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右手が熱い。燃える様に熱い。
掌の真ん中辺りが特に熱い。でも不思議と辛くない。
そういや飛んで来たドラゴンの角ってどうなったんだろう。
体は何ともないみたい。と言う事は、もしかしたらクラウンの水の壁が間に合ったのかも。
流石セントラルの出世頭とかホープとかだ。
しかし、何で小学生の記憶が横切ったのだろう。
エリー。やっぱり記憶の中でも綺麗だったな。
又エリーのお菓子、食べたいかも。
「真琴!」
あの声は…カズマか。頭狙ってくれたかな?
「お前!大丈夫か!?」
「だーかーらー!お前じゃないっ!」
ハッと目を開けて辺りを見る。それと同時に大丈夫かと問われた理由がすぐに分かった。
私の右腕に貼り付けていたタトゥーシールが眩い光を湛えながら右掌を包んでいる。
その先を見るとドラゴンの角が宙に浮いたままでいる。まるで光の力で止めた様に見えた。
ふっと力なく角は地面に落ちる。しかし私の右腕は変わらないままだ。
「ク…クラウン!これ何?」
「何と言われましても…これは…まさか…。」
クラウンだけじゃない。ドラゴンの足止めをしていたフェルタもカズマも凄い形相で私を見ていた。
「エレメントの力か…?」
「んな馬鹿な話があるか?フェルタ、アイツのは玩具のシールだろ?貼るの見てただろ?!」
「僕だって玩具のシールから能力発動するなんて聞いた事無いさ。でも…。」
キィィィイア!
ドラゴンから裂くような鳴き声が響くと私の姿を確認して此方に歩み寄る。
ドシンと一歩ずつ静かな振動が私にも感じられた。
「ドラゴンが又来る!どうしよう!あ、頭!カズマ!」
慌てふためいてる私にカズマは遠くから
「真琴の言ってる事は分かったけどよ、んな頭に大打撃を起こせる道具がねえし。」
「道具?ってどんな…」
「例えば大鎚とか大剣とか、とりあえず重い系!」
「大剣…?」
そう考え無しに口にした瞬間、ズシンと右手から例えようの無い重みを感じて膝をついてしまう。
「真琴、今度はどうしましたか?」
「クラウン…手…重い…。」
「手?……!」
相変わらず光に包まれたままの右掌を下に動かしてみると、ズルリと何かの柄みたいなのが出て来た。
「嫌!何か手から出てきた!!ナニコレ!?」
「落ち着いて真琴、ちょっと良いですか?」
悟りを開いたのか、とても冷静になってるクラウンはそう言うと私から出て来た柄の部分を掴み取る。
「痛いですか?真琴。」
「痛くないけど…何がなんだか…。」
「引き摺り出しますよ!」
スッとクラウンが私の腕から引き出したのは、自分の体から出て来たとは思えないくらいの大きな剣が出現したのだ。
そう。今欲しかった大剣そのものだった。
「嘘…こんな事ってあるの…?」
まさか自分の右手、右腕から武器が出て来るなんて思ってもみなかった。ってか私の体は大丈夫なのかな?骨とか無くなってたりしてないよね??
「とりあえず真琴、此方をお借りしますよ。少尉!カズマ様!」
ブン!と大剣を振りかざしてクラウンはフェルタ達の元に向かって投げ飛ばした。
大剣は緩やかな放物線を描き、見事にカズマの足元付近に刺さり届いた。
と、言うかクラウンの投擲スキルが無茶苦茶過ぎる。まるで投げたのがダーツの矢を投げるかのようだ。
「サンキュー!クラウン!それとフェルタ!余り動かない様に引きつけろ!!」
そうカズマは大剣を引き抜き、軽い足取りでドラゴンの背中に飛び乗り上へと登っていく。
「動かない様に引きつけてって無理な事を言うなぁ…。ねぇ。ドラゴン。」
フェルタは腕を組みドラゴンを見上げている。
「何で暴れたりしたかなぁ?」
1人と1匹の間に膠着状態が続いてる。と言うよりはドラゴンと対話している様にも見えた。
「ドラゴンは本来、頭の良い生き物だって言う話だよね。きっと此処には何か考えがあって来たんだろうけど…ごめんね?」
そうフェルタが微笑んだ時だった。
ドスン…!
物凄い低い打撃音が辺りに響いた。
音の出た方へ見ると、カズマが持つ大剣がドラゴンの頭上をフルスイングした姿が見えた。
大剣を持って巨大ドラゴンの天辺まで行けるって、どんな脚力よ。さっきのクラウンといい本当に無茶苦茶な世界だ。
この世界の戦いにクラクラしそうになっていたけど、本当に眩暈を起こしたのは衝撃を受けたドラゴンの方だった様だ。
フワフワと頭が左右に揺れて、そのまま大地へと大きな音を立てながら沈む。
静かな風の音が流れる。
みんなの呼吸しか聴こえてこない。
終わった…?
「マジで終わったか?本当勘弁!」
動かなくなったドラゴンの上からカズマが降りて来た。私とクラウンも2人に走り寄る。
「カズマ大丈夫だった?」
「平気…とは言い切れ無いなぁ…。しんどい。」
大剣を地面に刺して寄りかかる様にカズマは私を見る。
「っつーか真琴。これどう言う事?」
「コレ?」
コンコン!と大剣の柄を叩いている。
「私も知りたいよ。欲しいと思ったら体から出て来た。」
「普通体から武器は出て来ねぇし。」
流石に不思議なこの異世界でもこの現象はイレギュラーな現象だったのか。
しかし…一体何だったんだろう………?
「はーい!お疲れお疲れ!」
パチパチと拍手しながら何時もの調子でフェルタも入って来た。
さっきとはまるで別人の様だ。
「真琴凄いねぇ!僕も始めて見たよ〜。」
「はい…。」
「まるでビックリ人間ショーみたいだったよ!」
「その例えは地味にショックなのでやめて…。」
大した事はして無いが、急に疲れがドッと出てきた。
「やっとセントラルから応援が来たみたいだよ。」
そうフェルタが例の要塞方向を見ている。
目を凝らして見ると、大量の砂埃の中を走る1台の車が見える。
「運転荒いなあ。誰が来たんだろ?」
「あの感じはシロンでしょう。と言うか来るとなれば彼女しか居ないですよ。」
「そうだね〜。」
珍しく少し困ったフェルタの表情を見せた。
彼女って事は女の人なのか。まあ女性の役人だって当然居るよね。
「フェルタ。シロンって同僚?」
「僕の部下。今回は別件の仕事をお願いしていたから
セントラルから出て来なかったけどね。」
「もしかして苦手な部下?」
「苦手と言うより面倒臭い?」
ハッキリいうなぁ…。
そんな会話をしている間にも、徐々に車の姿は近くなって来たのだ。