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『エレメント』とは生まれ持った「能力」だそうだ。
この世界で生を受けた人は必ず『エレメント』を持っている。
基本的には「地」「水」「火」「風」に振分けされるそうだ。
又、これ以外にも様々な能力がある事が確認されており、中には基本的な能力を持ちながら他の能力を複数持つ者も沢山存在している。どうやらその人その人の能力値にもよるが、基本な物以外は後から習得が可能らしい。
じゃあエレメントはどう見分けるのか。
生まれた時には無く年齢が16歳を境に体から痣の様に浮き出てくる。浮き出る場所は人によって様々だ。
18歳の頃には完全にエレメントが浮き出ると、その能力に合わせた力が使えるらしい。
「はあ。」
流石にこの話は異世界感がたっぷりに感じた。自分から振っておいて何だけど、聞いてるだけで疲れてきた。
まぁ…当然だけど私の体にはそんなのは存在しない。この世界の人間じゃないからね。
「それで…エレメントが無いと不味い理由は…?」
「記録でしか存在しないのですが、大昔にエレメントを持たない者が大量殺戮を起こしたり国を侵略したり、疫病を持っていた。そういった事案が発生したと残っているのです。」
じっとクラウンは私に語りかけてくる。
「エレメントを持たない者は危険因子でしか無い。この世界に生きる者はそう捉えてます。」
そりゃあ軟禁もされるわな。納得いった。でも。
「15年前と20年前のドロップした人達ってどうだったのですか?エレメントは?」
「あるよ。僕の知り合いには火、ジジイはクラウンも知っての通り風のエレメントがあった。」
そうフェルタの返事に驚いた。
そのドロップした人達は地球の人じゃないのかな…。地球の人なら体は綺麗だもの。タトゥーでも入れない限り。
それともタトゥーを入れてた人が上手く生き延びているのか…?でもそうだったらセントラルに居る大佐とやらは?能力がない限り中枢の大佐なんて務まらないよね?
「大丈夫?」
「ひゃっ!」
ずいっとフェルタが私の顔を覗き込んで来たので思わず叫んでしまった。その様子をみて彼はケタケタ笑ってる。
「危険因子…真琴からは感じないなぁ!」
「そうですね。でも100%無いとは言い切れませんよ。」
表情を変えないクラウン。まだフェルタは笑ったままだ。
ってか…普通でしかない私にそんな事が出来る訳無いでしょうに。
「……………で。フェルタはいつまで笑うんですか?」
「ごめんね〜。いや〜で、何?真琴。」
「いや、さっき見せて貰ったフェルタのエレメント。エレメントってあんな派手なんですね。」
「ううん。これは彫ってるの。」
「タトゥー?」
「そうそう。僕は火なんだけどさ例えば戦闘になった時に相手に僕の能力を知られたりするからね。火に弱い相手なら良いけど逆もあるからさ。」
「相手に分からない様にする為って事?」
「そんな感じ。僕の場合、掌にエレメントが出ちゃったからね。流石にここは人の目に触れやすいからね。」
カモフラージュって事か。
そしてサラッと戦闘って言ってるけど、いよいよ異世界って感じがしてきたわ。
「少尉。自分のエレメントを晒さないで下さい。万が一、真琴が豹変するかも知れませんし。」
「大丈夫でしょ。真琴は無いよ。それに僕は強いもん。」
承知してますが…。と話しているクラウンが何だかフェルタのお母さんに見えてきた。
この2人がセットになった理由が何と無く分かった気がする。
「色々、話が長くなりましたね。ここで休憩しましょうか。イルマが淹れてくれた紅茶が冷めてしまう。頂きましょう。」
クラウンがそう紅茶を勧めてくれたので改めてティーカップに視線をやると先程の湯気は無く、カップの中で紅い水面が揺れていた。
「いただきます。」と紅茶を一口飲むと、爽やかな香ばしさを感じた。凄く美味しい。
最近は水しか飲んでなかったからな。冷めかけてるとは言え、今の私には大満足だった。
ビスケットも一つ頂く。素朴な甘みがあり、やっぱりただの丸いパンしか食べてなかった私にとっては幸せすぎる味だ。
この世界にもお菓子があるんだな。超美味しい。
そう幸福感に浸っていたけれど…ふと視線を感じる。
視線の正体はフェルタでじっと私を見ている。また馬鹿にされるのか?
「あの…私に何か付いてます?」
先に聞いてやった。
「ん?いや嬉しそうに食べてる姿は女子だなぁと。」
「本当にそれだけ?また馬鹿にするのかと。」
「馬鹿にして欲しいの?」
「結構です。」
自然とビスケットに手を伸ばしてふたつ目を頂く。
フェルタも紅茶を口にしてから
「いやさ。真琴って指輪してたっけって。」
そう言いながらティーカップを静かに置く。
「これですか。私も知らない内に胸ポケットの中にあって、紛失防止の為に着けました。貰い物なんで。」
「そうなんだ。誰から貰ったの?」
「エリーから…。」
「エリー?」
「あ。私の叔母です。恵里奈って名前なんだけど、叔母さんとか名前で呼ばれるのを嫌がって…。」
「ふうん。」
「親族はみんなエリーって呼んでました。昔からの愛称だそうで。」
へえ。とフェルタは頻りに指輪を見ている。珍しいのかな?
「真琴、少し見せてよ。僕さ指輪好きなんだよね。仕事柄手袋してるから普段は出来ないけど。」
「少尉にそんな趣味があったんですね。意外です。」
「意外は余計っしょ。クラウンの意地悪。」
そんな2人の相変わらずな痴話喧嘩?を見ながら指輪に左手をやる。
「いいですよ。今外しますね。」
指輪を持ち外そうと…するも外れない。
少し引っ張るも外れない。あれ???何でだ???
今度は思いっきり引っ張って見たけど、ただ指が痛いだけ。
「………どしたの?」
私が1人で悶絶しているのを流石にフェルタが気付いた。
「……………外れない。」
2人の視線は私の赤くなった右手薬指に視線が集まった。