第13話
「・・・・リーズベル、お前地球って知ってるか?」
ハジメは、リーズベルの横顔を見ながらそれを口にする。リーズベルは一瞬目を大きく見開く。
「・・・・・・・・知ってるわ」
リーズベルは少し間を空けてから口を開いた。
「・・・・・そうか」
「・・・・えぇそうよ」
「転生したのか?」
「・・・そうみたいね」
「転生してからどのくらい経った?」
「5年よ」
「俺と同じか」
「貴方も?」
「あぁ」
ハジメとリーズベルは淡々と話を交わしていく。そして初めて、それぞれのこの世界での年齢を知る。
ハジメは、会話の流れからいけるんじゃね?と、もう少し攻めた質問をすることにした。
「いつからパンツ替えてない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?殺されたいの?」
いきなりストレート。いくらなんでも攻めすぎだ。
「じょ、冗談だぜ?いやほんとに」
「冗談でも死ねばいいわ」
そして、完璧なクロスカウンター。リーズベルはゴミ虫・・・・いやゴミを見るような目でハジメを見ている。
「そ、そんなこと言うと本当に死んじゃうよ?」
「えぇ、死ねばいいわ。あぁ安心していいわよ、墓標にはちゃんと彫ってあげるから。『5歳の女の子のパンツを見た挙句、いつからそのパンツを替えていないのかを聞いてくる変態ここに眠る』ってね」
「やっやめてぇ‼︎そんな詳しく彫らないでぇ‼︎せめて『変態ここに眠る』だけしてください‼︎後生、気を付けますからぁ‼︎」
「後生って・・・・貴方すでに一回死んでるじゃない。無効よ」
「・・・・・・・・・・ハッ、ハジメの後生ですから‼︎」
「貴方必死ね。見てて滑稽だわ」
カチンッ
「なんだと?」
「は?」
「イイエ、ナンデモアリマセン」
リーズベルの言葉ひとつひとつに謎の圧力を感じる。
(さて、そろそろいいだろう)
ハジメはリーズベルに聞きたかったことの本題に入ることにした。
リーズベルの地球での年齢である。男としてはかなり気になるところだが、女性というのは年齢を隠したい生き物だ。しかし、それをなんとかするためにハジメはいきなりストレートをかましたのだ。始めにストレートをかますことでボディを開けさせ、攻撃しやすくするためである。このボディというのは、リーズベルの地球での年齢のことを意味する。
「・・・・リーズベルは、地球では何やってたんだ?ちなみに俺は高校生やってたぜ」
ハジメは額に流れる汗を隠しつつリーズベルに尋ねる。
「私も高校生をやっていたわ」
「おっ、まじか‼︎俺2年だったんだよ‼︎リーズベルは?」
(コレきたんじゃね?)
「私は3年生だったわ。地球でも私のほうが先輩ね」
(さ、3年⁉︎先輩じゃねぇか‼︎)
「そ、そうなんすか」
「なんで、いきなり敬語になるのよ」
「おう、すまんついな。・・・・・・じゃ、じゃああれか俺の1つ上だから18か」
「えぇ、そういうことになるわね」
(・・・・あれ⁉︎案外簡単に聞けたぞ?こんなに作戦考える必要無かったか?)
ハジメは思いのほか、ボディへの攻撃が簡単だったことに驚いた。
そして暴走する。
(これ、案外もう一発ストレートかませるんじゃね?・・・・うしっ)
ハジメは心の中で気合を入れ、それを口にする。
「バストなんだった?」
これがストレート?生ぬるい。ほかに当てはめるのなら・・・・そう、まさにデンプシロールだろう。
「・・・・・・・・は?何ですって?よく聞こえなかったわ」
ハジメの額からさらに汗が滲み出てくる。
「・・・え?だ、だからバスうおっ⁉︎」
ハジメが反射的背中を反らすと、物凄い速さで目の前を何かが過ぎていった。
「なっ⁉︎なにすんだよ‼︎」
「ちっ、死ねばよかったのに」
リーズベルの手には焼き魚が刺さってたであろう、先の尖った木の棒が握りしめられていた。
「危ねぇよ‼︎死ぬわ‼︎」
「えぇ、殺すつもりだったもの」
「ふざけるなよ‼︎」
「ふざけてるのはどっちよ」
「うっ、そ、それでも危ねぇっての」
リーズベルの言うことが正論過ぎて言葉に詰まるハジメ。
「・・・・・・もういいわ。ごちそうさま」
そう言って、リーズベルは立ち上がり家に戻ろうと体を向ける。
(ま、まずいっ‼︎これを逃したら‼︎ええぃままよ‼︎)
「すまなかった‼︎」
すると、後ろからハジメの謝る声が聞こえてきた。だが、リーズベルは足を前に進める。
「リーズベル‼︎‼︎」
「っ⁉︎」
ハジメの、初めて聞くほどの大きな声に肩を跳ねさせる。
「待ってくれ‼︎‼︎‼︎」
リーズベルはその場に立ち止まり、体をハジメの方に向ける。
「なっ⁉︎」
リーズベルが体の向きを変えた先には、地面に額を擦り付けるようにして土下座をしているハジメがいた。
「本当にすまなかった‼︎‼︎俺がふざけ過ぎてた‼︎‼︎」
リーズベルは無言でハジメを見つめている。その目には涙が溜まっているように見える。
「それと‼︎‼︎‼︎」
ハジメはさらに声を張り上げる。
「今日の朝、酷いことを言ってすまなかった‼︎‼︎‼︎許してくれ‼︎‼︎‼︎」
その場に静かな空気が流れ、木の葉や草木を揺らす音だけが2人の耳に入る。
「・・・・・・顔を上げてハジメ」
そう言われたハジメは恐る恐る顔を上げる。
「っ⁉︎」
顔を上げたハジメの目に飛び込んできたのは、口を真一文字に結びながら涙を流すリーズベルだった。
「・・・・・リーズベル」
「ごめんなさいハジメ・・・・」
リーズベルが両手で目を覆うようにして口を開いた。
「本当は私が先に謝らないといけなかった。ごめんなさい。」
リーズベルは、汚れによって少し霞んでいる紅髪を垂らしながら深く頭を下げる。
「朝のことは私が全て悪いの。ただハジメに八つ当たりしていただけ」
「八つ当たり?」
「私は毎日が不安で仕方が無くて眠れなかった。なのになんでハジメはこんなにも元気に能天気でいられるんだって」
「の、能天気って・・・」
「そうじゃない‼︎いつもいつも私の気持ちなんて考えないでバカにしてくるじゃない‼︎」
「し、してねぇよ‼︎」
「パンツが見えてるだとか言ってくるじゃない‼︎」
「い、言ってねぇよ?」
「疑問系になってるじゃない‼︎言ってるわよ‼︎そういうところが能天気なのよ‼︎」
「あーはいはい言ってますよ。言ってますけど⁉︎何か⁉︎」
「開き直らないで‼︎」
「え?何も聞こえません〜。わたくし聴力が壊滅的なもんで」
「なっ⁉︎そ、そういうところが私をイラつかせるのよ‼︎」
フゥッーフゥッーと鼻息を荒くしながらリーズベルがハジメに指を指している。
「・・・・・・・それで?」
「・・・・・なんですって?」
「だから・・・・・それで?」
「それで?」
「俺は誤った。お前も誤った。・・・それで?」
「・・・・・・なにが言いたいの?」
リーズベルは眉を寄せる。
「いやさ、結局お前が今俺にやってることも八つ当たりだろ?」
「んなっ⁉︎ち、ちが「違うのか?」」
リーズベルは口を閉ざす。
「八つ当たりしててごめんって言っておいて、もう八つ当たりしてるじゃねぇか。ってか、別に八つ当たりしていることに怒っている訳じゃない。俺はただ・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・俺はただ、相談してほしかった」
「っ⁉︎」
「お前が不安になっていることに気が付かなかったことは謝る。・・・・・けど、俺は口に出して貰わないと何も分からないんだ。能天気だからな‼︎はははっ」
リーズベルはそんなハジメの言葉を聞いてまた泣きそうになっていた。
「だからさ、頼れよ俺を」
「・・・・・・頼っていいの?」
ぼそっ
「ん?」
「・・・・頼っていいの‼︎?」
リーズベルはハジメの目を真直ぐ見る。
「あぁ‼︎頼れ‼︎どんとこい‼︎」
そう言ってハジメは胸を強く叩く。
「うん、うん」
そんなハジメの言葉にリーズベルは何回も頷く。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・焼き魚2匹残ってるんだけど食べる?」
「うん!食べる‼︎」
そう言ってハジメの隣に座ったリーズベルは、焼き魚を受け取りそれを頬張る。
この時、リーズベルがハジメの肩にくっつ付くくらいの距離で座っていたのは言うまでもないだろう。




