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ゆっくりと紅茶の湯気が天へと昇る様を見る。
再び手元に視線を落とすとシンプルなティーカップに紅茶。そしてシガータイプのビスケットが数枚置かれた皿が並んでいた。
パンと水からビスケットと温かい紅茶。
とりあえずお互いに害は無いと判断されたからだろう。心の底でひっそり安堵した。
「名前は川北真琴。年齢は…この『ヘイセイ』とは其方の年号でしょうね。年齢は20歳。」
そう一つ一つ確認をしながらクラウンはペンを走らせている。
「性別は女性。」
「しかし男前だよね〜。ビジュアル。」
クラウンの隣に座る少尉と呼ばれる人物が私を見てポロっと呟く。
「少尉。女性の前で失礼ですよ。」
「だってさ、ずっと男の子だと思ってたもん。クラウンは気付いてた?」
「気付いてましたよ。当然です。少尉と一緒にしないで下さい。」
フンッと少尉は鼻を膨らませる。
実は自分の顔については生来のコンプレックで、余り好きでは無い。
自分の名前も手伝ってか優しい言い方をすればボーイッシュな風貌は昔からで、頑張って髪を伸ばしたりスカートを履いたりしてみたけど笑われる対象に結果なった過去がある。
まさか…この世界でまで指摘されるとはな。
「ちゃんと御覧なさい。骨格は完全に女性です。顔は確かに男性っぽさはありますが、でも頬と唇の作りは完全に女性ですよ。とても綺麗です。」
「……………それって褒めてるの?」
思わず口を挟んでしまう。
「褒めてますよ。最上級の褒め言葉です。」
しれっと私を見てクラウンは手を止めて此方を見た。
「改めて自己紹介しましょうか。」
じっと視線が合い、思わず自分の背筋を正してみる。
「自分はセントラルに在籍するクラウンと申します。」
「セントラル?」
「この世界の中枢ですね。政治的な面での活動が主ですが、他にも人口管理や今回の様な事故や事件の処理も行なっています。」
国会みたいなものかな?それに役場と警察もコミコミなイメージを湧かせる。
「何でも屋の最後の砦版。と言った所でしょうか。」
「最後?」
「この世界には様々な人種と国が存在します。本来は各国内で処理して戴くのですが…真琴はドロップ者なので私達が出向きました。」
そうだ。
「あの。その『ドロップ』って何ですか?」
「ドロップとは、異世界からやって来た物や人を指します。」
そうか。
やはり此処は元々の場所では無いのだ。
まぁ…目の前に居る2人はどう見ても日本の人には見えないから、覚悟はしていたけどね…。
「昔は年に1人はドロップした人物が居たそうですが…最近では例が少なくて。」
「最後にあったのは15年前だね。僕もドロップしたばっかりの人を見るのは初めてだ。」
「したばっかりって事は、何人か異世界から人と面識があるんですね。」
少尉と呼ばれる人物に投げかけると「うんうん」と頷きながら笑う。
「15年前の人はちょっと知り合いで、更に20年前にも男がドロップしてるんだけど、色々あってセントラルに居るよ。」
「……………そうですか。」
「少尉、セントラルにもドロップ者が居るのですか?」
「うん。大佐のジジイは実はドロップ者だよ。公にはしてないけど。」
「初耳です。………でもジジイは無いでしょう。」
自分以外にも同じ境遇を持つ人物が居たのか。
でも話を聞く限り、それぞれ此方の世界でも上手く暮らしている様子だ。
「少尉もいい加減、名乗ったら如何ですか?」
そうだね〜と少尉と呼ばれる人が答えると
「僕はフェルタ。少尉って呼ばれてるけど、大した事は無いから宜しく!」
「本当は大した事をして欲しいんですけどね。」
小声でクラウンがツッコミを入れる。
やっぱり彼がフェルタ様とやらなんだ。
しかし…。
「お2人、仲が良いんですね。」
「それは違います。」
バッサリと切り捨てたクラウンに対して
「え〜僕はクラウン大好きなのに。」
「誤解を招く発言は控えて下さい。」
「クラウンは1つの事を伝えれば10で返すからね。理解力も行動力もあるし…。」
「少尉、それは好きの意味を履き違えてます。」
この痴話喧嘩?じゃれ合い?もう何回見てきただろうか…。
「それが仲が良いって証拠だと思いますよ?」
「だよね」と笑うフェルタと、頭に手をやり深くため息を吐くクラウンが対照的だった。
ペンをそっと置き、クラウンは軽く咳払いをすると
「お互い未知の存在だ。特に真琴は独り身でドロップしている。不安でしょう。可能な限り質問は答えるし真琴の希望を聞きたいのだが…。」
「そうですね。」
確かに聞きた事だらけだ。
ざっくり異世界で今話をしているのはセントラルなる役人2人で、今から色々教えてくれてる。そこまでは理解した。
「さっきのエレメントって何ですか?それが無いと不味いのですか?」
「そうですね。その説明からしましょうか。」
そうクラウンはモノクルを直しながら私を見た。