side 1-4
「本当に此処で良いの?」
ジープから忙しなくエンジン音が鳴り響く。
私達は束の間の休憩を済ませて見送るルネの方を見た。
「これ。お土産。」
ルネから店と同じ様な白い四角の箱を手渡される。
片手に収まる大きさで果物程度の重さを感じるが、これは…?
「これは僕の作った服。似合いそうなのを詰めておいたから。」
「服?この中に?」
「うん。結構入ってるから広い場所で開けてね。」
はぁ。
着せ替え人形の服でさえも数枚しか入らなそうだけど…これもエレメントの力なのかな?
普通ゲームの世界とかで『重力』って言ったら中々強力な能力だけど、店を畳んだり服を圧縮させたりと何と言っていいのか…。
「良く言われるよ。その能力で服飾関係の仕事なんだってさ。」
そうだよね。例えばフェルタみたいにセントラルで世界をまたにかけるとか。警備隊で取締りるとか。
「公僕は肌に合わないんだ。好きじゃない。」
嫌なら仕方がないのかな。それとも元々お洋服が好きなのかな?
「楽しいよ。服は財産だよ。誰もが袖を通す物だから色々な人の色々な感性を触れられるのは服飾関係なんじゃない?」
「それより私の内心を読んでレスポンスするのは…。」
「嫌?」
嫌と言うよりは恥ずかしいんだな。
視覚的では無くて、精神的に丸裸にされた気分になる。
「じゃあ嫌じゃないんだね。」
「あの…は…恥ずかしいからやっぱ…」
とてもご機嫌な表情で私を見るルネに、余り強く言えなくなってしまう。
なんだろう。この感じ。
「そう言う悪ノリはフェルタに似てるよな。」
「あ。言われてみればそうかも。」
カズマに指摘されて気が付いた。やや強引な感じはフェルタに似てるかも。
「そうかなぁ。確かに彼とは1番馬が合うけどね。」
目を閉じて数日前のフェルタとの関わりを思い出す。
………うん。…まぁ、本家よりかは大人しく思えるけどね…。
「ねぇ、真琴。トゥーマのメディカルチェックが終わったらどうするの?」
「まだ決まってないけど、1人農業を…」
「じゃあさ、僕の店に来てよ!」
会話を遮る様にルネの弾んだ声を出した。
「…店。このお店?」
「うん。スタッフが欲しくて何人かとやってみたけど、やっぱり1人が楽でね。」
相手の胸の内が丸見えだからね。やりにくいんだろうなぁ。
「そうなんだよ。でも真琴は特別!」
「特別?」
「だって、こんな感じで心読で会話が難なく成立するのは真琴とフェルタだけだからね!」
「フェ…?」
「口開かなくて良いから楽って。フェルタはそう言ってたし。」
その瞬間、私の隣でカズマが大爆笑を始めやがった。
ルネから見た私はフェルタと同レベルな事がツボったみたいだ。失礼な。
とりあえずルネのお店に就職するのは一旦辞退を申し出た。ルネは楽かもしれないが、私の身がもたないのが目を閉じなくても分かるからだ。
「じゃあさ〜僕のお嫁さんでも良いよ!」
そんな爆弾発言も口にしていたが、完全にからかって言ってんだろうな。
でもさ、どんなに顔が良くても能力高くても仕事が出来ても、嫁だけは正直遠慮したい。
フェルタとはまた違うタイプの『変わった人』で間違いないかな。
ってか全然マトモな人に会わないんだけど?この世界の人達ってクセが強いってか、何と言うか…。
行きと同様にガタガタと道無き道の砂利道を走行していた。
「………結構疲れたかも。」
思わず溜息まじりな声を上げてしまった。
「な?変わったヤツだっただろ?」
「カズマともフェルタとも違うタイプの変わった人だったかもね。」
「ルネもアカデミー時代はフェルタに次いで無茶苦茶な奴だったんだから。」
「ふーん。例えば?」
「ゴブリンの生息地帯に気に入らない奴を蹴落とすとか、見下す先公の机に時限装置付きの爆竹仕掛けたりとか。」
「………ガキがやる事ね。」
そう本音が出たけど「ガキん時だから仕方ねぇだろ」吐き捨てる様に呟いた。
「でも人付き合いが下手って言った割には普通だったよね?」
「あー。あれな。あれは意外だわ。客商売やってるから克服したんか?」
「前は違かったの?」
「物静かでルネから話を切り出す事も少ないしな。声も小さくて人を寄せ付けない雰囲気で…。」
「それってさぁ。」
ふと私が思った事を上げてみた。
「話を中々切り出さないのはマシンガントークのフェルタのせいで、声は大きいカズマがデカ過ぎなせいじゃない?おまけに2人共声が通るし、簡単に掻き消されちゃうんじゃないの?」
「……………そ、そうか?」
「ケビンさんは会った事が無いから分からないけど、基本カズマは騒がしいしフェルタはご覧の有様だし。人を寄せ付けないってよりは人が寄り付かないんじゃ無い?」
みるみるうちにカズマの表情が変わっていく。
「あれ。もしかして図星?」
「……………まぁ、ケビンは仲間イチ強面だしなぁ…。」
微妙に目が泳いでいる。図星だったんだな。
まぁ確かに全員揃ったら個性溢れる面子ではありそうだな。
「兎に角!ミメンまで後100キロくらいだから、さっさと行くぞ!」
「あ。誤魔化した。」
「誤魔化してねーし!リアルに昼過ぎには着くし!」
焦ってる焦ってる。
いつの間にか揺れが収まり、綺麗に舗装された道路へとジープは走り続けていた。
次の街は『ミメン』
謎の流行病があると聞いてて心配だけど、新たな出会いの予感も少しだけ感じていたのだった。
サイドストーリーその1はこれで終了になります。
アカデミーの話も色々構想にあるので、ミメンの話が終わったら書きたい(かも)