side 1-2
ジープから降りて先に降りたカズマの後を追う。
「又、本線からかなり外れた場所に店を置いたなぁ。」
カズマが呟いた通り、お店を置くにはお客さんが寄り付かない様な場所に店はあった。
辺りは一面の原っぱで、心地よい風が私達の間を流れていた。
「だけど静かで良い場所ですよね。」
「あぁ。だけど…ルネの奴、生きてっかな?」
店の窓から店内の様子をカズマは覗き見る。
「縁起でもない事言わないでよ。」
「アイツの生活能力の無さは天下一品だからな。去年遊びに行った時は店内で行き倒れてたからな。」
「それって…人としてどーよ?」
「大きな仕事が入ると寝食忘れて作業するから仕方がないんだとよ。」
入るぞー。とカズマはドアノブを回し店の中に入り、私も続けて入った。
小さなカウンターがポツンと1台。あとカウンターのサイズに合わせたイスが2客だけ。
店内はたったこれだけで、あとは何も無くガランとしていた。
此処は本当に服屋なのか?
そんな疑問が湧いてきたが、もしかしたら近々移動するからワザと商品を置いてないだけなのかも。私はそんな事を考えていた。
「ルネー?居るかー?生きてるかー?」
カズマがそう呼び掛けると、カウンター奥にあった扉がそっと動いた。
扉から顔を出してきた人物は、じっと大きな瞳で私達を射抜く様に見つめて
「………カズマ。煩い。」
「久々に会った第一声がソレかよ!」
「煩いから言ったまでだし。」
「相変わらずだな。ルネは。」
やれやれと言った様子でカウンター側に合ったイスにカズマは腰を掛ける。
一方でルネと呼ばれた彼は線が細く少年の様な出で立ちで、正直荒々しいカズマとは真逆なタイプだ。
銀に近い金髪でさらさらと柔らかそうに動く。身長は私と変わらないかなぁ。綺麗な顔立ちだ。
「カズマって、女の子の趣味が変わったんだね。」
「んだよ。急に。」
「だってさ、女はグラマラスに限るって言ってて過去に連れてた子もそうだったけど…。」
このタイミングでルネと視線が重なった。
いや。
いやいやいやいやいやいや!違う違う違うし!
「歳を取ると女性の趣味が変わるって本当なんだね。」
大きな瞳を細めて微笑む彼はとても絵になるけど、私はそんなんじゃないっ!
「違う。俺はこんな洗濯板みたいな女とは付き合わねぇ。」
「せっ…洗濯板!?」
思わず声が裏返って出てしまった。
「だって出てる筈のパーツがぺったんこじゃん?」
「最悪!胸やお尻で女性を評価するなんて最低!」
「俺だって直ぐ怒る女は嫌だ。」
まあまあ。と笑いながらルネが私達の間に入ってきた。
「からかってごめんね。真琴。」
突然ルネはそう謝ってきたのでビックリした。
「ったく。お前分かってるんだろ?ルネ。」
「うん。だけど真琴は面白いね。興味があるよ。」
なんだか男2人で話が進んでるけどさ…私、ルネに自己紹介したっけ?
「真琴」って名前で呼ばれたけど、私からまだ名前なんて言って無いよね…?
「うん。自己紹介はまだだよ、真琴。」
「え…?」
驚きのあまりに硬直したままルネの方を見た。
何で分かったんだろう?カズマが言った?何時?事前に?
でも事前に言ってたらもっと簡単にこのお店を見つける事が出来たよね?
「ルネ。いい加減、真琴が混乱してっぞ。」
「だってこんな反応久しぶりだからさ。」
クスクスと悪戯をする子供みたいな微笑みをルネは浮かべて私を見ていた。
やれやれと言った様子でカズマは私の背中を叩き
「あー真琴。これはルネのエレメントだ。」
「エ…エレメント………?」
「ルネは人の内側が読めるエレメントをもっているんだよ。」
な。
何?その反則級のエレメント能力はー!?
人の内側って心の中とか考えとかでしょ?
そんなんが読めるって反則でしかないでしょー!
じゃあ今ルネは私の心を読み取ってた訳?
「うん。そう言う事。」
無邪気な笑顔でルネは私の前に出て来た。
「はじめまして。僕はルネ。一応カズマの友達。」
「一応ってなんだよ。」
怪訝そうな顔でカズマが突っ込んだけどルネは私を見たまま離さない。
「カズマも真琴も店に入る前から内心ダダ漏れだから凄く面白かったよ。」
「だ…だだ漏れ…。」
どれだけ距離を取ればルネに読まれないのだろうか…?
「距離かぁ。測った事は無いけど店外くらい迄の距離は読み取れるよ?」
「ああああああっ!」
ズバズバと思った事の解答が出されてしまい、恥ずかしさの余りに顔が熱く感じる。
私は力無くその場でうずくまった。ってかそうする事しか出来なかった。
「あははは!もう真琴の事は読み取らないから顔を上げて。ね。」
ホラ、イスに座ってよ。と促してくれたので座ったけど恥ずかしさの余りに顔が上げられなかった。
「なぁ、内側を読み取らないなんて出来んのかよ?」
カズマが不思議そうに聞いてる。
「アカデミー時代はそこまで出来なかったけど、卒業してから完全にコントロール出来る様になった。じゃなきゃ僕が駄目になる。」
「まあな。テメエの心が潰されるからな。」
そうだよね。
他人が考えてる事、思ってる事が全て分かったら楽かもしれない。
でもとてつもなく疲れてしまうのも確かだ。
他に知られたく無い情報を持っていたら、誰もルネには近寄らなくなる。
それが大事な人だったら?ただ辛いだけだな。
凄いエレメントかもしれないけど、逆に凄く切ないエレメントかもしれない。
ルネがスパイとかだったら無茶苦茶恵まれた能力なんだろうけど。
だから場所を転々として、こんな人が近寄らない場所に店を構えているんだろうな。
「冷めないうちに。」
ルネの声で気がつくと目の前に紅茶が振舞われていた。
カズマもカップに手を出したので、私も「いただきます」と頂いた紅茶を口にした。
ほのかに香る甘い香りに癒される感じがした。
「この辺の近くに農場があるから、そこの地主から依頼があったんか?」
紅茶を一口飲んだカズマがそう話始めた。
「そう。奥さんと娘さんの服を仕立て直ししたいって。それも昨日納めたら、そろそろ移動しようと思ってたんだ。」
「次は何処に行くんだ?」
「東の方に。大口の注文が入ってさ、暫くは其処に居そう。」
「そうか。なら今日寄れて良かったや。」
「フェルタと先週話したから彼が来ると思ってたけど、やっぱり少尉ともなると忙しいんだろうな。」
「俺じゃ不満か?」
「不満じゃないよ。カズマは何時も余計な事を考えてるから絶対飽きないし。」
「オイ。真琴は読まないで俺のは読むんかよ。」
「いいじゃん。減るもんじゃないし、慣れてるでしょ?」
「減る!減るから読むな!」
不貞腐れた表情でカズマは紅茶を一気に飲み干した。
空になったカップに新しく紅茶が注がれる。
何だろう。ルネはフェルタにも会いたかったのかな?
「フェルタは余り読めないんだよ。所謂『何を考えているか分からない奴』なんだけど、僕からしたら凄く楽な相手なんだよ。」
「もしかして…また…。」
「もう内心は読んでないよ。真琴がそんな顔をしているからだよ。」
カッと再び顔から火が着いた様に熱くなった。
内心を読み取る力もあれば、人の表情を読み取る力も長けてるのか…?
「ケビンって友達もいるんだけど、彼は孤高でね。むしろ心地が良いんだ。」
「で、カズマはダダ漏れ。と。」
「うん。至極ダダ漏れ。」
「テメエ等、好き勝手言ってんなよ。」
不機嫌極まり無い表情でカズマは私達に睨みを効かせた。
「ルネさ、真琴はどうだったんだよ。腹ん中は。」
「ちょっと!私はどうでも良いじゃん!」
私も辱めの道連れにする気だな。カズマの顔がニヤニヤした笑顔に変わってるもん。
「真琴?だから言ったじゃん。面白いって。興味があるってさ。」
お…面白い…?
そんな中々謎な評価を貰う事になろうとは思いもしなかった。