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「だーかーらーさ!」
声高らかにフェルタはクラウンに詰め寄る。
「砂肝は僕が言ったよ!」
「それは前回のしりとりの時でしょう?一昨日の事も少尉はお忘れですか?」
「砂肝は開始10分位で僕が言った。」
………ってかさ。
「砂肝で喧嘩しないで下さいッ!」
思わず大声を出してしまった。
「口喧嘩する位ならちゃんと記憶して挑んで下さい!ちなみに砂肝は出てません!フェルタは砂巾着とは言いましたけど砂肝は言ってません!」
ふんっと一息つくと殿方2人は私を見てからお互いに見合わせて
「真琴ってさ、面白いよね。クラウン。」
「そうですね。大概の人はセントラルの人間に此処まで強いツッコミはしませんね。」
「オマケに記憶力いいね。しりとりやるのに真琴みたいな人は1人欲しいよね。」
「それは少尉が何時間もやるから訳が分からなくなるんですよ。」
おい。この2人は何時間しりとりやってんのさ。
そりゃあセントラルの詳しい情報は知らないし、2人はどれだけ偉いかも知らないよ?でも
「しりとり程度で喧嘩してるからでしょう!周りを見てくださいっ!!」
摩天楼。そんな言葉が頭に浮かんだ。
無数の高層ビル群に煌びやかな電飾。
至る場所にあるメッセージボードはギラギラと何かをアピールしている。
此処はコンチ・シティ。
イルマの話だと、賭博を中心とした娯楽都市とか何とか言っていたっけ?
確かに治安は余り良いとは言い難い風景を既に幾つか目に入ってはいる。イルマの居た場所とは天と地との違いをあからさまに感じていた。
私達が歩いてるのはメインストリートの様で、本当に何処から溢れているのか分からない位に人々が行き交っている。
だから世界の中枢部であるセントラルの制服を着た2人と一緒はそれだけで目立つ。
おまけに砂肝だの連呼しているから周りは凄い表情で私達を見ているのであった。そりゃあそうだろう。
「ツッコミとかいいから、その案内役とやらは何処に居るのですか?」
話題を早急に切り替えた方が良い。
そう感じたので本題に入ろうと言葉を変えた。
「少尉?」
「えっとねぇ。この通りを抜けると住宅街があるからまだ直進かなぁ?」
上着内ポケットから小型の端末みたいな物を取り出してあれこれ見ている。スマホの様な物かな?
そういや街中でもそんな人が沢山いるから、元の世界と余り違和感が感じ無いかも。
そう。何となくコンチ・シティは夜の繁華街に似ている。だからかな。
「何?コレ珍しい?」
機械端末を指差すフェルタと目が合う。いや、珍しいと言うか
「いや、昨日の調書や予定表が紙だったから、もっとアナログな世界かと思ってた…。」
「セントラル内での公式文書や書類は未だ紙が主流ですよ。機械端末は10年前位からで、一般人が普通に所有出来る様になったのはこの4〜5年の話です。」
丁寧にクラウンはそう教えてくれた。
少し前の日本に似ているかも。
「真琴の世界にもあったのですか?」
「うん。持ってた荷物にあったんだけどね。通話したり手紙のやり取りとか予定表とか…他にもゲームや音楽を聴いたり一台で色々な事が出来るの。地図も入っていたよ。」
「そうですか。カラ様が食いつきそうな話ですね。」
「カラサマ?」
「技術開発部のジジイね。」
地図を見たままであろう。フェルタは完全に歩きスマホの状態で会話に入って来た。
「セントラル内でも電子化の話がありまして、端末を開発した国から出向頂いてる開発部のトップです。」
「私の国は既にペーパーレス化が始まってますよ。資源の問題やプライバシーの問題とかで。」
「矢張り。カラ様も同じ事を唱えてますよ。実際全て電子化させた国も存在しているのですが」
「古きものは良きもの。そう言ってセントラルのジジイ達は頭の固いから中々電子化が進まないんだよね。そうなれば仕事が大分楽になるのにね。」
画面を見つめたまま、フェルタは器用に歩いて行く。
結構地球に似た様な世界なんだな。この世界って。
「意外とドロップ先の世界は、私達の世界に近いものがあるんでしょうね。」
私が考えていた事をクラウンは口にした。
「うーん。未だ此処しか分からないけどね。」
「トゥーマ迄は比較的治安が良い国ばかりなので時間がありましたら是非見て行って下さい。」
はい。そうクラウンに返事をする頃にはメインストリートを抜けて、少し寂しい道へと入っていた。
相変わらずフェルタは画面を見たまま黙々と進んでいる。大丈夫なのかな。
「クラウンは案内役の人って誰か知ってるの?」
「うん。ちゃんとしてるよ〜!としか少尉から伺ってません。」
「て、適当。」
「少尉は基本的に面倒臭いのが嫌いで、特に説明に関しては端折る癖もあるので…まあそれ以外にも問題あるっちゃあ、ある方なので…。」
「…………そんな人が少尉でいいの?」
「まあ人に歴史ありと言いますからね。色々あったんですよ。」
「ふーん。」
「はーい!着いたよー!」
サッと端末を内ポケットにしまいながら噂の彼は私達を振り返り見た。
目の前には外壁が黒いレンガで出来たマンションみたいな建屋。結構高さがあるせいか少々不気味な感じがする。
「はーい!入るよー!」
正面玄関の扉を押し開けながら建屋の中に入る。
ホール部分は中々広いんだけど薄暗いせいか、やっぱり不気味な感じが拭いきれない。
ホール右側にあった螺旋状の階段をサッサとフェルタは登って行くので、遅れない様にクラウンと共に後に着いて行く。
本当…何処に行くのかな…。
そう不安に駆られながら着いた先は、一番上の階の一番端の部屋。扉も黒でとても重い空気を感じる。
コレ、本当に大丈夫なの?
なんかマフィア映画に出て来そうなんだけど。闇取引的な。
確かにこの世界からしたら闇取引されるポジションらしいけどさ。私がさ。
グルグル様々な思考が止まらない私達を他所に、フェルタは黒い扉に強めのノックをすると
「カーズーマー君!来ーたーよ!!」
期待通り緊張感ゼロの叫び声が廊下に響いた。
遊びに来た小学生か?!
休む間も無くフェルタはノックを続ける。
「カズマ…!ディジッツの第2王子ですか?」
「え?王子?」
驚くクラウンの言葉で驚いた。
王子?王子って、その国の王様の息子って事だよね?後継者だよね?日本で言う皇太子だよね?何でそんな人物と知人な訳?
「カーズーマー!居ないなら鍵穴に噛んだガム詰めちゃうよー!!」
「フェルタ…それはやり過ぎだよ。」
思わず突っ込んだ所で、扉の奥から物音が聞こえて来た。