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「フェルタ様〜!!」
車の運転席側の窓からひょっこり顔が見える。
「ホラ、やっぱりシロンですね。」
「本当だ。良く分かったねぇ、流石クラウン。」
「彼女の行動を考えたら直ぐ分かりますよ。」
「フェルタ様〜!大丈夫ですかぁ〜?」
車のエンジン音に紛れて可愛らしい声がだんだんと近くなってくる。
私達が乗ってたジープ付近で車は停止し、運転席から小柄で可愛らしい子が降りて来た。
「うわ!やっぱ近くで見ると貸し出し用のジープが超ボロっちくなってるし。あ!!」
ててててっと小走りをして私達の元にやって来た。
栗色の長い髪と同じ色の瞳はくりくりとしていて、まるで少女の様な顔立ちだ。
しかし小柄な割にはスタイルは良く出る所は出てる所謂トランジスタグラマーな彼女は、私には無い物が充分に備わっている感じがした。
フェルタの部下というからもっと大人っぽい女性が出てくるかと思った。
「本部より異変を確認!シロンが応援に参りました!」
ピッと敬礼を取りニッコリ笑うシロンは小動物的な可愛さを感じた。
この愛らしさも私には無いな。
「もう終わっちゃったから大丈夫だよ?」
「そんな冷たい事言わないで下さいよぅ〜!」
素っ気なくフェルタがシロンに返すも、彼女はご機嫌な様子で続ける。
「そうそう。ドラゴンマスターから連絡も来ました!まもなくコンチに到着との事です!」
「そうか。ありがとう。」
意外な位に素っ気なさが続くフェルタに少し驚いた。
だって私の初対面なんか突然の質問責めだったし、ああじゃあ無かったし。
隣に居るカズマも静かにセントラルのやりとりを見ていた。
「ねぇカズマ。フェルタってセントラルの中じゃああんな感じなの?」
ふと気になってカズマに振ってしまう。
「部下の前ではちゃんとしろとか言われてるんじゃね?自分の上官に。」
「でもクラウンだって部下だけど、ノリツッコミが凄いじゃん。」
「まぁ新卒採用とかで比較的新しい子なんじゃね?俺もあの巨乳ちゃんは初めて見るし。」
「巨乳ちゃん…。」
確かにシロンを見る時は必ずと言って良いほど、ピンポイントで上半身を見てしまうレベルだ。
「部下が巨乳って良いな。」
「え。カズマってそんな嗜好なの?」
「大は小を兼ねるって言うしな。ま。お前には関係ないか。」
私を上から下までを一通り見ながらカズマが含み笑いを見せる。
じっ…と自分の体を見下ろした。
見事に足首まで障害が無く見下ろせるんだな。これが。
確かにこの世界に来てからも男性に間違えられる事はあったけどさ。
少しイラッとしたので軽くカズマの脇腹をつねってやった。
「さてと。どっしよかな〜。」
相変わらずの気軽な声でフェルタは私とカズマを見た。
どうもこうも、エンジンが死んでボディもボロボロになって成り果てたジープで目的地に辿り着く訳が無い。
「車両整備班に言えば回収は問題ないけど、次貸してくれるかなぁ?」
「ラウム様に事情を話せば良いのでは?」
「だって整備のジジイは1つの傷で2ヶ月文句を言うだよ?ほぼほぼ解体確定の車両を持って帰ったら一生言われるよ。」
「なら大尉か中尉に取り持って頂くとか。ラウム様とはカーレース仲間ですから。」
「ルークのジジイもクリッパーのジジイも面倒な性格だから話すのも面倒なんだよなぁ。」
セントラル、ジジイ多すぎ。
そんな中「はいはーい!」とシロンが挙手をしながら
「フェルタ様。ルーク大尉とセントラルから状況確認したのでジープの車両回収の手配は済んでますし、班長のラウム様にも事情はルーク大尉から口添え頂いてます。ただ他の車両手配についてはラウム様が現在外出してますので明日以降になるそうです。」
クラウンもそうだけど、フェルタの部下って有能な人材が集まってない?
シロンは遠くにあるセントラルから状況を発見、確認をしてから色々手配しながら応援までしに来たんでしょう?普通に凄いかも。
「そうか。ありがとう。」
にしてもだ。
シロンに対するフェルタは相変わらず素っ気ない。
「ちったあ評価してやっても良いじゃねえか。アイツも。」
とうとうカズマもぼやき、私も一緒に頷いた。
もしかして…フェルタって可愛い女の子が苦手とか?
その時だった。やれやれといった表情をみせたクラウンがフェルタとシロンの間に入る。
「シロンありがとうございました。それでは我々はドラゴンの引渡しがありますので、シロンは一旦セントラルに…。」
「い・や・よ!」
あれ?
「そーやってクラウンは何時もシロンをフェルタ様から引き離そうとするんだから!シロンも残ります!」
キャラ激変?可愛らしさ満点だったシロンの表情が険しいモノになった。
「シロンにお願いしました仕事は如何しましたか?」
「今回のハリケーンの被害報告と処理、ヤーパンからの要請処理。あと昨日迄の日報まで済みました。後、事務室の掃除と切らしたお茶も補充しています!」
話だけだと、本気で彼女は超が付く有能な人材みたいだけど…。
「フェルタ様からシロンを引き離そうとする者は、何人たりとも許さないからね!クラウンもよ!」
そうシロンは高らかに宣言した。
ああ。さっきフェルタが「少し面倒臭い」って言ってた理由が分かったわ。
「フェルタの熱烈なファンなのね。」
思わずカズマに耳打ちするとカズマも私に耳打ちしながら
「しかも盲目系だ。」
「と、言うより痛い系なんだけどね〜。」
気がつくとフェルタまで私達の間に入って耳打ちし始めた。
「フェルタさぁ、あの巨乳ちゃんにもう少し優しくしろよ。」
「最初は優しかったさ!」
「その優しさが裏目に出ちゃったんじゃないの?彼女が勘違いしちゃうくらいに接したとか。」
「いや、シロンはセントラルに来た時からああだった。」
「マジかよ。良いなぁ巨乳ちゃん。」
「ならカズマに紹介するよ。巨乳好きじゃん!」
「巨乳ちゃんでもアレは…。」
「そこ!フェルタ様と何コソコソ話されてるのですかっ?!」
「「はいっ!!」」
私とカズマは思いっきり上ずった声で返事をしてしまった。
可愛らしい姿だが、更なる険しい空気を感じる。
そんな事を考えてた時にシロンと目が合った。次の瞬間。
「もしかして…そこの女子、フェルタ様と関係があるのですか…。」
凄い声が震えてる。怒りに満ちたシロンの声。
これって間違いなく私、勘違いされているな。
「いや、関係は…。」
「否定は認めません!だってフェルタ様が女子とそんな楽しげに話をされてる姿を見た事無いもの!」
ああ。シロンって、少しだけじゃなくて無茶苦茶面倒臭い女の子だわ。
そう悟った瞬間にフェルタがシロンの前に出ると
「彼女は件の女性だよ。シロンにも話はしているでしょう。そして隣の男性はカズマ。彼女の護送役だよ。」
「そっ…そうでしたか。大変失礼致しました。」
すっと頭を下げてて「シロンです。」と挨拶をしたので、私も慌てて頭を下げた。
そうか。フェルタと言う存在を取り除けば無茶苦茶素敵な子なんだな。
しかし…他人の好みにとやかく言う気はないんだけど、また何故フェルタなんだろう。
スッと頭上から大きな影が掛かっては陽の光が降り注ぐ。
他のみんなも異変に気付いた様で、一斉に空を見上た。
遠くからドラゴンの鳴き声が聞こえてきた。
さっきの浅黒いドラゴンの荒々しい声とは違って、何というか…優しい声に聞こえた。
声が響く頭上を見上げると、大きく旋回しているドラゴンの姿が目に飛び込んできた。