで回送列車として駅へ。いつものように乗務が始まった。



 駅を出たらすぐに放送を開始する。

~♪

「本日は寝台特別急行列車××号をご利用下さいましてありがとうございます。これから停まります各駅と到着時刻のご案内をいたします。次は…………」


 各駅の時刻、列車の設備、お願いなど長々とした放送を終えるとすぐに、検札へと向かう。今日は年末とあって満員だ。一応、重複販売などに備えた調整用の席もあるが、こういう日は飛び乗りの人もいるのですぐに無くなるだろう。



 § § §


 夜も遅くなったのでこの日最後の放送を行う。結局、列車は臨時停車を繰り返し、かなり遅れてしまっていた。

~♪

「本日は寝台特急××号をご利用下さいましてありがとうございます。ただいまの時刻は二十一時三十四分です。すでにお休みになられているお客様もいらっしゃいますので、ただいまの放送を持ちまして、特別な場合を除きまして、明日朝六時三十分頃まで休ませていただきます。

 これから停まります各駅と時刻をご案内いたします。なお、現在この列車は二時間三十六分遅れで運行しております。ご案内する時刻は二時間三六分遅れた時刻での時刻です。次の停車駅は…………です。終点――には十時二十四分の到着を予定しております。これから終点まで距離があります。そのため、遅れは前後することがありますので、予めご了承ください。

 洗面所等混み合っておりますが、どうか譲り合ってのご使用をお願いします。寝台を離れます際は現金、貴重品等は必ず身に付けるようにお願いいたします。なお、これから天井灯と通路灯を少し暗くさせていただきます。ごゆっくりお休みください。」

〜♪


 オルゴールを鳴らしてから、スイッチを切る。

 この雪だ。さらに遅れるだろうなと思いながら……



 果たして、列車はみつば駅に臨時停車したまま動かなくなってしまった。除雪の方で何かあったのだろうか。

 もうすぐ年越しというとき、巡回中に高橋車掌と出会い、イベント好きな高橋車掌がカウントダウンを始めた。


「今年もあと少しですね。まさか最後がこんな日になるとは思ってもいませんでしたけど。……もうすぐですね…………三、二、一、あけましておめでとうございます」


 何も用意してないのでとりあえずコーヒーで乾杯。

 そんな調子で夜を過ごして、結局輸送指令から出発の指示が出たのは朝になってからだった。

 無線機を通して聞こえる高橋車掌の出す出発合図が無人のホームに響く。


3001(さんぜんいち)列車機関士さん、こちら車掌です。どうぞ。『3001列車機関士です。車掌さん、どうぞ。』3001列車、発車。」


 ピィーーー!


 高橋車掌が出発合図を出すと、返事の代わりに汽笛を響かせ、フーと息を吐くような音をさせてブレーキが緩むと列車は静かに動き出した。


 ホーム監視を終えてから時計を見ると六時過ぎ。もう良い時刻かと思い、放送装置のマイクの持ち、オルゴールを鳴らす。

~♪

「皆さま、おはようございます。今日は一月一日、元日でございます。新年あけましておめでとうございます。ただ今の時刻は……六時十四分を回ったところです。列車は途中大雪による規制を受けたため、ただいま九時間四十二分ほど遅れています。列車遅れまして申し訳ございません。間も無くよつば駅に到着します。よつば駅では信号待ち合わせのため停車いたしますが、ドアは開きませんのでご了承ください。なお、よつば駅にて皆様の朝食としてお弁当とお茶を積み込むと連絡を受けております。よつば駅発車後に皆様にお配りいたしますので、しばらくお待ちください。」


 放送を終えて一息つく間もなく、列車はよつば駅に滑り込んだ。ドアを開けてすぐに弁当とお茶の積み込み作業を開始する。全部で約二百七十人分を高橋車掌や駅員と共にとりあえず乗務員室に積み込んで発車する。

 発車後、再度案内の放送をしてから二人で手分けして弁当とお茶を配りに行った。ここまで遅れると車内の人々は運命共同体。不思議と一体感が生まれてくる。苦情も無いしなんだか和やかだ。


 全て配り終えても次の駅まではしばらくあったので、高橋車掌に声を掛けて、先ほどの弁当で朝食にする。名物の地鶏を使った弁当でこれが今年の御節代わり。

 窓の外へ目をやると昨日の大雪が嘘のような天気だ。この分なら遅れも短くなるかもしれない。


 列車は終点に向けてひた走って行く。

今年一年間、皆様もそれぞれの目標などに無事到達できますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] レビューから飛んで参りました^_^ 寝台列車の映像が見えるようでした。 車内放送が素敵です! 時間をいう前の間が、時計を見ていらっしゃるのだろうな、と想像してしまいました。 私も、お続き…
[良い点] ふふっ、駅名が可愛い! [一言] 何が起こるのかとドキドキしました。 この続きが読みたいと思いました。 この乗務員さんの勤務の終了まで追いかけてみたいと思いました。 機会があったらぜひ…
[一言] こんばんは。 淡々としたドキュメンタルな語りの中、途中少しだけ高橋車掌とのやり取りがあり、最後に独白のような形で和やかな心情を表しているのがうまいなーと思いました。 雪の中を進む列車、大…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ