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ワールズエンド  作者: 轉 優夏
20/41

1-20

天空から大きく旋回したドラゴンはゆっくりと下降し、脳震盪を起こしている赤黒いドラゴンの隣へと静かに着陸した。

新たに現れたドラゴンは緑の鱗が光る美しいドラゴン。ふとドラゴンの首元辺りから人の影が見えた。


「手荒なやり方だが、適切と言えば適切かな。」


そう言うとドラゴンから降りて来た人物は倒れたドラゴンの頭をそっとさすった。

何か呟いた様に倒れたドラゴンに接すると、スッと赤黒いドラゴンは頭を上げて辺りを伺う。

さっきの暴れた姿を思い出して身構えてしまったが、赤黒いドラゴンはその人に頭をすり寄せた。


あの人が「ドラゴンマスター」なんだろう。

ゆっくりとその人は私達に近寄って来た。

銀色の長い髪。男の人かな?女の人かな?とても中性的な、神秘的なものを感じる人だった。

ぴたりと歩みを止めて私の前で止まった。

「私どものドラゴンが大変失礼をした。恐らくハリケーンの影響で感覚が狂ったのだろう。」

「は…はい。」

エメラルドというのかな?宝石の様な瞳。吸い込まれそうだ。

「被害は…あの車か。代償はどうしようか。」

「あの…私では…。」

何で私にどんどん話を進めて行くんだろう?チラチラとセントラル集団に視線を送り、気付いてくれたクラウンが私の隣に来てくれた。

「あの車は私達の物ですので、ここは私が。」

「そうか。重ね重ね失礼した。」

吸い込まれそうな瞳から解放され、隣でクラウンとドラゴンマスターとの会話が交わされてく。

凄く綺麗な人。そんな第一印象だった。

声の低さから察すると男性かもしれない。その人の容姿を見惚れてしまってた。



『ドラゴンと一緒に住んでた人とは友達で…』



エリーの言葉を思い出す。

もしエリーがこの世界の人間だったならば、この人は話に聞いてた友達なのかもしれない。

だからって急にそんな話をしだしても全員ビックリするだけだよね。私はぐっと思いとどまった。

「それではその方向でお願いしたいです。」

耳に届いたクラウンの声で現実に引き戻される。ドラゴンマスターも「承知した。」と頷いている。

どうやら廃車寸前なジープの代償内容は決まったらしい。

「ね!大丈夫だった?」

クラウンの耳元で小さく聞いてみた。

「はい。良い取引きが出来ましたよ。」

良い取引き。どんな内容なんだろう?

聞いてみたくて話を続けたかったけど、再びドラゴンマスターと目が合ってしまった。

あっちもノーリアクションな表情だけど私を見たままだ。

何か私したっけ?もしかしたらこの世界の人間じゃない事がバレた?

その視線の奥に説明し難い圧力を感じるのは私だけなんだろうか…。

「それではクラウン殿、詳細は追って連絡する。私も余り長居が出来ない身分なもので。」

何故視線が此方のままで話すかなぁ…。

私も私で視線をそらせばいい…そうだ!見なけりゃ良いんじゃん!簡単な話だ!!


「娘。」


私?思わず自分を指差してみると、ドラゴンマスターは静かに頷いた。

「な…んでしょうか?」

またあの綺麗な瞳に射抜かれる。

「ドラゴンに触って行くか?」

また何故、触る話になるんだ??

2匹のドラゴンをドラゴンマスターの肩越しから見る。赤黒いドラゴンもさっきの騒ぎが嘘の様に大人しくしている。

「真琴、ドラゴンに触ると良い事があると聞いた事があります。」

ポンとクラウンは私の背中を押してくれた。

「でも…。」

「滅多にない事ですからね。行ってらっしゃい。」

くるりとドラゴンマスターは背中を見せると、スタスタとドラゴンの方へと向かって行く。私も慌てて後を追った。



『緑のドラゴンは1番温和な性格だからその子を撫でたわね。』



触るなら緑のドラゴンかな。

流石に頭を叩けと言った方のドラゴンは色々な意味で気がひける。

もしかしたらあの緑のドラゴンはエリーも撫でたドラゴンかもしれないなぁ。

しかし…言われるままについて来たけど、やっぱり間近で見るドラゴンは空に届きそうなくらいに大きい。

赤黒いのもそうだったけど、緑の子も中々立派な大きさである。

「おっきい…。」

「どっちのドラゴンも触って大丈夫だ。」

そっと手を伸ばして緑のドラゴンの右前足辺りを撫でる。

話に聞いた通りで鱗に覆われた所は固いけど、少しだけ暖かさを感じる。爬虫類みたく低体温な生き物かと思ってたけど違うんだな。


「上手く言えないが、ありがとう。礼を言う。」


今度は突然謝られた。

ドラゴンの事かな?まあ殺さないでくれて「ありがとう」って意味かな。軽くコッチが殺されかけたけどね。

私が頭を叩けって叫んだからな。きっとクラウンはさっきの話の中で説明したのかもしれない。

「は…はい。」

無視するのも失礼な話だから、一応返事はした。

その時だった。

赤黒いドラゴンの頭ががキュルキュルと私の体に擦りつけてきた。何て言うのか甘えてる感じだ。

「うひゃあ!」

「悪かったと言ってる。」

淡々とドラゴンマスターは通訳をしてくれるが、赤黒いドラゴンの戯れ具合が地味に激しくて凄くくすぐったい。

「くすぐったいって!本当!」

ドラゴンは大人しい生き物。

エリー。貴女の言っていた事は本当だったよ。

亡くなる前は不思議な話が子供じみて何となく嫌だったけど、本当だったんだね。

「私も悪かったってば!ごめんね。頭痛かったね。」

「お前ら、そろそろ終わりにしないと娘が怪我してしまう。」

キュン…とドラゴンから解放された時には髪も服もぐちゃぐちゃに成り果ててた。

良かった。本当に怪我するかもしれなかったわ。

身なりを簡単に整えていると、頭上からそっと影がさした。

見上げてみるとドラゴン達が何かを咥えている。

「娘、礼だそうだ。手を出して欲しいと言っている。」

ドラゴンマスターの言われた通りに手を差し出すと、小さくカランカランと無機質な音がした。

「鱗…?」

赤黒いと緑の鱗が数枚。魚の鱗よりは形も違えば大きさも比べたらドラゴンの方が断然大きかった。

きっと自分達の物だろう。

「ありがとう。」

そうドラゴン達にお礼を伝えると、2匹共に大きな翼を広げた。

「最後に娘。」

風が強くなる。ドラゴンの翼も2匹分となると相当な風量だ。

「娘の名前を知りたい。」

「真琴。」

「そうか。」

そう一つ呟くと颯爽と緑のドラゴンに近寄り首の辺りを撫でると、一気に乗り上がった。

「あの…私も名前も聞いて良いですか?」

「私のか?」

少し驚いた表情でドラゴンマスターは私を見下ろした。

だって、聞かれたら聞き返さなきゃ。

「皆はマスターと呼ぶが、本当の名前は久しく呼ばれてなくて忘れていたな。」

それってもしかして名前を呼んで欲しくない人なのかな?だとしたら失礼な事、聞いちゃったかも。

「あ!あの…別に…。」

「フィンだ。」

強風の中、少しずつドラゴン達は上昇してゆく。

「あ…あの、フィン、ありがとう。」

「礼を言われる程の事はしていない。又会おう、真琴。」

一陣の風が吹く。

目も開けられない風が吹いたかと身構えた瞬間、風が止んだ。

頭上からゆらゆら小さな影が2つ。

見上げるとドラゴン達がゆっくりと旋回していた。

もう手のひらに収まる大きさにしか見えない。さっきまであの巨体が目の前にあったのに。


私の手に残された鱗が太陽の光にさらされ、キラキラと輝いて見えた。

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