side 1-1
サイドストーリーとなってます。
ルッツ〜ミメン道中の話です。
「なぁ。ちょっと寄りたい所があんだけどさぁ。」
微かにそんな言葉を掛けられた。
車内へと優しい日差しが降り注ぐ昼前。
いつの間にか眠っていた私は目を擦りながら、声の主であろうカズマの方へと見た。
「………なに?トイレ?」
「違う。この辺にダチが居るらしいんだよ。」
「らしい?なの?友達なのに分からないの?」
「ああ。自由な奴でさ、店を構えては場所を変えて色々な土地を巡っている奴なんだよ。」
カズマの話を聞いて想像したのはコーヒーとかパン屋の移動販売車。あんな感じ?
じゃなきゃ色々な所を回れないよね…。
しかしカズマの友達かぁ。
何しろフェルタって言う子供がそのまま大人になった様な彼も学生時代からの友達と聞いているが…これから会いに行こうとしている友達も自由なんでしょ?彼等の学生時代がどれだけのものだったのか想像出来ない。
「その友達って、どんな人?」
「んーーーー。変わった奴だなぁ。」
私にとってはカズマもフェルタも変わり者だが、そんな変わり者に変わり者扱いをされるって…どんだけ?
「カズマもフェルタも変わってるじゃん。」
「俺は仲間内じゃ一番マトモだ。」
「カズマでまともかぁ…。」
「んだよ。その呆れた言い方。」
ゆっくりと大きい通りを離れてジープは小刻みに揺れ始めた。どうやら道無き道を走っている様だ。
「ねぇ。」
ふと思ったまま、カズマを見ながら続ける。
「カズマとフェルタって、どんな生徒だったの?」
「あ?アカデミーの話か?」
「そうそう。道中無言なのも飽きちゃったし、何か話してよ。」
「飽きちゃったって何言ってんだか…。」
「特にフェルタなんて色々伝説みたいなのを残してそうだよね。どお?当たってる?」
じっとカズマを見つめながら彼からの返答を待つ。
眉毛をややひそめながらカズマは
「まぁ…未だにアカデミーでの様々な記録は破られて無いかなぁ。」
「記録?」
「あぁ。アイツって入学試験は史上最高点で入って来てるし、卒業も首席で在学中は常にトップだったな。」
「………意外。」
嘘みたいな話で逆に少し引いてしまった。
「運動神経も良いし、基本飲み込みが早くて要領も良いから何をやらせても右に出る者がいなかったな。」
あ。この辺は今でもそんな感じがするな。
「じゃあ、あのルックスだから相当モテたんじゃない?」
「入学当初はな。でも昔から口を開くとああだから、3ヶ月もしたら本物の物好きしか近寄らなかったな。」
「成る程。カズマは本物の物好きなんだね。」
「違うし!」
あの常にハイテンションなノリは生まれ持った物なんだね。『三つ子の魂百まで』とはこの事か。
「その点では俺の方がモテた!」とカズマは自慢気な顔をしていた。
「ふぅん。でさぁ。」
「オイ!そこ1番大事な所!ふぅん。じゃあねえ!」
「あーはいはい。じゃあモテたカズマ殿に伺いますわ。」
「扱い雑だな。オイ。」
チラチラ時折此方を見ながら怪訝そうな顔をしている。
まぁ今の段階なら確かにカズマの方がモテたんじゃないかと思うな。
「どうやってフェルタと仲良くなったの?」
「あぁ。単に寮の部屋が一緒だったなだけ。」
「なんだ。意外と単純な理由ね。」
「俺とフェルタが相部屋だったんだけど、その内隣部屋に居たケビンとルネで課外授業で関わる様になってから大概はこの4人で居たな。」
この話、コンチに居た時にチラッと聞いたな。
確かケビンは全身タトゥーだらけで今はワールドツアー中とか。
「もしかしたら会いに行くのって、ケビンさん?」
「残念ながらルネの方。」
カズマの友達の中でも1番情報が少ない人物か。
なんだか名前だけだどフランス貴族みたいだなぁ。でもカズマよりフェルタよりも変わってるんでしょ?想像がつかないや。
此処で一旦会話が途切れてしまった。
ジープは相変わらずガタガタ道を走り進む。道は進めど、誰かが居るような物陰は一向に見えない。
「……………中々見えないね。」
「アイツ場所移動したのかなぁ?フェルタの話だと後半月は居るって言ってたしなぁ。」
「フェルタの事だから、その話自体が実は1ヶ月前とかの情報かも知れないよ。」
「………ありうるな。」
深過ぎる溜息を吐いてカズマは唸りながら
「あと1キロ走って何も無かったら元の道に戻っか。」
その方が賢明な判断かも知れない。
そうは言ってもトゥーマに向かう道中の最中だ。カズマも早々に終わらせたいみたいだし、私も早く解放されたいし。
ぼんやりとそんな考えを張り巡らせてた時だった。
やや小高い丘を越えた時、原っぱにポツンと白い箱の様な家を見つけた。
「あ…あれって…。」
私がそう口を開いたと同時にカズマが前のめりに見ながら
「ああ。あれがルネの店だ。」
ジープのスピードがやや加速され白い箱の様な家に向かう。近くにつれて分かった事なんだけど、中々な大きさのお店だ。
でもさ、結構立派なお店を構えているけど転々としているんだよね?各地にこんなお店を持ってんだろうから、きっと事業に成功しているんだろうな。
「ねぇ。カズマ。」
「何?」
「ルネさんのお店って何やってる人?」
「服飾系。服とかを作って売ってんだよ。だけど人付き合いが無茶苦茶下手くそでさ、1人でやってんだよ。」
アイツも友達が俺等くらいでさー。とカズマは付け加えてくれた。
人付き合いが苦手なのにお店を持つって、相当お洋服が好きな人なんだろうなぁ。
気が付けばジープは店の横に止め、長らく聞いていたエンジンも静かに停止した。