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ワールズエンド  作者: 轉 優夏
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1-2

あの金属音からどれ位たったのだろうか。


そんな考えが過ぎるって事は、恐らく電車事故から時間がだいぶ経過したと思われる。

あれだけの事故だ。相当な報道がされたに違いない。怪我人も出てる筈。自分も全身のあちこちが打撲かチリチリして痛みが引かない。

ただ、今はその詳細を知る術がない。


重い瞼を開けてみる。


薄暗い部屋。飾りが一切無い無機質な部屋。

少し体を動かすと、ベッドが軋む。そのまま上半身だけを起こして扉を見つめる。

灯りは扉の隙間から縁取った形で光が入るだけだった。

ふとベッド脇のサイドテーブルに目をやると、丸いパンと水差しが置かれていた。ここ最近の食事はみんなこれだ。そろそろ違う物も食べたいが、そうも言ってられない。

パンを口に運んだ瞬間、扉からノックする音が響く。

視線を動かすと扉から異国情緒溢れる正装で身を固めた男性2人が入って来た。

何かを喋っている様に聞こえるが言葉が分からない。

と言うか『言語』が分からない。間違い無く英語でも他の国のものでは無い、聞いた事の無いイントネーションだ。

此方を向いて話してくる。良く良く見ると男前な2人だが、てんで何言ってんのか分からない。

そもそも電車事故からこの部屋に居るのが更に分からない。謎しか出て来ない。

暫くしない内に男前2人はこの薄暗い部屋を後にする。扉を静かに閉め、鍵が掛かる音がする。


最大に謎なのは、この部屋に施錠されてる事。


外側に鍵が掛かっていて勝手に出入りが出来ない。そう。軟禁?拘束?とりあえずシュチュエーションからすると捕まってる様だ。

何故捕まってる?こっちが知りたいわ。

誰も居なくなった薄暗い部屋で再びベッドに寝転ぶ。古い物だろう。ギシギシうるさい。


何が何だか全然分からない。


そういや持ってた荷物ってどうしたんだろ。

部屋には…無いみたいだから、電車に置きっぱなしか盗られたか…あの言語不明の人達が保管してるか。

やるせなくうつ伏せになると、ふとシャツの胸ポケットに違和感を感じてみて取り出して見る。

「指輪…?どうして?」

シルバー素材で中心部分には不思議な光を湛えた石?が光る。こんなの持ってたっけ…?


ああ。これは…叔母が持っていた物だ。

数年前に若くして亡くなった叔母は、何故か何時も良くしてくれた。

亡くなる数ヶ月前に病院へお見舞いに行った時か、病室で叔母と2人きりになった時に


『君にだけは教えておくね。』

『私はこの世界の人間じゃないの。』

『誰も頼る先が無い時に助けてくれたのが、君のお父さんの弟だったの。感謝してるわ。』

『彼とは結婚も出来て一緒に居れて、幸せだった。』

『子供には恵まれなかったけど幸せだった。』


断片的に叔母の話を思い出す。そうだ。


『君にこれを渡しておくわ。君が本当に困った時に役に立つと思うわ。』


そう言うと細い指先から指輪を外して渡してくれた。

そのまま叔母は何かを話すと、そのまま眠りについた。

叔母はそのまま昏睡状態になり亡くなった。

元々不思議な話を沢山してくれた叔母。まだ小学生だった頃は叔母の話が大好きだった。

そんな叔母の持ち物だったせいか、亡くなった途端に指輪が無くなってしまったのだ。

失くしたのだろう。当時はデザインが気に入っていたから相当落ち込んだものだが、叔母が天国に持って行ったに違いないと考えを変えた。あの叔母だ、そのくらいは本当に出来そうだったから。


それが今、何故胸ポケットに。

確かに史上最大に困ってる。

場所不明、状況不明、言語不明。訳分からない。今の所、人生で1番困ってる。

だからって…。


「どうしろって…。」


そう呟いた瞬間、扉から静かにノックの音が聞こえた。ノック音に反応して振り向く。

あっ、でもその前に指輪をどうしよう。

またポケットにしまっておいた方が良い?でも失くしたら困るかもしれない。

あたふたしている間に扉は静かに開いた。

とりあえず指輪は右手薬指にはめて扉の方を見ると、水差しを持った女性が立っていた。

年齢は少し上くらいかな?綺麗めな女性だ。

サイドテーブルにある水を定期的に交換をしてくれてたみたいだけど、彼女だったのか。しかし…捕獲されてる様な人の部屋に良く入って来れるなぁ…。もしかしたら見かけによらず格闘技の使い手かもしれないなぁ…。


「あら、起きていたのね。」

彼女はそう言うとサイドテーブルに向かって歩みだす。

そういや新しい水は何時も仮眠やら寝てる時間に変わってたっけ。

「新しいのに交換しますね。」

「あ…ありがとう。」

その瞬間だった。

サイドテーブルに水差しを置いた手を止めたまま此方を凝視する。凄く驚いた顔だ。

「え…?あ、あの…話…出来るの…?」


あれ。本当だ。


不思議な事に彼女の言葉が分かる。何時も解読不明な言語で何かを言っていたけど…。

「あ…分かる…本当だ。分かりますね。」

「やだ。フェルタ様に伝えなきゃ…。」

「え?フェルタ様って誰?ねぇ…。」

此方の言葉を待たないまま、凄い勢いで部屋を飛び出して行った。


……………とりあえず言語不明は解決しそうだ。


でもその『フェルタ様』とやらは何者だろうか?

さっき居た男前2人のどっちかかな?何となく『ザ・役人』って感じだったけど…。

おまけに会話が成立した所で、この状況を打破出来るとは考え難い。

ため息を軽くつき、折角だから新しい水をコップに注いだ。

一口含むと新しい水は冷たく喉に心地よさを与えてくれる。しかしそんな事とは裏腹に扉の外側がだんだん騒がしくなって来た。間違いなく自分の事だろうな。

次についたため息はさっきよりも何十倍も深いものになった。

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