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路地裏から生まれた世界最強(旧:路地裏生活から生まれた世界最強)  作者: 蒼たばすこ
2章 始まる路地裏生活
12/22

第11話


盗賊から逃げ切ったハジメとリーズベルは森の中を走っていた。


「はぁっはぁっはぁっ」


「ハジメっ、大丈夫っ?」


リーズベルはハジメの左腕を見て、乱れる息を殺しながら口を開く。


「おう‼︎大丈夫だ‼︎」


「ほんとにっ?」


「・・・あ、ああ」


すると、突然ハジメは右腕を後ろに引っ張られる。


リーズベルが足を止めたのだ。


「・・・・ハジメ、少し休もう」


真剣な眼差しでハジメに言う。


「でも・・・・あぁ、分かった」


ハジメは渋々頷くしかなかった。







休んだおかげで身体の調子が少し楽になったハジメは、リーズベルと一緒に寝床を探していた。


「どこかいい場所はねぇかな」


「そうね、もう日が暮れてきたわ」


2人がいるのは森であるため、余計に暗く感じる。そのため早めに、比較的安全に寝られるような場所を探していた。


「お?」


「・・・なんか、不気味ね」


30分くらい森を彷徨っていると、所々腐敗し、色褪せた茶色の木で作られた小さな家を発見した。


扉は思いのほか簡単に開いたため、そのまま家の中にお邪魔した。


「き、汚ねぇ」


「え、えぇ」


家に入って目に飛び込んだのは、穴の空いた床にカビの生えた壁。さらに、扉が2つあったのでそれを開ければ、顔面に蜘蛛の巣が張り付く始末。


「うげっ」


「うわっ‼︎大丈夫?」


「ぺっぺっ・・・あぁ、でもこの2部屋は使えそうだな」


「そうね、ベットもシートの埃を落とせばまだ使えそうだわ」


そう、2部屋の扉を開けると、そこには古びたベットが置いてあったのだ。


「それじゃ、軽く掃除といきますか」


そう言って、ハジメは近くにあった布を2つ手に取り、1つをリーズベルに渡した。


「え?」


するとリーズベルはなぜか、訳が分からないと言わんばかりに首を傾ける。


「え?」


これにはハジメも訳が分からず同じように首を傾ける。


「貴方が掃除をしてくれるんでしょ?」


「は?」


「だ〜か〜ら、貴方が掃除をしてくれるんでしょっ?」


「え?」


「・・・・・・貴方、初めて会った時から思ってたけど聴力が壊滅的ね」


「・・・・いやいやっ‼︎ちげぇよ‼︎そういう意味じゃねぇよ‼︎」


「それならどういう意味よ?」


「お前は掃除しねぇのかって意味だよ‼︎」


「え?」


「だーかーら、お前は掃除しねぇのかって意味だよ‼︎」


「?」


「お前のほうが壊滅的だわ‼︎」








日が落ち、何も見えなくなった頃。


結局、部屋はハジメが掃除をすることになった。掃除が終わったことを告げたときのリーズベルの顔を思い出すだけで、ハジメはまたイライラゲージが上昇していくのだった。


「リーズベル、一人で寝れるのか?」


「寝れるわよ‼︎子供扱いしないで‼︎」


「はいはい・・・・・子供だろうに」


ボソ


「何か言ったかしら?」


「いいえ、なんでもありません」


「そ、じゃあおやすみ」


「あぁ、おやすみ」


ハジメは扉を閉め、リーズベルをからかうことでイライラゲージの下降を感じながら、隣の部屋に向かいそこのベットで寝るのだった。







翌朝。


カーテンの無い窓から照りつける日差しに目が覚めたハジメは、ベットから起き上がり部屋の扉をあける。


「おっ、おはよう」


「・・・・おはよう」


すると、ちょうど隣の部屋からリーズベルが出てきた。


「おいおい、大丈夫か?」


「・・・・大丈夫よ」


リーズベルの目の下には隈があり、綺麗な紅髪も心なしかくすんでみえる。


「ちゃんと寝てないのか?」


「・・・寝たわ。ぐっすりとね」


「じゃあ、その隈はなんだ?」


「・・・・・・・・・メイクよ」


「・・・・嘘つくの下手かよ」


「嘘じゃないわ」


「メイクの道具なんてどこに持ってたんだよ。昨日の掃除のときにはそれらしきものは無かったぞ」


「・・・・・・・乙女の秘密よ」


「ぐっ‼︎」


(それを言われると何も言い返せない。ってか、まだガキのくせに乙女の秘密ってなんだよ‼︎)


「はぁ〜、あと1日休んで明日出発するか」


「・・・・大丈夫よ」


そんなリーズベルに対して、ハジメは少しキツく当たることにした。万全な状態で安全に森を抜け出せるように。


「・・・・・リーズベル。正直言って今のお前は足手まといだ。森は魔物などが出てきて簡単に抜け出せるような所じゃない。いざって時に今のお前が居たんじゃ、俺も死んじまう。分かってくれ。」


「〜っ‼︎」


リーズベルは唇を噛み締めると、目尻に涙を溜めながら部屋に戻っていった。


「あー、どうすっかな」


ハジメは部屋の扉を見ながら、リーズベルの機嫌をどうやって直そうか考えるのだった。


ーーーーーリーズベル視点ーーーーー


(なによっなによっなによっ)


リーズベルは、ハジメによって多少は綺麗になったベットシートに顔を埋め、一人泣いていた。


(寝てないのがそんなに悪いことなの⁉︎しょうがないじゃない‼︎今まで、こんな怖いことなんて経験したこと無いんだから‼︎)


リーズベルのシートを握る力が強くなり、シートの皺が濃くなる。


(ばかっ‼︎ハジメのばかっ‼︎)


心の中でハジメを罵倒しながら、リーズベルはハジメと初めて会った時のことを思い出す。





ーーーーーーーーーーーーーーー


イニオス家は200年前の大戦争において国に多大な貢献をし、子爵の地位を授かった。そんなイニオス家の三女として私は生まれたわ。


そして、私の両親と2人のお姉様は生まれたばかりの私をとても可愛がってくれたの。あの日が来るまでは。


ある日、私はいつものように2人のお姉様と楽しく遊んでいたわ。そんな私達をお母様とお父様はにこやかに見ていたわ。


だがそれは突然起こった。下から突き上げるように地面が揺れ、みんなは踏ん張れずに倒れてしまう。屋敷の中からは侍女の悲鳴や物が割れたりする音が聞こえてくる。


やっと揺れが収まると、お父様とお母様は執事を呼んで領地の状況確認を急いでいたわ。数十分後、帰ってきた執事の口からは驚くべき言葉が返ってきた。


領地内の建物の半分が崩れ、近くの川が氾濫しているらしい。それを聞いたお父様はすぐに対策を講じたわ。家を失った者や氾濫した川の近くに住んでいる者達の避難誘導と救助。


でも、その次に待ち受けていたのは領地の復旧だった。国からの援助はあったけれど、領民の不満を無くすことはできず、その矛先はすべてこちらに向いたわ。


お父様はそんな領民の不満を無くすために、我が家の財産を切り崩してまで復旧に勤しんだわ。その結果、領民の不満はほぼ無くなったものの、山のようにあった我が家の財産は、もはや一家全員が暮らすのに精一杯なくらいにまで無くなっていた。


そこでお姉様たちは、元々婚約をしてくれと言い寄っていた貴族と結婚することにした。そうすれば、相手先から援助を受けることができるからだ。でも、私はその貴族達が大嫌いだ。その貴族達はお姉様達の顔と身体しか見ていないから。


私は、いつもお姉様達が自由な恋愛をして、自由な結婚をしたいと言っていたのを忘れてはいない。だからこそ、余計に貴族達と結婚させるわけにはいかないと思った。




私は奴隷になることを決断した。




私が奴隷になることを両親とお姉様に話すと、みんな泣いてくれた。でも、首を縦には振ってくれなかった。娘を奴隷にする親と姉がどこにいるんだとのこと。


でも、私の決断は揺るがない。いろいろと手を回して、奴隷商に話をつけることができたわ。



奴隷商への引き渡しの約束日になった。これで、大好きな両親とお姉様達ともお別れだ。みんなには手紙を残しておいたから、心残りはない。



あぁ、一つだけあるわ。私もお姉様達と同じく自由な恋愛と自由な結婚をしてみたかった。




奴隷商に運ばれていると、馬車が止まり商人が誰かと話している声が聞こえる。どこかの街に着いたらしい。相変わらず外を見ることは出来ないが、遂に奴隷館に入れられてしまうのかと憂鬱気味になってしまう。


馬車が再び動き出した。なぜか、今まで以上に荷車が揺れ、たまに木をへし折ったような音が聞こえる。街の中じゃないのかと疑問に思っていると、いきなり馬車が止まる。


何分待たされただろうか。馬車が止まってからかなり時間が経っている。そんなことを考えていると、荷車の扉の鍵を開ける音が聞こえる。


ついに、奴隷館に着いてしまったのだろうか。久しぶりの日の光に目を細めながら開く扉を見る。


え?


扉が開いたと思ったら、汚れた白色のジャケットを着た金髪の男の子が転がされてきた。


歳は私と同じくらいだろうか。なぜか、意識を失っているようだ。そんな男の子を観察していると馬車は再び動き出した。



次の日、男の子が目を覚ました。男の子はまだ私に気づいていないようだ。仕方がない、私から声を掛けてあげますか。


男の子と会話を続けていると、名前をハジメと言うらしい。ハジメ・・・変な名前だわ。


ハジメはお母様とお父様を亡くしたらしい。しかも、お母様は私の髪と同じ色だったらしく、美しいと褒めてくれたわ。べ、別に嬉しくなんかないわよ‼︎


ハジメと話していると、なんだか寂しかった心が温かくなってくる。なんでかしら。でも嫌いだわ‼︎私のパ、パンツを見る変態だもの‼︎


ある日、荷車が大きく揺れた。盗賊に襲われたらしい。ハジメは私の目の前で魔法を使い自分と私の拘束を解いてくれた。すると、ここから脱出すると言い出した。本気かしら。


どうやら本気らしい。不安もある。でもハジメがいればなんとかなると思ってしまう。


ハジメの作戦で私達は壁を蹴る。すると、作戦通り荷車の扉が開いた。ハジメは私の名前を叫び魔法を使うと、共に脱出した。やった‼︎成功だわ‼︎


後ろから4人の盗賊の残党が追ってくる。


まずいわ‼︎


すると、ハジメは魔法を唱えると体を反転させ光の鞭で残党を倒す。


す、すごい‼︎


心なしか、恐怖や緊張とは別に心臓の鼓動が早くなっている気がした。


ーーーざしゅっ


え?


ハジメの光の鞭を避けた残党の一人が、ハジメの左腕を剣で切り裂いた。


「ハジメ‼︎」


気付いたら、ハジメの名前を叫んでいた。


残党がさらにハジメに近づき剣を振り上げる。


だめっだめっだめぇぇぇ


剣が振り下ろされる。ハジメはなんとか、紐を束ねて防いでいた。


ハッ、ハジメ‼︎


私はハジメを助けるために、男の背後に回って股間を蹴り上げた。


私の(・・)ハジメに手をださないで‼︎


男が悶絶しているうちに、ハジメは私の手を掴んで森へと走る。その間にハジメが何かを言っているが、私は繋いでいる手に意識がいってしまって何も耳に入らない。





どのくらい走っただろうか。やっと、緊張が抜けて周囲に気が配れるようになってきた。そして気付く。ハジメの左腕の出血が酷く、顔も青白くなっていることに。私は意地でも彼を休ませようとした。


ハジメと私は休んだ後、寝る場所を探した。さすがに、暗い森で休めるほどタフではない。少し彷徨っていると、小さな家を見つけた。ボロボロだけれど、野宿よりかはマシだわ。


寝るときになって、ハジメは私に1人で寝られるのかと言ってきた。


「寝れるわよ‼︎子供扱いしないで‼︎」


私は反射的にそう答えてしまった。そして、部屋の扉が閉められる。


静まる部屋。ベット以外何もない部屋。思い出してしまう今日の出来事。毎日毎日不安で仕方がなかった暗闇の荷車。そして、今はどうしているだろうか私の大好きな家族。


様々な不安に襲われ、心は疲れているのに眠れない。どうしてだろうか。





そのまま朝を迎えてしまった。




部屋の扉を開けると、ちょうどハジメと会った。


「おっ、おはよう」


「・・・・おはよう」


「おいおい、大丈夫か?」


「・・・・大丈夫よ」


(なんで貴方はそんなに元気なの?)


「ちゃんと寝てないのか?」


「・・・寝たわ。ぐっすりとね」


(ねぇ、なんで?)


「じゃあ、その隈はなんだ?」


「・・・・・・・・・メイクよ」


(・・・・なんなの)


「・・・・嘘つくの下手かよ」


「嘘じゃないわ」


(なんなのよ‼︎)


「メイクの道具なんてどこに持ってたんだよ。昨日の掃除のときにはそれらしきものは無かったぞ」


「・・・・・・・乙女の秘密よ」


(貴方には関係ないでしょ‼︎)


「ぐっ‼︎」


「はぁ〜、あと1日休んで明日出発するか」


「・・・・大丈夫よ」


(私なんかに合わせる必要ないのよ‼︎)


「・・・・・リーズベル。正直言って今のお前は足手まといだ。森は魔物などが出てきて簡単に抜け出せるような所じゃない。いざって時に今のお前が居たんじゃ、俺も死んじまう。分かってくれ。」


(え?・・・・足・・・手まと・・・い?)


「〜っ‼︎」


(そう思っていたなのなら初めから言えばいいじゃない‼︎)


私は、部屋のベットにうつ伏せで倒れこみ、抑えきれない怒りをベットシートに向けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



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