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あれから一夜明けた。
日中には一旦解散となりカズマは自室へ、フェルタ達は仕事があるとの事で私のみ今日の寝床として用意してあったホテルでプチ拘束生活となった。
カズマのアパートからさほど離れていないホテルでごくシンプルな作りの部屋だった。
所謂ルームサービスか時間になれば食事は提供され、本や雑誌、新聞も貸し出してくれたのでこの日は読み物で過ごした。
少しでもこの世界を知っておけば後々困らないかも。そう思った。
そういやフェルタ達は明日の朝には又来るって言ってたっけ。逃走しないと信頼されてるのか…まあ逃げたとしても私に何の利益もないし。
ふかふかのベッドでゴロゴロ読書をしていたまま、気付いたら眠りについていた様だ。
結論として、コイントスはカズマが同行すると決めた『裏側』で決着は付いた。
スポーツに余り馴染みの無い私にとってコイントスは見た事はあるけどやった事は無い。どうやらこの世界でのコイントスは割と馴染みが深い様だ。
銀貨を持ったまま狼狽えてると、そっと銀貨を掴みカズマが
「こう。投げ方は何でも良いから上に投げる。」
指で弾いた銀貨は小さくキンと音を立てて綺麗な回転を見せながら宙を舞う。
「で、落ちてきたらどっちでもいい。手の甲で挟む。」
パチン!と銀貨は左手の甲に閉じ込められる。抑えられた右手を上げると、銀貨に刻み込まれてる女性の横顔が優しく微笑んでいた。
「こんな感じだ。こっちの表側に出してくれれば尚結構。」
「はい…。」
「フェルタ、俺は表側に行かないにする。いいな?」
「いいよん。じゃあ裏側だったら、お願いね。」
相変わらずベッドに寝っ転がったままのフェルタは私にニコニコ微笑む。
視線を銀貨に戻す。表は微笑む女性、裏は文字。
私は見よう見まねのまま銀貨を放り投げた。
不規則な回転をしながら銀貨は宙を舞い、フラフラとした銀貨を左手の甲に必死で取り押さえる。
全員の視線が私の手に集中する。
ゆっくり右手を動かして確認をすると
「………文字。」
その瞬間、カズマは頭を抱えながら項垂れていたけど腹をくくったか「分かった分かった」と言いながら私を見て
「………よろしく。な。」
そう簡単に挨拶をして明日の朝には出発する約束を着けて一旦は解散する形となったのだ。
カズマの顔。相当な困り顔だったな。
迷惑っちゃあ迷惑な存在なんだと痛感した瞬間だった。
簡単に身支度をしイルマの用意してくれた衣服に着替え、まるでタイミングを図ったかの様に整った時点で部屋のノックの音が静かに響いた。
流石に役人らしく時間には正確で、約束の時間である8時少し前には迎えに来てホテルを後にした。
そのまま町の外に停めてるジープの所まで私達は他愛もない話を交わしながら向かった。
そして今。
何故かクラウンと買物をしている。
色とりどりのガラス瓶達を見つめながらなんで買物をしてるかと言うと
「荷物はそれだけでしょう。ドロップ者とは言え女性ですからね。必要な物は特別に用意しましょう。」
と、いうクラウンの配慮からだ。
特別何もいらなかったんだけど、半ば強引に引きずられる形で町外れの商店に入った。
「あのさ、私は欲しいの無いし大丈夫なんだけど…。」
目の前に広がる生活雑貨らしい物が所狭しと並んでいる。辺りを見ながらクラウンは
「どうやら少尉はカズマ様と2人でお話しされたい様子でしたので。やや無理矢理で申し訳ありませんでしたね。」
「2人で?」
「元々はアカデミー時代の親友同士ですからね。私達抜きで話したい事もあるでしょう。」
「だってまだカズマ来てない…。」
クラウンが視線を窓の外にやると、いつの間にかカズマが到着していた様でフェルタと親しげに話をしてる様子が見える。
ふうん…。
2人共あんな顔して笑うんだ。こうやって見ると普通のお兄ちゃん達に見えるな。
「少尉も王子も役職を除けばただの男性ですからね。」
「そうだけど…しかしクラウンって気が利く部下なんだね。」
「じゃないと少尉の元では務まりませんから。」
フェルタってどんな人物なんだろ。ますます謎が深まった。
そしてカズマ。
カズマってどんな人だろう。
昨日少しだけしか会ってないし、交わした言葉も一言二言レベルだからまだまだ分からない事が多い。
でも屈託の無いくるくる変わる表情を見ると悪そうな感じはしないから多分大丈夫だろうな。(口は悪かったけど。)
「さあ真琴、私達は買物を済ませましょう。」
そうクラウンの言葉で陳列されてる商品へと視線を変えるけど
「本当に大丈夫なんだけどなぁ…。」
「洗面用具とか無いでしょう?この化粧水は良いらしいですよ。私の姉達が話してました。」
「へえ。クラウンってお姉さんが居るんだ。」
「2人の姉が居ます。私とソックリだと色々な方から良く言われます。」
クラウンそっくりの姉妹。
鼻筋の通った色素の薄いクラウンの顔を見入る。
この顔立ちに似てるって、中々の美女何では?と想像してしまう。
「右から乾燥肌、敏感肌、普通肌、混合肌、オイリー肌、アンチエイジング、どれが良いですかね?真琴?」
「細かっ。」
「あと乳液も必要ですね。デジッツは割と乾燥地帯なので保湿はちゃんとしておいた方が…。」
「女子かよ。」
大真面目な顔で私を見るクラウンに突っ込みながら普通肌と書かれていた黄緑色の化粧水を手渡した。