第21話
「がっはっはっ‼︎やはりやりおったか‼︎」
ハジメは今、デイズに目の前で笑われている。
「本当に何なのかしらね。命がいくつあっても足りないわ」
「お前ら、好き放題言いやがって」
「いや、しかし本当にドラゴンを軽く捻るとは思わなかったぞ‼︎」
「俺も依頼書見たときはビビったね」
ハジメとリーズベルは冒険者ギルドから駐屯基地へと帰ってきて、デイズに今回のクエストについて語っていた。
「そうだ」
「「ん?」」
デイズが笑うのをやめて、2枚の紙を取り出した。
「お前ら、ドラゴンを倒してステータスが上がってるだろうから、一回確認をしておけ」
2枚の紙をそれぞれ1枚ずつ2人に渡す。
「確かにな、一回確認しておくか」
「そうね」
そう言って、2人は紙に魔力を送り始めた。
7年前ハジメはデイズと一緒に、遅くなったがこの街で神託を受けたのだ。そのおかげで、ステータスを確認できるようになった。
今2人が使っている紙は、神託を受けた者がそれに魔力を通すと、その者のステータスを記してくれる"能力可視化具現紙"と言われるもので、"能紙"と略されて使われている。
「おっ‼︎めっちゃ上がってる‼︎」
「私もすごい上がってるわ」
ちなみに、2人の"能紙"に記されたステータスは以下のようになった。
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名前:カムイ・ハジメ
種族:人間
年齢:12
性別:男
レベル:46→51
体力:1580/1600
魔力:195450/250000→250150
魔攻:1500(魔力に依存)→1650
魔防:1500(魔力に依存)→1650
筋力:1600→1750
防御:1450→1600
俊敏:1200→1350
●スキル
《剣術(達人)》《槍術(中級)》《体術(上級)》
《隠密(上級)》《俊足(上級)》
●魔法
『炎魔法(天級)』
『氷魔法(天級)』
『嵐魔法(天級)』
『鉄魔法(天級)』
『聖魔法(最天級)』
『闇魔法(初級)』
『無魔法』
●ユニークスキル
《瞬光》・・・自身の半径50mの距離を光の速さで移動できる
《光魔法強化》・・・光魔法の威力を増大する
《光魔法創作》・・・新しい光魔法を発現しやすくなる
《魔力消費量減少》・・・魔法を使った時の魔力消費量を減らせる
●備考
リーズベル・ヴェン・イニオスの奴隷主
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名前:リーズベル・ヴェン・イニオス
種族:人間(奴隷)
年齢:12
性別:女
レベル:35→42
体力:1080/1100
魔力:1200/1200→1410
魔攻:1700(魔力に依存)→1910
魔防:800(魔力に依存)→1010
筋力 :1100→1310
防御:750→960
俊敏:1100→1310
●スキル
《剣術(中級)》《槍術(達人)》《体術(中級)》
《隠密(上級)》
●魔法
『炎魔法(天級)』
『水魔法(初級)』
『風魔法(初級) 』
『土魔法(初級)』
『光魔法(初級)』
『闇魔法(中級)』
『無魔法』
●ユニークスキル
《炎帝》・・・炎魔法の威力増大、炎魔法での魔力消費量減少、炎魔法の耐性付与
●備考
ハジメ・カムイの奴隷
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とまぁ、こんな感じだ。
俺のステータスは見て分かる通り、聖魔法に特化しすぎてやがる。けど、自分で言うのもなんだが・・・チートすぎる。特に魔力。これはヤバいんだよマジで。デイズなんかこれを見た瞬間白目むいて気絶したからな。デイズの話によると、王国の精鋭近衛魔法師団の平均魔力は1万くらいらしい。《光魔法創作》というユニークスキルは、俺の『聖光の十字架』とか『大聖光の太陽』を編み出したスキルだな。
リーズベルのステータスも分かりやすいな。完全に炎特化型の魔法使いだ。なんだよ《炎帝》って、かっこええな。
ちなみに、レベルが上がった時はそのレベル分の30倍した値がステータスに割り振られる。なんで30倍なのかは知らんが・・・。あと、体力はレベルが上がっても増えることはない。これは、身体が成長していくと増えていく。つまり、個人によって伸びしろが違うということだな。
魔攻と魔防のところに魔力に依存と書いてあるのは、それぞれ魔力を使うことで強化できるからだ。魔攻と魔防を強化した俺は、初級魔法だけでドラゴンを倒せるし、もはやどんな魔法も通じない。物理攻撃も『無魔法』の『身体強化』を使えば効かないしな。うん、無敵だわ。ただ一つ、体力が並なのが心配だな。
「どうだ?見せてみろ」
ハジメとリーズベルは"能紙"をデイズに見せる。
「・・・・・お前ら相変わらずヤバイな。特に小僧。」
デイズは眉間に手を当てながら呟く。
「そんなもんは神様に言ってくれよ」
「ははは、確かにな」
一応、この世界でも神様を信仰している。女神イルガルディというらしい。
ぐぅ
ステータスを見ていると、ハジメのお腹が鳴った。
「あー腹減ったわー‼︎」
「私もお腹空いたわ」
ハジメとリーズベルは、冒険者ギルドに行ってから何も食べていない。・・・いや、リーズベルはお菓子を食べていたか。
「はいはい、もう少しで作り終わるから待ってろよ」
「デイズが作ってるわけじゃねぇけどな‼︎」
駐屯基地には食堂があり、そこでおばちゃんが飯を作ってくれている。
「おい、飯抜きにするぞ」
「ごめんなさい、食わせください」
ハジメお得意の土下座炸裂である。
「貴方本当にひとこと余計よね」
リーズベルのその言葉にハジメが反論する。
「お前は菓子食いまくってただろ‼︎太ってもしらねぇぞ‼︎ただでさえ太「ガッ‼︎」」
「ただでさえ・・・・・・なに?」
能面のような表情を浮かべたリーズベルが、槍をハジメの首ギリギリを通過して地面に突き刺していた。
「ひっ⁉︎そ、そのふ、太ももが綺麗なんだからもっと大切にしろよ?」
「ふんっ、今回は許してあげるわ・・・でも、私の太ももはそんなに綺麗かしら?」
「あ、あぁ綺麗だぞ‼︎また膝枕してもらいたいくらいだ‼︎」
「そ、そう?だったらまた今度してあげなくもないわ」
リーズベルは地面に刺さった槍を引き抜いて、頰を赤く染めながらその槍の先端を弄っている。
「お、おう頼むよ」
「えぇ、それじゃあ私は先に部屋に戻ってシャワー浴びてくるわね。ご飯できたら呼んでちょうだい」
「分かった」
リーズベルは、軽い足取りで自分の部屋に戻っていった。
「・・・・・ちょろいな」
「・・・・・そうだな」
ハジメとデイズは、そんなリーズベルの後ろ姿を見ながら呟くのだった。
「ふぅーっ、ごっそーさん」
「ご馳走様」
ハジメとリーズベルは夕ご飯を食べ終わり、デイズとこれからどうするかを話し合う。
「俺は冒険者ランクをSSにしたいと思ってる」
「それはいいな。SSになれば色々と優遇されるからな」
ハジメの言葉に頷くデイズ。
「私はハジメの足を引っ張らないぐらいに強くなりたいわ」
「それだったら嬢ちゃんは、まずは自分の身を自分で守れるくらいにはならないとな」
「そうね・・・・・」
リーズベルは表情を硬くする。
「俺が稽古してやるからさ、頑張ろうぜ‼︎」
そんなリーズベルの表情を見たハジメはリーズベルを励ます。
「ありがとうハジメ」
「あ、でも炎魔法は禁止な」
「え?いいじゃない。貴方死なないんだから」
「いやそうなんだけどさ、俺じゃなくて周りが焼け野原になっちまうだろうが」
「それもそうね分かったわ。貴方が結界を張ればいいのよ」
「いや、分かってねぇじゃん」
そんな会話を延々と続けた結果・・・・まぁ負けるのはハジメだよね。分かってたことだよね。
こうして、結局いつも通りハジメが首を縦に振ることになるのだった。
次の日の朝。
ハジメは依頼掲示板の前で悩んでいた。
「うーむ、どうするか。こっちもいいし・・・・・・・・うーむ」
「早くしなさいよ」
かれこれ30分くらい、どのクエストをやろうか悩んでいるハジメに、リーズベルも早く決めるように催促する。
「これに決めた‼︎」
ハジメが取った依頼書の内容はこうだ。
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Sランク
●ゴブリン王の討伐
※ゴブリン将軍、ゴブリン大魔術師などの多数確認あり。よって、全滅を任務達成とする。
【場所】
コルカ森林
【成功報酬】
350万イェン
【依頼者】
ジョヴィ・ボン・ベルヌート子爵
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この依頼書を受付嬢に渡す。
「はい、受諾致しました。無事のご帰還と依頼達成を祈っております」
ハジメとリーズベルはクエストを受諾されると、冒険者ギルドを出てすぐにコルカ森林へと向かった。
冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋。
ハジメとリーズベルがコルカ森林に向かって3時間ほど経った頃。
「なんだと⁉︎それは本当だろうな⁉︎」
「はい‼︎王国の情報部からの確かなものです‼︎」
メンフィスは顔を顰める。
「まずいぞ・・・・・・冒険者達を緊急招集だ‼︎」
そして、この街の冒険者全員をギルドに緊急招集するのだった。
その頃、ハジメとリーズベルはコルカ森林を歩いていた。
「今回のクエストって、前のクエストよりも簡単かな」
「どうかしら、ゴブリン王といえば集団襲撃を率いる魔物として有名よ」
「集団襲撃か、そうすると今回のクエストは集団襲撃ってことになるのか」
「その可能性は高いわね。集団襲撃のほかにも大集団襲撃っていうのもあるのよ」
「大集団襲撃?」
「集団襲撃がさらに大きくなったものね。何がきっかけなのかは分かっていないけれど、集団襲撃が一箇所に集まるのよ」
「そりゃやべぇな」
ーーーーーードドドドドッ
「おっ⁉︎」
2人がのんびり話していると、少し離れたところから地響きが聞こえた。
「かなり多そうね」
「オラ、ワクワクすっぞ」
「ふざけてないで早く行くわよ」
「おす‼︎」
「はぁ、これだから戦闘狂は・・・」
リーズベルは、ため息を吐きながらハジメについて行く。
「ぐぎゃっぐぎゃっ」
「ぐぎゃっぐぎゃっ」
「ぐぎゃっぐぎゃっ」
ハジメとリーズベルが森林を進んで行くと、緑色の肌をした人型のみずぼらしい生物が目の前に現れた。それも大量に。
「うわー居すぎだろ。俺はゴブリンなんぞにモテたくねぇぞ」
「あら、そうなの?なら誰にモテたいのかしら」
「そりゃあもちろん、可愛くて優しくてお淑やかな女の子だな」
「へぇ、まるで私みたいね」
「は?」
シュッ
「うお‼︎あっぶねぇ‼︎」
リーズベルの槍が、ハジメの目の前を通過する。
「何すんだよ‼︎」
「ごめんなさいね、ゴブリンと間違えたわ」
「どうやったら間違えんだよ・・・・」
2人がそんなことをしていると、周りのゴブリンが襲いかかってきた。
「おいリズ‼︎さっさと片付けるぞ‼︎」
「分かってるわ‼︎」
ハジメは腰に差している剣を抜いてゴブリン達を切り捨てていく。
「シッ」
「グギャアッーー」
リーズベルは槍でゴブリンの頭を正確に突いていく。
「大体こんなもんか。こんなのが何回も続くのかねぇ」
数分後剣を収めると、ハジメの周りにはゴブリンの死体が足の踏み場もないくらいに転がっていた。
「そうね、少しでも早くゴブリン王達を見つけましょう」
「だな」
2人はゴブリンを掃討すべく、再び森林を走り出した。
一方その頃、冒険者ギルドでは。
がやがやがやがや
「静まってくれ」
ギルドマスターのメンフィスによって、街にいたほとんどの冒険者がギルドに集まっていた。
「諸君らに集まってもらったのは、大集団襲撃から国を守ってもらうためだ」
「「「「「「っ⁉︎」」」」」」
メンフィスの言葉を聞いた冒険者達は皆驚きの表情を浮かべる。
「ア、大集団襲撃の規模は⁉︎」
すると、冒険者の1人から声が上がった。メンフィスはその質問に顔のシワを増やして、重々しく口を開く。
「ゴブリン王が率いる集団襲撃が6つ。ドラゴンが率いる集団襲撃が2つだ」
「「「「「「なんだと⁉︎」」」」」
冒険者達はゴブリン王の集団襲撃と聞いて、なんとかなりそうだなと思った。しかし、その後にドラゴンが率いる集団襲撃が2つあると聞いた瞬間、絶望の表情を浮かべた。
「しかし‼︎」
すると、メンフィスが大きな声を上げる。冒険者達はメンフィスの声に、絶望の表情を浮かべたまま耳を向ける。
だが次に続く言葉を聞いた途端、冒険者達は歓喜の表情に一変させることになる。
「十帝剣が増援に来てくれる‼︎」
「ほ、本当か⁉︎」
「ああ‼︎だからそれまでの時間を皆で稼いで欲しい‼︎やってくれるか⁉︎」
冒険者達は顔を引き締める。そして、
「当たり前だ‼︎」
「そうだ‼︎」
「冒険者ナメんなよ‼︎」
「やったらぁ‼︎」
そんな冒険者達を目の前にして、メンフィスは笑みを浮かべて声を張り上げる。
「行くぞ野郎ども‼︎」
「「「「「「おお‼︎‼︎」」」」」」
冒険者達のやる気に満ち溢れた声にギルドの建物が揺れる。
「クソ・・・・ハジメ達がいればもっと心強かったが、仕方ない」
興奮冷めない冒険者達を尻目にメンフィスは呟いていた。
2人は順当にゴブリンを屠っていた。
「何匹目だよ‼︎キリねぇな‼︎」
ーーーーーザシュッ
「親玉が見つからないんじゃ、ずっとこのままよ‼︎」
ーーーーーブスッ
「・・・・にしても多すぎないか⁉︎」
「・・・・どうかしら‼︎通常の集団襲撃の規模が分からないから判断出来ないわね‼︎」
2人は走りながら会話してゴブリンを殺しているが、次々と湧いてくる。
「あぁ‼︎もう‼︎この森吹っ飛ばしてぇ‼︎」
「ダメよ‼︎貴方またメンフィスに怒られたいの?次は殺されるわよ⁉︎」
「くそー‼︎」
目の前を塞がるゴブリンにイライラが募ってくるハジメ。だが突然、視界にでかい影が映りハジメは足を止める。
「んなっ⁉︎」
ーーーーードゴオォォンッ
足を止めたハジメの目の前には、これまでのゴブリンの5倍はでかい体を持つゴブリンが降ってきた。手には巨大な斧を持っている。
しかも、そのゴブリンが着地した所は陥没している。
「リズ‼︎こいつはなんだ⁉︎」
「ゴブリン将軍よ‼︎」
「へぇ、こいつがゴブリン将軍か」
ハジメは唇を舌で舐めながら剣を構え直す。
「グオォォォォッ‼︎」
すると、ゴブリン将軍がハジメに向かって斧を振り上げ、突進してきた。
「うおっ、はぇーな‼︎」
ハジメは、ゴブリン将軍が振り下ろしてきた斧を危なげなく躱す。
「こいつはゴブリンの中でどのくらいの強さなんだ⁉︎」
ゴブリン将軍の攻撃を躱しながらリーズベルに話しかける。
「ゴブリンの中では王の次に強いわ‼︎ついでに、大魔術師と同じくらいの強さを持つと言われているわ‼︎」
「そうか‼︎じゃあこいつを倒せれば王以外は雑魚だな‼︎・・・・・っと⁉︎」
ハジメがゴブリン将軍と戦っていると、突然横から『火玉』が飛んできた。
「おいリズ‼︎何すんだよ⁉︎」
「私じゃないわ‼︎あいつよ‼︎」
そう言ってリーズベルが指を差した方向には、ローブを着たゴブリンがいた。
「ん?もしかしてあいつがゴブリン大魔術師か?」
「そうみたいね」
ゴブリン大魔術師が手に炎を発現する。
「おいおい‼︎あれ『炎撃弾』じゃねーか⁉︎リズ‼︎」
「ええ‼︎『炎撃弾』‼︎」
ゴブリン大魔術師が放った『炎撃弾』を防ぐべく、リーズベルも『炎撃弾』を放つ。しかし、リーズベルの『炎撃弾』はユニークスキル《炎帝》によって威力が増大しているため、ゴブリン大魔術師の『炎撃弾』を呑み込んだ後、さらに突き進む。
「ギエェェェェ‼︎」
リーズベルの『炎撃弾』はゴブリン大魔術師を焼き尽くす。
「うわー、えげつねぇ」
ゴブリン将軍と戦っているハジメは、燃えているゴブリン大魔術師を横目に苦笑いする。
「貴方も早く終わらせなさい‼︎」
すると、リーズベルから叱咤が飛んできた。
「そうだな、よし終わらせるか‼︎」
ハジメはゴブリン将軍から一旦距離を取ると、剣を収めて指先を前に突き出す。
『光線』
ハジメの指先から光の線が放出され、ゴブリン将軍に向かって飛んでいく。ちなみに、この『光線』もハジメの創作魔法である。
「グオォォォォ‼︎」
ゴブリン将軍は『光線』を斧で防ぐ。
「おっ‼︎まじか‼︎・・・・ならっ‼︎」
『光線』を防がれたことに驚いたハジメはさらに魔力を込める。
「ば、ば「キーーーーーーーン」い‼︎」
後ろでリーズベルが何かを叫んでいるが、ハジメの高魔力により魔力と空気が共鳴して、振動することによって何も聞こえない。
「グオ⁉︎・・・・・・グオァッ‼︎」
ハジメが『光線』に魔力を注ぎ込んでいると、ついにゴブリン将軍の斧を砕き、そのままゴブリン将軍を貫いた。
だが、『光線』は止まることを知らず、木を貫き倒しながら森林を突き進んで行く。
ーーーーーーーギャアアオアァァァァ‼︎
すると、突き進んでいく『光線』を見ていたハジメの耳に、ドラゴンに匹敵するほどの大きさの鳴き声が聞こえた。
「なんだ?」
その鳴き声が気になったハジメは、リーズベルに聞こうと後ろを振り向く。
「おぅ⁉︎」
そこには、満面の笑みを浮かべたリーズベルがいた。目は笑っていないが。
「ど、どうしたんだ?リズ」
ハジメは恐る恐るリーズベルに話しかける。
「どうした、ですって?・・・・ふふふふふふふ」
すると突然リーズベルは笑い始めた。
「お、おーいリズさーん?」
ハジメが再び声をかけるとリーズベルは、ふと笑うのを止めた。
「貴方、あれだけ森林を吹き飛ばすのは止めなさいと言ったでしょう?」
「え?吹き飛ばしてねぇぞ?」
「あれはもう吹き飛ばしたと言うのよ」
そう言って、リーズベルはハジメの背後を指差す。
そこには、大人1人が余裕で通れるほどの1本の道が出来ていた。
「え、えーと・・・・あれは吹き飛ばしたとは言わないよな?」
「黙りなさい。そうでなくともヤバイわ。何をやったら森林に先が見えなくなるほどの道ができるのかしらね」
「ゴ、ゴブリン大魔術師がやったとか?」
「こんなことをできるほどの魔法は使えないはずよ」
「も、もしかし「諦めなさい」」
往生際の悪いハジメに、リーズベルが言葉を切り捨てる。
「ちゃんとメンフィスに土下座することね」
「うす・・・・・・・・あっ、そういえば『光線』が突き進んだ後、向こうの方からめっちゃ大きい鳴き声が聞こえたんだけど」
「それは私にも聞こえたわ。あっちに行ってみるしかないわね」
「そうだな」
2人は気を引き締め直して、森林にできた一本の道を歩いていく。
そして、それはいた。
「・・・・・・は?こいつってもしかしてゴブリン王?」
「もしかしなくてもゴブリン王よ」
ハジメが指差す先には、ゴブリン将軍の倍はある体に、穴を空けて死体となったゴブリン王がいた。
「ゴブリン王も大したことなかったな‼︎」
「なんか、ゴブリン王が可哀想に見えてきたわ」
ハジメは親玉を失って散っていくゴブリン達を尻目に、このゴブリン王をどうやってギルドまで運んでいこうか考えるのだった。
2人は今、国がどうなっているのかをまだ知らない。




