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ワールズエンド  作者: 轉 優夏
10/41

1-10

重くて低いエンジン音が辺りに響き渡る。

その音の主を辿ると、カーキ色のジープがエンジン音に合わせて小さく揺れていた。


空は快晴。

道は永遠。


目の前に広がる乾いた道。

今居る場所も知らないけど、今から向かう場所も知らない。だから不安しかない。

今はメディカルチェックを受ける迄の我慢だ。

でもそれが終わったら?

疑い晴れて本当に自由になったらさ、私、どうなるの?どうしたいの?



「真琴。」

自分の名前を呼ぶ方を見るとイルマが寂しそうな顔をしていた。

「大した物を持たせられなくて…ごめんね。」

「ううん、大丈夫。充分だよ?」

小さなカゴバッグに身支度用品や綺麗な服を私の為に準備してくれたのだ。もう感謝しか無い。

「ね。真琴。」

「うん。」

暖かなイルマの手が私の手に触れる。

「メディカルチェックが終わって行く所が無かったら、此処に帰ってらっしゃい。」

「…イルマ…。」

「一緒に農業やりましょ。まぁ…ちょっと地味だけどね。」

そんな事は無い。そう私は首を横に振る。

「昨晩一緒に話していて、真琴が妹だったらなって思ってたのよ。私には兄弟居なかったからね。」

「あ………私も…イルマがお姉さんだったらって…。」

そっとイルマに抱きしめられ、胸が苦しくなる。

「此処は自分の家だと思って良いからね。待ってるわ。」

「ありがとう。イルマ。」


涙が出そうだったけど、ぐっと瞼で止める。

昨夜みたいに2人だけじゃないから。

後、イルマに心配させたくないから。


「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。真琴。」


まるで待ちくたびれて苛立つ様に小刻みに揺れるジープへと歩き出す。

ジープの運転席にはクラウン、助手席にはフェルタが此方を見て待って居てくれた。

私は急いで後部座席に座り込む。


「ごめんなさい。お待たせしました。」

「準備はもうお済みですか?」

クラウンがバックミラー越しに声を掛けたのに合わせて頷く。

本当の荷物は行方不明だし、今の私にはこれで充分だ。

「じゃあ〜行きますか!先ずはコンチ・シティへ!」

やや湿っぽい空気を吹き飛ばす様なテンションでフェルタは叫ぶとジープは前進を始めた。




空はどこまでも快晴。

道はどこまでも永遠。


しばらくはイルマの畑が続いていたが、畑が途切れると森の中へ入って行った。

薄暗い道をただひたすら道なりに進む。

鬱蒼とした木々しかなくて少々不気味に感じる。

確かに熊が出そうな雰囲気だ。ふと昨夜の夕食時にしたイルマとの会話を思い出す。

彼女はニコニコしながら


「それね。グリズリーなの。」

「グリズリー?」


そうオウム返しをして野性味溢れる赤身のお肉を見つめる。

お皿の上にはお洒落に生野菜とハーブみたいなのと一緒に盛り付けられていたけど、グリズリーって…


「熊…だよね?」

「そうよ。」

「此処って熊食べるんですね。」

「ううん。私が仕留めたわ。」

「仕留めたって…イルマが?」

「ええ。そうよ。」


そう言いながらイルマもグリズリーのステーキを口に運ぶ。

いやいや。相手は熊だよ?女性1人で仕留める話じゃないだろうに。


「最近私の畑を荒らしてた時に鉢合わせしてね。」

「鉢合わせって…。」

「相当な被害だったのよ。だからね。」

「うん。」

「こう…地面をいじって、頭から落としたの。」

「生々しいですね!!」


両手で楽しそうに身振りを付けて話すイルマに思わず突っ込んでしまう。

地面って事は、恐らくエレメントとやらの能力だろう。熊ですら仕留められるエレメントってとんでもない力なんだな。


「でも美味しいでしょう?すぐに血抜きしたから。」


優しそうな感じだからって食って掛かったら痛い目に合うんだろうな。この世界的には。

ナイルみたいな動物も居れば、グリズリーの様に普通の動物も居るみたいだ。

それよりも読めないのは、エレメントとやらの能力を持った人間達なんだろうな。

そんな能力なんて元から私から見たら無いから未知数過ぎる。



「ねー暇だからさ。しりとりしようよー。」

フェルタは色々な意味で規格外だから本当に分からない。緊張感ゼロは相変わらずだ。

「良いですよ。じゃあ少尉から始めて下さい。」

クラウンも乗っかるのかよ。

「真琴もやる〜?」

「私は…」

「暇でしょ?じゃあ僕からクラウン、真琴ね!」

強制参加かい。

しかし、このやりとりめ慣れてきたな。私。

ウキウキとしりとりのルールを教えてくれるフェルタを見ながら、クラウンの話にもあった監視役とか案内役とかの人はマトモであって欲しいと願ってしまう。

あ。無理かも。

確かフェルタの知人とか言っていたから、きっとこんな感じのキャラクターに違いない。

下手したらナイルみたいな喋る動物や物かもしれないし。いや…そんなのと5日間は中々厳しいぞ。


「あの…殿方2人に質問なんだけど…。」

「何?しりとりのルール?」

「フェルタ、しりとりは私の世界にもあったから大丈夫。」

「じゃあ何?」

後部座席の私に振り向いてフェルタは聞いてきた

「あの、案内役って人…人?なのかな?どんな人かなって。」

「身元も家柄もちゃーんとしてる人だよ!」

再びバックミラー越しにフェルタが教えてくれた。

「そうですか…。」

家柄って事は同じ人間が相手の様だ。それより人物って言葉にとりあえず安心してしまった。

そうだよね。車移動って言ってるくらいだから人間だよね。配達時のナイルみたいな感じを想像しちゃってたわ。

「じゃあ!しりとり始めよう!」

フェルタの元気な声で現実に引き戻された。しりとりは絶対やるのね。

「じゃあね。リコリス!」

「ス…す…す…スカッチ。」

「はっ?ち?ってか、リコリスとかスカッチって何よ?」

「えー?それから説明?クラウン教えてあげてよ。」


私達の乗るジープはいつの間にか深い森を抜けて、遥か遠くに煌びやかな光の塊が見え始めていた。


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