1-35.5
*この回に関してはクラウンの語り手となります*
「なあーんか引っかかるんだよなぁ。」
その言葉は既に2桁を超えていた。
今日だけの話ではない。コンチ・シティを離陸してから手隙の時間が生まれると、ふと思い出したかの様に呟くのだ。
「衣服の何処かが引っかかってますかね。少尉。」
「うーん。引っかかり違いだねぇ。それは。」
「50点!」と良く分からない点数を少尉から貰った。
あと数時間で目的地のレーザン国に着陸する。
急遽離陸が早まったのはレーザン国近隣の都市でハリケーン被害によるトラブルが発生し、鎮圧が目的である。
それに本来の目的である女王陛下の式典も控えているのもあってセントラル内は何時も以上に慌ただしくある。
何人とも行き交う廊下を少尉のやや後ろを合わせて歩く。
「何かが思い出せないでいるんですか?」
「ま。思い出せないならその程度なんだよ。」
「大した事は無い。と言う事でしょうか?」
「恐らくね〜。」
大体そう言っておいて、実は肝心な事柄だった事例が少尉の場合は数多くある。
しかも思い出すタイミングが割とギリギリなのが殆どなので個人的には早急にスッキリして頂きたい。
「少尉の引っかかりは勤務内の話ですかね?」
「う〜ん。違うなぁ。」
「なら私達部下の指示では?」
「違うけど、今日中にシロンからの結果報告書読まなきゃ。」
「でしたら今回のハリケーン被害ですか?」
「それも違う。」
「式典ですか?」
「サーベルが行方不明だけど違う。」
「それはそれで問題なので見つけて下さい。」
「今、シロンが探してる〜!」
……………矢張り思い出すのに時間が掛かるな。
「あ!」
張りのある大きな声と共に、少尉の歩みが止まる。思い出されたか。
「どうしよう!クラウン!」
「思い出しましたか?」
「女王陛下のスコーン、期間限定のカボチャを入れて貰うの忘れた!」
……………は?……………
「カボチャ。ですか。」
「そう!陛下って味に冒険を求めないから通常ならプレーンので良いだけど、カボチャだけは別でさぁ。」
「それが引っかかってる事案なら、心配した私の時間を返して下さい!」
「えー。時間は返せないよぅ!」
全く。そんな事でずっと呟いてたのか。
流石と言うか、相変わらずと言うか。少尉の考えは上手く読み取れない。
ただただ、深い溜息をついてしまった。
「それにさぁ。引っかかってるのは又違うんだよなぁ。」
それとは別件?違うのか。
くるりと少尉は背を向けて再び廊下を歩き始めたので、同じ間隔で後に続いた。
「そもそも何処から気にされてるんですか?近々ですとコンチですよね?」
「う〜ん。カズマに会ってからなんだよね。昔カズマと関わった様な。」
「昔ですか。仕事の依頼とか、プライベートですかね?」
「ううん。アカデミー時代。多分。」
流石に範疇外な話だ。
思い出すのに引き出そうとしても、少尉とは数年後輩である私には無理な話だ。
アカデミー時代の数多ある少尉の伝説は知り尽くしているが、御学友であるカズマ王子までは分からない。
もうこうなったら少尉には頑張って思い出して頂くしかない。
私の予想だと中々思い出さない分、この引っかかってる話は重要な案件に間違いは無い。
「あ。クラウン、また思い出さないから厄介な事になるって思ってんでしょう?」
「御名答です。」
少尉の考えは読み取り難いが、少尉自身は他人の考えを読み取るのに長けてる。
そんな訳で一刻も早く思い出して欲しいものだ。
「大丈夫だって。アカデミー時代でしょ?カズマに聞くし。あ!ついでだから経過報告も聞いとこ。」
ふと、真琴の姿を思い出す。
表情は不安そうな笑顔ばかりを思い出す。元気にやっているだろうか?
カズマ様と一緒だから余計な心配は無いが、初めて対面したドロップ者なせいか矢張り気になる。
「ねぇねぇ、やっぱドラゴンに乗ったのってカズマ達だってさ。凄いねぇ。」
「少尉の事ですから、速攻でカズマ様に連絡されて羨ましがったんでしょうね。」
「あれ?見ていたの?」
少尉の考えは上手く読み取れないが、逆に行動は分かりやすい。
本能のままに動く姿は子供と変わらないので容易に想像がしやすい。
「流石にドラゴンとなると、マスターにでもならない限り乗りこなせないからなぁ。」
「少尉はドラゴンに乗った事は?」
「一応あるよ。」
「あるんですね。いつですか?」
「アカデミーの戦地訓練中にね。突然紛れ込んでさ、アレコレしてたら偶然で乗れた。」
「アレコレで乗ったんですね。」
正直アレコレが1番知りたい重要な所ではないか?
「現地教官に無茶苦茶怒られたねぇ。」
「神に近しい生物ですからね。それは仕方がありませんね。」
「でもね、センスあるって評価は良かったんだよ〜!」
当たり前だがセンスだけで戦地は乗り切れないので、その前後での評価がすこぶる良かったのだと思われる。
間違ってもドラゴンの評価では無いと思う。
微かに聞こえていた足音が次第に自分達の背後に迫っているのに気付く。この足音はシロンだろう。
振り向くと少し制服が埃まみれになったシロンが得意げな表情で此方を見ていた。
左手には更に埃まみれになってるサーベル。
少尉のお願い通りに何処からか発見したのだろう。
「凄い埃だな。大丈夫か?」
「死ななければ基本全てが大丈夫だから。」
相変わらず全力で塩対応なのは、今も少尉と同行しているのが面白くないのだろう。
そんな私の横をサッと通り越してシロン少尉の前に出た。
「フェルタ様、見つかりましたよ!」
「ありがとうシロン。よく見つけたね、何処にあった?」
「資料室の本棚と本棚の隙間にありました!」
しかし良くぞそんな場所から見つけ出したな。
と言うか、何故そんな場所にサーベルが落ちてる?そんな所にサーベルが普通落ちてるか?
「あ!そうだ!極秘資料が隙間に入っちゃってね。」
どうやったら本棚の隙間に書類が入るんだ?
そもそも極秘資料がそんな扱いでいいのか?
「微妙な隙間で手が入らなくてさ、近くにあったサーベル使ったんだよね。」
「少尉はサーベルで資料を取ろうとされたんですね。」
「でもさ、あと一歩って所でサーベル落としちゃってさ!サーベルまで取れなくなったんだよね!」
「フェルタ様ってうっかりされてますね〜!」
全くもって、うっかりでは済まされない話である。
正式な場所であればあるほどサーベルの携帯は規則なのに、最近表立った場所に行きたがらなかった理由はこれか。
「で、少尉は忘れてたと。」
「うん。」
悪びれる事なく、真っ直ぐな瞳で頷かれた。
「僕の手じゃ届かないから後で取ろうと思ってて…忘れてた。」
「何時頃の話ですか?」
「んー。2ヶ月前くらい?」
忘れ過ぎにも程があるだろう。
「そうだ!資料も取らないと怒られるな。シロン、サーベルの奥に資料はあった?」
「紙束みたいのはありましたが、流石に奥過ぎてサーベルまでしか届きませんでした。」
「ところで少尉、その極秘資料って何の資料ですか?」
そう言い終えた瞬間、「あっ!」と廊下全体に伝わる様な大声を少尉は張り上げた。
「極秘資料と引っ掛かってるの、繋がってるかも。」
廊下が再び静まり返った。
「少尉!それは本当ですか?その資料とは?」
「えっとねぇ」
ゆっくりと腕を組んで天井を見上げる。
「確かねぇ。」
だんだんと少尉の表情が曇って行くのが分かる。これは。
「何が極秘だか資料内容忘れちゃった。」
ああ。これは思い出すのに時間が掛かる。
そんな不安が確信に変わった瞬間であった。
今回の話で所謂「序章」的な部分は終わりとなります。
続きは一旦お休みし、出品したい他の作品のテコ入れが終わったら再び戻って来ます。
冬前には戻りたい。でも次なる「ミメン編」の着地点が薄ぼんやりとした部分が多々あるので、そこが見えたら一気にやり抜きたいと思っております。
しばしの別れですが、また以降の話もよろしくお願い致します!