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一瞬、辺りの騒々しさが静まり返る。
その次の瞬間にドアをノックする音が2回部屋中に響いた。
息を飲む。返事をしようとしたが、その前に鍵が開く音が聞こえたのでそのまま口を閉ざした。
静かに開かれた扉から入って来たのは先程のザ・役人の2人だった。それと水差しを持って来てくれた女性。後は何人か見た事がない顔が見える。護衛か?
このザ・役人のどちらかが、そのフェルタ様とかであろう。
「で、さぁ。」
鳶色の短い髪と瞳を持つザ・役人が唐突に話しかけた。
「どうしたの急に。さっきまで話掛けても無反応だったじゃん?」
凄く軽い口調で此方の顔を覗き込んで来た。警戒心ゼロか。
「あれ。お話し出来るんじゃなかったの?」
「その聞き方が悪いし相手が話すタイミングも与えなければ困惑するしか無いでしょう。」
そうバッサリ切り捨てたのはザ・役人のもう1人。短い銀髪に青い瞳。右目にはモノクルが光る。
「だってさ〜。」
「だっても何も無いでしょう。少尉。」
鳶色の方が上官なのだろうか、少尉って言ったら…偉いんだっけ?でも多分国関係者なのは間違いない。
しかし…軽いなぁ…。
そんな考えをしている間にスッと目の高さまで銀髪モノクルの方が屈んで来た。
「失礼な所をお見せして申し訳ない。」
よく見るとシュッとした男前だ。
「それと此方の個室に軟禁状態だった事も併せて説明させて致しましょう。」
そう言うと銀髪モノクルは一呼吸入れた。
銀髪モノクル。名前はクラウンと名乗った。
此方の目をジッと見つめたまま話は進んで行く。
「先日そちらにいるイルマが君を発見した。」
先程水差しを交換してくれた女性が小さく此方に向けて頭を下げてから
「あの…外に出たら、納屋の横にある木に…。」
イルマの話は要約するとこうだ。
7日前の昼過ぎ。昼ごはんを食べてから畑仕事の道具整備をするのに納屋に向かった。
その納屋の横にある枯れ木に引っかかる様に自分がいたそうだ。
明け方まで巨大ハリケーンがこの土地を通過していたらしい。この辺りでは見ない顔だったのでハリケーンに飛ばされて来たか?それとも何かの事件か?そう思い警備隊(警察みたいなもん?)に報告したそうだ。
「念の為に町医者に見て貰って、意識は無かったが外傷も少しの打撲があっただけで生命に問題は無いと言っていましたよ。」
クラウンは優しく微笑みながら話を進めるが
「しかし町医者が言うんですよ。無いって。」
「無い?何がですか?」
「エレメントが。」
「エレメント?」
はいキタ。訳分からないキーワード。
エレメントって日本語で成分…だっけ。それが無いって…ってかそれ知らないし。
「あの…そのエレメントって…。」
「コレコレ!」
鳶色のザ・役人が声を上げた。
そう考えたら、こっちがフェルタ様とやらだろう。左手にしていた手袋を外し此方側に掌を見せた。
しかし随分と騒がしい役人なんだろうか。
「……太陽…?」
「コレがエレメント。」
「コレがエレメント。じゃあ分からないでしょう。少尉。」
サクッとクラウンが割って入る。
掌には太陽のタトゥーがあった。
太陽のまわりに文字か何かが施されて、ちょっと洒落た感じで「ファッションだ。」と言われてしまったら納得するレベル。
「全く、毎回少尉の説明で全員理解するかとお思いでしょうが、省略し過ぎて…。」
「じゃあクラウン、お願い。」
「……………。」
「説明上手じゃん。その為のクラウンっしょ?」
軽い答えの少尉に深過ぎる溜息をついてクラウンは此方を見る
「少尉、とりあえず危険人物では無さそうなので軟禁状態の解除を提案します。」
「うん。いいよん。」
少尉の回答は相変わらず軽い。
そして再び目線の高さでクラウンは
「先ずは軟禁の件は君が危険人物か否か不明だったのでそう対処させて貰った。お詫びする。」
「……………はい。」
「恐らく君はドロップした人物だろう。私もドロップ者を初めて見るから詳しい事は分からないが…先ずは別室で君の話も聞きたい。」
「ドロップ?」
「細かい事は別室で説明しよう。始めに君の名前から教えて欲しい。」
「私は…真琴。川北真琴です。」
そう名乗るとスッとクラウンから手を差し伸べられ、静かに受け取る。
「ようこそ。真琴。」
クラウンの静かな声が暗い密室に響いた。