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ドラゴンとフェルタ達の攻防はどれだけ続いているのだろうか。
いい加減セントラルからの援護やドラゴンマスターとやらの捜索が来ないかとやきもきしてきた。
結構な時間経過をしたのだろう。フェルタ達の動きも次第に悪くなってきた様に見える。
「ねぇ!クラウン!」
遠くからフェルタの声が届いた。
よく見るとその制服は埃にまみれて煤けた感じになっている。
「どうされましたか?少尉?」
「もう面倒だからさ、事故として殺しちゃダメかなぁ?」
「ドラゴンの首が飛んだら、間違いなく少尉の首も飛びますよ?」
「だよね〜。」
襲いかかるドラゴンを相手にヒラリとかわしながら溜息をついていた。
そんな前線の2人と時折流れ弾で飛んでくる炎を弾き飛ばしてくれるクラウンを交互に見る。
この世界では当たり前だけど私に出来る事はゼロに等しい。
次第にもどかしい気持ちで胸が溢れかえってきた。
せめてドラゴンの弱点が分かれば良いのに。
でも最初から弱点を知っていればそこを攻めていたよね?そう考えたらドラゴンって最強の生き物なのかもしれないな。
「しまった!クラウン!!」
カーーーン!とカズマの声と同時に高い音が響き渡った。
高い音の方を見ると高速回転をしながら何かが此方へと飛んで来た。
「ドラゴンの角が折れたか…?不味い!間に合うか!?」
サッとクラウンの右手から水の渦が発生するが、飛んでくる角の方が早い。
あ。そうか。私、これで死ぬんだ。
現実世界でもイマイチ居場所が分からなくて逃げて、逃げた先でも最初からドラゴンに遭遇して折れて飛んで来た角に刺さっちゃうんだ。
みんなに優しくしてもらったのに、助けてもらったのに、何も返せなくて終わるんだ。
あっけなかったな。
『何があっけなかった?』
だってどう考えたって無理な気がしてきたし。
『真琴は諦めちゃうのね?』
************
「あーやっぱりダメだ!」
ゲーム機のコントローラをクッションの上に投げながら私は溜息をついた。
クラスの友達から借りたRPGのゲームを相手に私はこの数日を費やしている。
「真琴、そろそろ休憩入れなさい。一緒にお菓子でも食べましょう。」
「はーい!ちょっと待ってエリー。今行くー!」
ずっとやりたかったゲームだが自分の家ではゲーム機を買って貰えなく、近所に住む叔父さんがハード機を持っていたので毎日宿題を終えてから借りる為に遊びに通っていた。
客間に設置されてるゲーム機の主電源を切り、隣の居間へと移動する。
そこには既に紅茶とロールケーキが切り分けられ綺麗に並んでいた。
「エリーが焼いたの?」
「そうよ。また君が家に通いだしたから頑張っちゃった。」
叔母さんの恵里奈さんはニコニコご機嫌な笑顔でフォークを並べていた。
昔から私の両親は仕事が忙しく、小学校3年生まではこの家でエリーと遅くまで過ごしていた。
エリーって呼び名は愛称で親族、友人、ご近所さんも皆んな愛称で呼んでる。本人たっての希望で恵里奈さんって呼んでも中々振り向いて貰えない。
どうやら海外での生活が長かったみたいで、エリーと呼んでもらった方が分かりやすいらしい。
「私エリーの作ったお菓子大好き!」
「残ったら包んでるあげるから、お母さんと食べてね。」
「いただきまーす!」と勢いよくロールケーキを頬張る。甘すぎないエリーのロールケーキは昔から期待を裏切らない安定の美味しさだ。
「真琴は小学校、楽しい?」
「うん。相変わらず算数の勉強が難しいけどね。」
「真琴が家に通わなくなってから1年過ぎたのね。」
「さては寂しかった?」
「そうね。寂しかったわ。」
悪戯っ子みたいな笑顔でエリーは紅茶を口にした。
エリーはハーフとかクオーターらしく、金色の髪で瞳も黒じゃない綺麗な色。体の線も細くて色も白くて美人で。私にとってのエリーは憧れなのだ。
「学校ではあのゲームが今は人気なの?」
「そう。やっと借りれたんだよね。結構ソフト持ってない子が多くてさ。」
「どんなゲーム?」
「悪いドラゴンが世界征服しようとするのを阻止する話なんだよね。ご馳走様!」
ロールケーキを結局3個をたいらげて私は挨拶をした。
お粗末様です。とエリーは使ったお皿を重ねながら
「悪いドラゴンねぇ。ドラゴンって本当は大人しい生き物なんだけどね。」
「キタ!エリーの不思議な話!」
時々してくれるエリーの不思議な話は小さい頃から大好きで私はとても気に入っていた。
「でもさ、ドラゴンって怖そうじゃん。体大きいし目は蛇みたいだし、角やら牙が刺々しいし。」
「もしかしたら見た目で損してる生き物かもね。」
「エリーの知ってるドラゴンってどんな感じ?」
そうね…と顎に手を当ててエリーは天井を見上げると
「赤いのは火を吐くドラゴン、緑は風を起こして青いのは氷を吐いてたかな。でもさっき話した通りドラゴンは自分の身を守る時くらいしか攻撃はしてこないわ。」
「触った事、ある?」
「1度だけね。ドラゴンと一緒に住んでた人とは友達で、緑のドラゴンは1番温和な性格だからその子を撫でたわね。」
ゆっくり紅茶を口にしながら、まるで当たり前の事の様にエリーは話した。
「どうだった?」
「体は固い鱗に覆われてるからゴツゴツしていたわ。」
「ドラゴンって、何処触っていいの?」
「頭以外は触っても嫌がらないわ。」
「頭?なんで?」
「何でかしら?でもそう聞いたわ。ホラ、ドラゴンって頭が小さいからじゃない?衝撃を受けたら脳震盪とか起こすからじゃないかしら?」
ふーん。と深くソファに座りなおす。
エリーは食べ終えたお皿を台所へと片付けて再び居間に戻ってきた。
「あーあ。ゲームの中のドラゴンも頭が叩いたらクリア出来るかなぁ…。」
「あら、行き詰まってるの?」
「うん。ラスボスのドラゴンまでは昨日から行ってるんだけど、あと少しって所でクリア出来なくてさ。」
あらあら。と呟きながらエリーは空になった私のティーカップに紅茶を注いでいる。
「明日にはゲームソフトを返さなきゃいけないしさ。攻略法も聞いたけど良く分からなかったし。」
「あら。そうなの?じゃあ君が来るのも暫くは無くなっちゃうのね。」
「近くだから又エリーに会いに行くけどさ…。あっけなかったかなぁって。」
「何があっけなかった?」
「だってどう考えたって無理な気がしてきたし。」
「真琴は諦めちゃうのね?」
諦めたくないけど…返さなきゃだし。
時間ももう午後の4時を時計の針は指している。
エリーの家に滞在出来るのもあと1時間くらいだし。
「ねぇ真琴、意外と頭から狙ったら良いかもよ?客間行きましょう。私にもゲームを見せて?」
「うん!」
「何でも早くから諦めるのは良くないわ。まぁ諦める事も大事なタイミングはあるけど。」
「ゲームでも?」
「遊びだって生きて行くには大事な事よ。」
それからどうしたっけ?
ゲームは最終的にはクリアをしたんだけど、家に戻ったのは夜の8時でお母さんに怒られたっけ。
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あたま。
あたまだ。
脳震盪を起こせばいい。
「カズマ!ドラゴンの頭を狙って気絶させて!!」
そうお腹の底から叫んだと同時に私の右手が飛んでくるドラゴンの角に向かって勝手に動いたのだ。