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ワールズエンド  作者: 轉 優夏
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1-29

ただひたすら漆黒の夜空の中を私達とドラゴンが駆け抜けていく。

ドラゴンもコンチ周辺の時よりもスピードは下がり、怖いとは感じ難い速さで一路ルッツへと向かっている。

時折、蛍の様なささやかな光が所々見える。

この世界にも様々な人達が生活しているんだな。

とても静かな夜を過ごしていた。


この瞬間迄は。


突然借りたジャケットの胸元が小刻みに震え出した。

内ポケットを見てみると端末機からぼんやりと光りながら震えている。

「カズマ。端末機が…。」

「……………。あんま良い予感はしねぇな。」

「良い予感?」

「この騒ぎの後だからな。端末機貸して。」

震え続けている端末機をカズマに手渡すと、難しい顔をしながら端末機を耳にあてた。

「もしも…」


『あのさ!ドラゴン乗ってったカップルってカズマ達だよねっ‼︎』

風の音しか存在しない静かな空間を、スピーカー越しに聴き慣れた声がこだました。

「あー。違うな。そもそも俺達はカップルじゃねぇし。」

『じゃあ聞き方かえる!コンチでドラゴンに乗り去った男女が居たって報告入ったんだけど、カズマ達だよねっ‼︎』

「それがどうした?」

『良いなっ!羨ましいっ!僕も乗りたかったっ!』

「なら最初っからオメーがトゥーマまで護衛すりゃ良かったんだよ。」

そう。あの弾んだ声は間違いなくフェルタだ。

彼の耳にもドラゴン騒ぎの情報が入ったのだろう。

我武者羅に此処まで来ちゃったから考えもしなかったけど、セントラル内に情報が回ってるって事はそこそこの騒ぎになっているみたいだ。

「で、なんだ?羨ましいだけの連絡なら切るぞ。」

『あーそれなんだけどさ!コンチでそんな騒ぎがあったから今、ルッツのから支部の人間が状況把握でコンチに行っちゃってるんだよ。車で。』

「ふーん。」

『支部の車って1台しか無いから、戻って来るまでルッツで待っててね〜って話をしたかったの!』

「まぁ、入れ違いになったって話だな。」

『そ!カードあれば一旦は大丈夫でしょ?』

「まぁ色々あって疲れたしな。今日だけでルッツに着くみたいだし、1日余計に報酬保証して貰ったしだから宿でゆっくりするわ。」

『保証って何だっけ?』

「おいっ‼︎お前、忘れんじゃねーぞ‼︎」

しかし、元気な殿方達だわ。

今朝のドラゴンの件といい今のドラゴンの件といい、電話相手に良くあれだけ大きな声が出せるもんだ。

こっちの世界の人間って、あの身体能力を考えたら意外とタフに作られてるかも知れないな。

私なんて使わない力を使ってもう疲れちゃったし。

ごはんも沢山食べたせいか凄く眠いし。

本当に目が重いや。眠いなぁ…。

「おい、真琴!どうした?」

だから眠いんだってば。みんなとは違うんだよ?火出したり水出したりしないんだからね。


だんだんとカズマの声が遠くなる。

ごめん。

ほんの数分でいいから目を閉じさせて。







************



珍しく母さんが黒い服を着ている。

いつも白いブラウスにパンツといった格好なのに、どうしたんだろ?

「真琴、行くわよ。」

何処に行くの?

「ホラ、青いシャツのお兄さんの所よ。」

青いシャツなお兄さん?誰?親戚?

「忘れちゃった?」

私の隣に寂しそうな顔のエリーが聞いてきた。

ごめん、分かんないや。

「沢山遊んで貰ったんだから、挨拶に行くのよ。」

エリーも行くの?

「私は行かないわ。お家で待ってるね。」

え…なら私もエリーと待ってる。

母さんと一緒でも何時も仕事、仕事でつまんないんだもん。

エリーと遊んで、オヤツ食べていた方が楽しいもん。

「真琴はまだ小さいから分からないけどね、今日はママと一緒に行きなさい。」



そうだ。

それからエリーが黒いワンピースを着させてくれて、少しだけ長かった髪も結ってくれたんだ。

それから仕方無しに母さんと一緒に出掛けたんだ。

母さんはずっと泣いていて、終始居心地が悪かった記憶がある。

後は余り記憶に無い。

断片的に沢山の大人の人がいたな。とか、フルーツの缶詰を沢山貰ったとか。

後は…帰りに母さんとごはんを食べたんだっけ?

母さんとは僅かにしか無い出掛けた記憶。私自身、最古の記憶だ。





************



パッと目を開くと見た事が無い木目が飛び込んだ。

その正体は照明機器を見た瞬間、天井だと理解した。

勢いよく体を起こして辺りを見渡すと、シンプルな調度品が置いてある室内な事を確認した。恐らく何処かのホテルか宿なんだろうな。

目を閉じてから…あれからどうしたんだろ。

光がある方へ顔を向けると、窓から溢れんばかりの陽の光が射し込んでいる。

少なくとも半日近くは経過しているみたいだ。

あれ?

ドラゴンは?カズマは?

何方も姿は見えない。何処へ行ったんだろか。

右側に設置されてたサイドテーブルを見ると1枚の紙が不自然に置いてあるのに気付き、視線を落とした。


「支部に行ってくる。起きたら冷蔵庫にサンドイッチとお茶があるから食べて待ってろ。カズマ。」


支部って事はどうやらカズマと無事、ルッツには到着した様だ。

しかしカズマはその支部に行ってるし、支部の住所も場所も分からないから私自身何も今は出来ない。

確かにお腹は空いた。しかしまだ少し横になっていたいのも本音だ。

結局は再びベッドに身を沈めて、また瞳を閉じて寝具の感触に落ちて行った。

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