第8話
アマンダとハジメは窓越しにドラゴンの魔力が跳ね上がるのを感じた。
「我、目の前に如何なるものも防ぎ通さん壁を発現す」
『防御結界‼︎』
アマンダが急いで『防御結界』を張る。
その瞬間ドラゴンの口から魔法が放たれ、目の前が真っ暗になった。
ーーーーーハジメ視点ーーーーー
「・・・・・・ん」
意識を取り戻したハジメは、痛む体を無理やり起こす。
「っ‼︎」
(右手がちょーいてぇ‼︎)
ハジメの右手は袖がビリビリに破け、血が流れ出していた。綺麗だった白色のジャケットは土埃まみれで、翠色の石が嵌められていたネックレスは無くなっていた。
「・・・・ここどこだ?」
ハジメは痛む右手を押さえつけ、周りを見渡す。そして愕然とした。
「なんだよこれ・・・・」
周りの建物はすべて破壊され、その中心にはドラゴンが悠然と佇んでいた。
「はっ‼︎母さんは‼︎」
ハジメは、見渡しても近くにアマンダがいないことに気付いた。
「探さないと‼︎」
ハジメはアマンダを見つけるために、周りの瓦礫を乗り越えながら走り出した。
ーーーーーアマンダ視点ーーーーー
アマンダはすぐに意識を取り戻していた。
「・・・・・これはダメね」
そう言いながら、震える手で右足を撫でる。アマンダの右足は脛の部分が陥没しており、動かすことさえままならない。
「でも、ハジメをあの時守れたのならこのくらいどうってことないわ」
ドラゴンの魔力の高まりを感じ『防御結界』を張ったが、建物の壁の崩壊とともに破壊されてしまった。そのとき、壁の一部がハジメに当たりそうになっているのを目にし、自分の右足を差し出すことでそれを防いだのだ。
「これじゃ、逃げることも出来ないわね・・・・・・・・・ううん、そうじゃないわ」
そう言いながら、目の前のドラゴンを睨む。
「我、目の前に追撃せし熱き炎弾を撃たん」
『炎撃弾』
ーーーードドンッ
アマンダは最後まで抵抗する。ハジメのために。ハジメが少しでも遠くに逃げられるように。
(もっと、ハジメの側に居たかったわ)
ーーーードドンッ
ドラゴンの口がアマンダに近づく。
(・・・・・あなた、もうすぐ会えるわ)
ーーーードドンッ
鼻息を感じられる程までドラゴンの口が近づいた。そして、大きく口が開きアマンダを襲う。
一瞬、目の端にハジメが見えたような気がした。
ーーーーーがしゅっ
ーーーーーハジメ視点ーーーーー
「どこにいるんだ母さん‼︎返事をしてくれ‼︎」
ハジメは一生懸命に首を振りながらアマンダを探していた。
「クソッ、なんで返事をしてくれないんだ」
ハジメは忌々しいドラゴンを睨みつけながら、愚痴をこぼす。
すると、ドラゴンと目が合った。
「っ⁉︎」
一瞬。ほんの一瞬だが、ドラゴンが口の端を吊り上げたように見えた。
「・・・・・っ‼︎」
ハジメは最悪のシチュエーションを頭に浮かべながらドラゴンのいる方向へ走り出した。
ーーーーーーードドンッ
ーーーーーーードドンッ
ドラゴンがいる方向へ走っていると、誰かが戦っている音が聞こえてきた。
「まさかっ‼︎」
ハジメの心臓はうるさいと思うほど鼓動が早くなる。
ーーーーそして、ドラゴンの元へ辿り着いたハジメが目にしたものはまさに、頭の中で想像していた最悪のシチュエーションだった。
目の前で、ドラゴンがアマンダの上半身に食らいついていた。
ーーーーーがしゅっ
上半身が食いちぎられ、残った胴体が音を立てて崩れ落ちる。
「あ、あぁぁ、ぁあああああああ‼︎」
目の前で、母親が殺される。
転生前の生活では想像もできなかった光景が広がっている。
これでもう、この世界の父親と母親は居なくなってしまった。
「クソクソクソクソクソクソクソクソ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・このクソ蜥蜴やろうがぁーーーーーーーーーーーーーっ‼︎」
(ぶっ殺してやる‼︎)
ハジメは右手の痛みなど忘れて、ドラゴンに向かって疾走する。手には、近くに転がっていた木材がある。
フンッ
ドラゴンは鼻で笑うと、遊ぶように尻尾を軽く薙いだ。
ーーーーバキッ
「がはっ‼︎」
ハジメはかろうじて木材を盾にするが、木材は破壊されそのまま吹き飛ばされる。
ーーーーーードゴーンッ
地面に背中から落ちると、そのまま跳ねるように転がっていき瓦礫の山に突っ込んだ。
ドラゴンはつまらなそうにそれを見てから、ハジメのいる方へ近づいてくる。
たが、途中でドラゴンは脚を止め遠くを睨む。すると、突然翼を広げここから飛び去っていった。
ハジメは朦朧とする意識の中で、飛び去っていくドラゴンを見ていた。
そして、目の前は暗闇になった。