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「それに先日はシャングラ国の王妃はトゥーマと親戚関係にあるとかで…。」
「ってかクラウン、トゥーマの話は?」
「はっ!」
脱線話は15分に渡り巡りに巡って、カズマの一言で終結を迎えた。
詳しくは分からないけど、脱線話からこの世界は内戦や紛争は無く割と平和な世界と感じた。
各国も外交が盛んだし、仲も良いみたい。
恐らくこの世界は、フェルタ達が居る『セントラル』がてっぺんでカズマの出身の『デジッツ』が国、この地の『コンチ』が都道府県みたいな様だ。
この待ち時間はあながち無駄では無かったみたい。
「現在のセントラルは、先日のハリケーンの事後処理にかかりきりで人材が足りないくらいなんですよ。」
「まあな。あれは酷かったけどさ。」
「そこでカズマ様なら色々周知されてますし、実力もあるお方なので…で良いのですか?少尉。」
むくっと隣で上半身を起こしたフェルタはニコニコしながらカズマを見ると
「まだやってるんでしょ?何でも屋。」
「何でも屋?」
思わず声に出して聞いてしまった。
「そうそう。表向きは国内政治に入ってるって話だけど、実はコンチで何でも屋をやってるの。」
………んな事があるのか?
それとも『何でも屋』が国内政治の一環なのか?
「カズマは国王様が…。」
「その話、今は良いだろう。フェルタ。」
ピシャッとカズマが入ってきた。
鋭い視線。
もしかしたら王様とこの王子様とは険悪な理由があるのかもしれない。私は息を飲んだ。
深いため息を吐くとカズマは私達を見ながら
「これは『依頼』だな?」
「うん。セントラルからのね。」
しん…。と一瞬静まり返る。
脱線話をしていた先程の騒がしさがうその様だ。
「本っ当っにフェルタの依頼は基本無茶苦茶なのしか無いから、絶対に連れてくだけじゃ済まない気がするから気が重いんだよな…。」
「そーお?」
「そーお?じゃねぇぞ?何あれ、この前の迷い猫。」
迷い猫?
ああ。「ウチの猫、探して下さい。」的なやつかな?
「アイラ王妃の猫ね。可愛かったでしょ?」
「馬鹿か?普通の成猫だって聞いて捕まえてみたら3mもありやがるし。」
「あそこの国は薬品開発の動物実験があるからねぇ!」
「おまけに滅茶苦茶懐かれて、別れ際は大変だったし!」
3mある猫。
もはやそれは猫と呼べるのだろうか?
ペットとして成立するのだろうか??
「その前の護衛のヤツも!」
「護衛?あぁ、人手が足りなくて罪人を監獄まで送ったヤツね。だって大した事は無かったでしょ?」
「大した事は確かに無かったけど、丸一日何やらブツブツ呟き通しで不気味だったし!」
「そうだったんだ〜。」
「おまけに滅茶苦茶懐かれて、監獄に行きたくないと暴れて!」
「カズマが話を聞いてくれて改心したんだね!」
「馬鹿野郎!改心で済む話かいっ!!」
ああ。どうしよう。
この人、絶対貧乏くじ引くタイプだ。
「色々災難だったねぇ。」
「ぜ・ん・ぶ!フェルタの案件だからな!!」
「まだあるぞ!」と一気にまくし立てる様にカズマは叫んでいたけど、一方のフェルタは「ごめーん!」と悪気ない返事で返している。
……………カズマって、貧乏くじ引くタイプ確定だ。
思わず同情の眼差しで見てしまう。
「とにかく!トゥーマ迄の足はどうする?」
「私達が乗ってきたジープを用意しております。セントラルの物ですから、整備はちゃんと済んでおります。」
サッとクラウンが口を出した。
「ジープで移動なら日にちも掛かるぞ。」
「報酬とは別にジープの維持費、燃料費、移動迄の宿泊費、食費等はセントラルが持つ。稟議書は既に通ってる。」
カズマの話を遮る様に今度はフェルタが続けた。
「今回の報酬は日当30.000ルカ、日当は最低でもトゥーマに辿り着ける5日迄は保証する。それ以降は無償だ。」
ルカ?話の流れからして通貨単位の事だろう。
30.000ルカって単価は高いのか安いのか分からない。
円だったら24時間拘束でも中々な金額だ。
「そして成功報酬が200.000ルカ。無事に真琴をトゥーマ迄着いた時点で支払われる。振込先は何時もの口座でいいんでしょ?」
「……………マジかよ。」
言葉を失うかの様にカズマの言葉が消えるかの如くに静かになった。
2度目の沈黙。
私はただ沈黙の中に居る3人を見渡す。
「フェルタ。それって絶対ヤバイ案件じゃね?!」
「ヤバイ?」
「もうその有り得ない単価が逆に怪しすぎる!」
高かったんだ。あの設定金額。
「僕だって分からないから過去例を参考にして算出したらこうなったんだよ。元々ドロップ者の付き添いはハイリスクなんだ。だから見返りも大きいんだよ。」
危険因子でしかないドロップ者。
昨日そんな説明を受けた事を思い出す。
「だから万が一、カズマに何かが起こっても親族には見舞金もでる。まぁ国王様にとっては微妙たる金額だろうけど。」
改めて難しい顔をしたカズマの方に視線を移すと、突然髪をくしゃくしゃにしながら
「フェルタ。コイントスだ。それで決めよう。」
「おっけー。じゃあコイン…この銀貨で良いかなぁ?それと真琴!」
急に名前を呼ばれたのでただ頷いてフェルタを見る。
「コインを投げるのは真琴ね。」
「私…?」
「コインを投げるのは中立な立場の人がやるんだよ。ホラ。」
ポトンと右手に落とされた銀貨に描かれてた文字を見つめるままだった。