第14話
スキルの括弧を《》にしました。
「あー、よく寝たわ。リーズベルはもう起きてるかな?」
ベットから起き上がりあくびをするハジメ。
昨日は、リーズベルと残った焼き魚を食べながら色々な話をした。地球での学校生活はどうだっただとか。なんの料理が好きだとか。恋人がいたのかだとか。バストはなんだとか。
リーズベルには恋人は居なかったらしい。自分はモテるような容姿をしてなかったんだとか。もちろん、ハジメも恋人ができたことなど2度の人生で一度もない。
だがしかし‼︎今はそんなことはどうでもいい。リーズベルからそれよりも重大な告白があったからだ。それは、リーズベルがスキルを使えるということだ。それを聞いた時、危うく魚を落とすところだった。
リーズベルが持っているスキルは《槍術(素人)》といって、スキル《槍術》の中でも一番下のレベルらしい。一応、木の棒で突きを見せてもらったが、めちゃくちゃ鋭かった。これで一番下のレベルかよ⁉︎って思うくらいに。焼き魚の串で殺られそうになったのを思い出したくらいだ。
「はぁ、リーズベルと今日の予定を話し合わないと」
それらの事を考慮しながら予定を組み立てていくハジメ。
ハジメは今日ここから出発するつもりでいる。早めに出ないと、追っ手がここを嗅ぎつける可能性が高まるからだ。
コンコン
そんなことを考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はいよー」
ハジメは軽く返事を返しながらベットから立ち上がり、扉を開ける。
ガチャ
「おはよう」
「おう、おはよう」
扉を開けた先にはリーズベルが立っていた。この家にはハジメとリーズベルしかいないため当たり前と言えるのだが。
「・・・・・・・」
「どうしたの?」
「いや、朝早くにリーズベルが俺の部屋に訪ねてくるのが何か新鮮に感じてな」
「そ、そうかしら」
リーズベルは、肩甲骨辺りまで伸ばした紅色の髪の先を、指で弄りながら頬をほんのりと赤く染めている。
「あぁ、なんかいいわー。毎日やって欲しいくらいだわ」
「ま、毎日⁉︎・・・・・で、でもやってあげないこともないけど?ぼそっ」
「あっ、でもおはようのチューも欲しいぜ‼︎」
「・・・・・調子に乗るなよ」
「え?」
「え?なに?」
「な、なんか今にも地獄に引きずり込まれそうな声が聞こえたんだけど」
ハジメに鳥肌が立つ。
「気のせいよ」
「だ、だよな‼︎はっはっはっ」
「こんな茶番はいいから、早く中に入れてくれないかしら」
「ん?お、おうすまん」
ハジメは体を斜めにずらし、リーズベルを部屋の中に入れる。
ぎしっ
すると、リーズベルはベットの上に腰掛けた。これが当たり前だというような雰囲気を醸し出している。
(あれ?これはもしかしてあれですか?隣にちゃっかり座っちゃえばいいあれですか?そうですよね、あれですよね)
ハジメも、これが当たり前というような雰囲気を醸し出しながら、リーズベルの隣に座ろうとする。
「ちょっと」
「はい。なんでしょうか?」
「なんでしょうか?じゃないでしょ」
そう言いながら、リーズベルは指を指す。
「ん?」
ハジメはリーズベルの指先を目で追っていくと、それが床に当たることに気が付いた。それも、部屋の外の床に。
「早く座りなさいよ」
「おかしくねっ⁉︎百歩譲って床は良いとしても、部屋の外はねぇだろ⁉︎」
「だめよ。外の床に座りなさい」
結局ハジメが折れることになった。ちなみに部屋の床に座らせたくない理由は、スカートの中を覗いてくるからだと。見ねぇよ、お前のなんざ。あと、立ってれば良いんじゃね?とか思ったやつ。残念だったな既出だ。なんか、ハジメに上から見られてるようで嫌なんだと。うん。鬼理不尽だねっ♪
「とりあえず、今日ここを出るぞ」
そして、その理由をリーズベルに話す。
「確かにそうね。分かったわ」
「あと、1つだけいいか?これは一番大事なことだ」
ハジメの声のトーンが少し下がったのを感じて、リーズベルも表情を引き締める。
「盗賊や魔物とかに襲われたとき、リーズベルは自分の命を優先してくれ」
ハジメは一昨日の二の舞を踏まないように気をつけながら言葉を紡いでいく。
「でももし、俺が助けを求めたときには手を貸してくれ。矛盾してるのは分かってるが、2人のときのほうが有利な状況もあるかもしれない。だから頼む。」
「えぇもちろんよ。あなた1人に戦わせるなんて最初から思っていないわ」
「い、いやだから俺が助けを求めたときにしてくれよ?」
「・・・・善処するわ」
「はぁ〜」
ハジメは小さく息を吐いて、痛む尻をさすりながら立ち上がる。
「じゃ、また後で」
「えぇ、また後で」
ハジメはベットに腰掛けるリーズベルに目を向けながら目の前の扉を閉める。
「・・・・・・・・・あれ?ここ俺の部屋じゃね?」
ハジメとリーズベルは家の外にいた。
「それじゃ出発するぞ」
「えぇ、行きましょう」
そう言うリーズベルの手には木の棒が握られ、先端にはガラスの欠片が取り付けられている。これは、ハジメが作った即席の槍である。
そして、ハジメとリーズベルは一度家を見た後歩き出した。
出発して約3時間経過。
ハジメは歩きながら、通った木に傷をつけて目印をつけている。
「この森、生き物が何もいねぇな」
「えぇ、少し不気味だわ。天気も悪くなってきたし。」
「あぁ、・・・・・・ヤバそうだな」
ハジメは大量の雲により、どんよりとした空を見上げながら呟く。
「この辺りで今日は野宿をしましょ」
「あぁ、そうだな」
リーズベルの提案にハジメは迷うことなく頷く。
「よしっ‼︎それじゃあ野宿の準備を・・」
がさっ
「「っ⁉︎」」
野宿の準備をしようとしていた2人は、突然聞こえた音にすぐに反応する。
「・・・・・・・なんだ?」
ハジメが一歩踏み出し、魔力を練り上げる。リーズベルは槍を握る力をさらに強くする。
「リーズベル、俺の後ろに来るんだ」
ハジメが、リーズベルに自分の後ろに来るように指示した瞬間
そいつは現れた
ガアァォァァァ‼︎
2人の目の前に狼のようなやつが跳び出してきた。
茂みから跳び出してきた狼は若緑色の毛を生やしており、高さはハジメと同じくらいで体長は2m以上あるだろう。
ハジメは反射的に魔法を唱えた。
「我、手中に剛柔な光の鞭を待たん」
『光鞭‼︎』
ハジメは光の鞭を目の前の狼に思いっきり振るう。
ーーーーーバチンッ
ーーーーーーズサアァァ
ハジメが振るった『光鞭』は狼の胴体を捉えるが、狼の脚を滑らせるだけで終わる。
「く、くそ‼︎」
ハジメはさらに『光鞭』を振り回し、狼に当てていく。
ーーーーーバチンッバチンッバチンッ
だが、狼は表皮から少し出血しているだけであまり効いた様子はない。
ハジメが息を整えながら注視していると、いきなり狼が突っ込んできた。しかもかなり速い。
ガアァォァァァ‼︎
(まずいっ‼︎間に合わない‼︎)
ハジメは魔法を唱えるのが間に合わない。しかし、狼がすぐそこまで迫ってきている。ここはっ‼︎
「っリーズベル‼︎」
「分かってるわ‼︎」
狼とハジメの距離はもう1mもない。
「やぁーー‼︎」
すると、ハジメの後ろから気合のこもった声とともに槍が飛び出した。
グァギャーッ⁉︎
リーズベルの渾身の突きは、狼の眼球を貫いた。
「やった‼︎」
「すごいぞ‼︎リーズベル‼︎」
リーズベルは刺さった槍を狼の眼球から引き抜く。すると、狼は後ろに大きく跳びのいて少しよろめく。
「よしっ‼︎いけるぞ‼︎」
ハジメは止めとばかりに魔力を練る。
「我、目の前に燃え盛る炎を放たん」
『火炎‼︎‼︎』
ハジメは自身の全力の『火炎』を放った。
ハジメの『火炎』は物凄い勢いで狼を炎で覆う。しかし、狼は最後の足掻きとばかりに、口を開けて何かを放ってきた。
ハジメは咄嗟なそれに反応することが出来ず、もろに受けてしまう。
「ぐほぉっ‼︎」
ーーーーーーバキッ
「ハジメっ⁉︎」
ハジメは何かに吹き飛ばされ真後ろに飛んで行く。そして、近くの木に叩きつけられた後仰向けに倒れ込んだ。
ハジメは燃え盛る狼を背景に、リーズベルがこちらに向かってくるのを見ながら意識を落とすのだった。




