第7話
アマンダとハジメは、目と鼻の先にある北の避難所に向かっている。あと200mくらいだろうか。
「もう少しよハジメ‼︎」
「うん‼︎」
すでに2人の目には地下の入口が見えているが、入口の扉には男達が集まり、閉めようとしている。
「待って‼︎私達を入れて‼︎」
アマンダが入口にいる男達に向かって叫ぶ。
そして、男達は気付く。
2人がこちらに走ってきているのと、その後ろにドラゴンが迫ってきているのを。
2人も、ドラゴンがこちらに向かってきていることは分かっていた。しかし、ルークのおかげでドラゴンの足取りが悪いのは分かっていて、もちろん地下に入れると思っていた。だからこそ、
「「え⁉︎」」
扉が徐々に閉まっているのように見えるのは気のせいだろうか。
男達が自分達から目を逸らしたのは気のせいだろうか。
ーーーゴゴゴゴゴォォ。
閉められている。
自分達の目の前で、扉が閉められている。
その事実に2人はさらに声を張り上げる。
「待ってぇぇぇぇぇぇ‼︎」
「待ってくれえぇぇぇぇぇ‼︎」
それでも動く扉は止まらない。
ーーーガコオォォン
え?
うそだろ?
ハジメは言葉を失った。
「・・・・ハジメ」
隣にいるアマンダがさらにハジメの腕を強く握りながら口を開く。
「行くわよ」
「え?どこに?」
そう言って、アマンダは閉まった扉から目を離し、近くにあった建物に入る。
「母さん‼︎なにか扉を開ける方法はないの‼︎」
「ないわ。地下の入口は閉まったら、魔法などの攻撃を阻害する仕組みになっているのよ」
地下に逃げ込んでも、その扉が破壊されては意味がないということで考えられたものだ。
2人は建物内の階段を駆け上がり、3階ほど駆け上がったところで目の前にあった扉を開ける。そして中に入り、身を寄せ合った。
「ハジメ、救援が来るまでここに身を隠すわよ」
「うん。でも、ドラゴンに気づかれたら・・・・」
「大丈夫よ。お母さんが全力で守る。・・・・この命を張っても」
アマンダがハジメを優しく抱きしめる。
最後はよく聞こえなかったが、ハジメはアマンダのそんな言葉に少し安心した。と同時に、自分の力の無さを痛感するのだった。
身を隠してから何分経っただろうか。
外は日が落ちかけ、身を寄せ合う2人の影を映し出している。
(救援おせぇよ‼︎いつ来んだよ‼︎)
ハジメは緊張と焦りで怒りが募っていく。
そんなハジメを感じ取ったのか、アマンダがハジメを抱きしめる腕をさらにきつくした。
「もう少しよ。もう少しで来てくれるわ」
(なんでこんなに遅いんだ?・・・・・もしかして、北の避難所の方に全私兵を向かわせたわけじゃねぇよな)
・・・・・・・その通りである。
私兵達は、『火炎息吹』によるダメージと恐怖で「南の避難所」のことを忘れていたのだ。結局は脳筋の集団である。
ーーードドンッドドンッドドンッ
「「っ‼︎」」
そんなことを考えていると、外から鼓膜を打つような大きな音が聞こえた。さらに、それに混じって人の声も聞き取れた
「まだだ、撃てえぇぇぇぇぇ‼︎」
ーーードドンッドドンッ
アマンダとハジメが部屋の窓から外を覗くと、プレートメイルに身を包んだ集団がドラゴンに向かって魔法を放っていた。
ーーーーーー私兵視点ーーーーーー
北の避難所入口に到着した私兵達だったが、一帯が焼け野原になっていた。
「避難は無事完了しているようです‼︎」
「そうか‼︎」
私兵は南の方角を見る。そこにはドラゴンが映っている。
「では急ぐぞ‼︎南の避難所に向かっているあのドラゴンを止める‼︎」
「「「「「はっ‼︎」」」」」
ドラゴンはなぜか、左右の建物にぶつかりながら歩いている。足取りが悪い。
「なぜだか分からんが、ドラゴンの足取りが悪い‼︎すぐに追いつくぞ‼︎走りながら戦闘準備をしておけ‼︎」
それから、私兵達は数分経ってドラゴンのすぐ近くまで来た。
ドラゴンが 背後に気配を感じ、後ろに体を向ける。その時、すでに魔法師は詠唱を始めていた。
「「「「「我、目の前に追撃せし熱き炎弾を撃たん」」」」」
「「「「「我、目の前に追撃せし凍てつく氷弾を撃たん」」」」」
「「「「「我、目の前に追撃せし旋する嵐弾を撃たん」」」」」
「撃てぇぇぇぇぇ‼︎」
私兵が声を張り上げると、魔法師が一斉に魔法を放つ。
『炎撃弾‼︎』
『氷撃弾‼︎』
『嵐撃弾‼︎』
直径1m程の炎、氷、風の塊がドラゴンに直撃する。
ーーードドンッドドンッドドンッ
ドラゴンに効いている様子はない。
「まだだ、撃てえぇぇぇぇぇ‼︎」
ーーードドンッドドンッ
魔法を撃ち込んでいると、いきなりドラゴンが大きな動きを見せた。
「ん?なんだ?」
ドラゴンがこちらに向かって大きく口を開ける。
「っ⁉︎『火炎息吹』だ‼︎」
私兵が叫ぶ。
ドラゴンの口に濃赤色の炎が溜まっていく。さらに、ドラゴンから今まで以上の魔力を感じる。肌をピリピリさせる強烈な魔力だ。
「ち、違う‼︎」
一人の魔法師が叫ぶ。
「濃赤色の炎にこの魔力・・・・『炎星竜息吹』だ‼︎」
「さ、最上級魔法だと⁉︎」
私兵達の顔に恐怖が彩られる。
「っ『防御結界』だ‼︎全力で張るんだ‼︎」
一般私兵達は持っている盾を前に構え、魔法師は詠唱を始める。
「「「「「我、目の前に如何なるものも防ぎ通さん壁を発現す」」」」」
『防御結界‼︎』
ルークの『防御結界』の時と同じかそれ以上の濃い色をしている。
そして、ドラゴンの『炎星竜息吹』が放たれる。
放たれた炎の塊はまるで隕石のようだった。