第10話
横からの強い振動に、ハジメは床を転がる。
「うおっ⁉︎」
ーーーゴンッ
ハジメは壁に頭をぶつけることで停止する。
「いてーなくそ、なにが起きてる‼︎」
とりあえず、ハジメは壁を使って上体を起こしながら周囲を確認する。
「リーズベル‼︎大丈夫か‼︎」
右を見たところにリーズベルが横になって倒れていた。
「大丈夫よ‼︎」
そう言いながら、リーズベルも壁まで移動し、上体を起こす。
(ふぅ、良かった)
「一体なにがあったんだ?」
「分からないわ」
ーーーガシャンッ
「・・・・ん?ちょっと静かにしてくれ」
ハジメは微かに聞こえた物音に耳を澄ます。
「・・ここに・・・・の荷・・置・・・な‼︎」
(なんだ?外からの音か?)
ハジメは壁に耳を当て、外の音を聞き取ろうとする。
「やっ、やめてくれ‼︎」
「荷物を置いてけば何もしねぇさ」
「わ、分かった‼︎荷物は全て置いていく‼︎」
「そうか、げへへへ。じゃあもういっていいぞ」
「ひいぃっ‼︎」
「あの世へな」
ーーーーザシュッ
ーーーーどさっ
ハジメの背中に冷や汗が出てくる。
「っ⁉︎やべぇ‼︎」
「どうしたの‼︎」
いきなり落ち着きが無くなったハジメにリーズベルも大きく反応する。
「・・・盗賊だ」
「っ⁉︎」
「さっき、誰かが殺された。たぶん商人だろう」
「このままではまずいわ‼︎」
ハジメの言葉にリーズベルも落ち着きを無くしていく。
「この紐をなんとかしねぇと‼︎」
ハジメは手首と足首の紐を解こうと必死になる。それを見たリーズベルも紐を解こうと必死になる。
「クソッ・・・・・・・あ、そうだ‼︎」
ハジメは突然動きを止める。
「どうしたの?」
「魔法だ‼︎」
(なんで思いつかなかったんだ‼︎)
「魔法?」
「ああ‼︎」
大きく頷くと、ハジメはリーズベルの目の前で詠唱を始めた。
「我、指先に暖かな火の灯かりを灯さん」
『火灯』
ハジメは指先に『火灯』を発現することで、紐を焼き切ることを考えた。
「よしっ‼︎なんとかいけそうだ‼︎」
リーズベルは、そんなハジメを呆然と見ている。
「あ、あなた魔法を使えるの?」
「・・・ん?おう使えるぜ」
「すごいわね‼︎」
「お、おう」
いきなり興奮気味に目を輝かせたリーズベルに、ハジメは驚いた。
「私達の年齢で魔法使える人はそうそういないわ‼︎」
「そ、そうなんだ」
それからリーズベルの話を聞いていると、大体の子供は成人となる12歳から18歳の間に魔法学園に入り、そこで魔法を学ぶことが分かった。ちなみに、リーズベルは魔法に強い憧れを持っているらしい。
(ってか、成人て12歳からなんだな)
そうこうしているうちに、ハジメは手首と足首の紐を焼き切った。
「うしっ‼︎次はリーズベルだな」
「ええ、お願い」
ハジメは再び『火灯』を唱え、リーズベルの手首と足首の紐も焼き切った。
「さて、どうするか」
「どうするの?」
脱出しようにもここの扉は内側から開かないようになっている。
ハジメは眉間に皺を寄せながら、ここを脱出する策を考える。
「リーズベル」
「なにかしら」
「壁を蹴るぞ」
「え?」
ハジメの考えた作戦は壁を蹴ることで音を出し、その音に反応した盗賊が中の様子を見にきたところで脱出するという、単純なものであり、かつ危険も孕んでいるものだった。
「この作戦はすごく危険だ。やってくれるか?」
「 ふんっ‼︎このくらいどうってことないわ」
「そうか、ありがとう」
そう言ってハジメは頭を下げる。
「な、なによっ‼︎そんなことしなくてもいいわよ‼︎」
「はははっ、それもそうかリーズベルだしな‼︎」
「むっ、それどう意味よ?」
リーズベルの言葉を無視し壁と向き合うハジメ。
「リーズベルやるぞ」
「・・・・まぁいいわ。分かったわ」
リーズベルはジトッとした視線をハジメに送った後、壁に向き合った。
「よし、いいか?盗賊が扉を開けたら俺が『明光』を唱える。それで盗賊の目を潰す。それから脱出だ。ああ、それと目はしっかりと腕か何かで覆っててくれ。」
「ええ、分かったわ」
ハジメとリーズベルは頷き合ったあと、同時に足を上げる。
ーーーーガンッ
ーーーーガンッ
ーーーーガンッ
ーーーーガンッ
10回くらい蹴っただろうか。すると外から声が聞こえてきた。
「おいっ‼︎後ろから音がするぞ‼︎」
「待て、俺が確認してくる。大事な商品かもしれん」
男はハジメ達の入っている荷車の扉に近づき、フック状の鍵を外す。
ーーーガチャッ
「よし、来たな。準備はいいかリーズベル?」
リーズベルは無言で頷く。
それを見たハジメは手に魔力を集め、『明光』の詠唱を始めた。
ーーーーギィィィッ
そして、外からの眩しい光と共に扉が開かれた。
「今だ走れ‼︎『明光‼︎』」
ーーーーーーピカアァァァ‼︎
荷車の中を強烈な光が埋め尽くす。
「ぐわぁ‼︎」
男は目をやられたのか、叫びながら目を抑える。
そんな男を横目に見ながら、ハジメとリーズベルは荷車から脱出した。
「なんだ今の光は⁉︎」
別の盗賊の男が、突如荷車から光が漏れ出たのを見て声を上げる。
そして気付く。小さな子供2人が荷車から出ていくのを。
「っ⁉︎お、お前ら‼︎待ちやがれ‼︎」
ハジメとリーズベルは後ろから聞こえる盗賊の声に焦りながらも足を動かす。
「おいっ‼︎商品が逃げたぞっ‼︎」
「追えぇ‼︎」
盗賊達が2人を追ってくる。所詮は子供の体だ。すぐに彼らとの距離は縮まっていく。
「くそっ‼︎我、手中に剛柔な光の鞭を待たん」
『光鞭‼︎』
ハジメは『光鞭』を唱え、追ってくる盗賊達に打ち込む。
「ぐはぁ‼︎」
「があぁぁ‼︎」
初級であっても魔法というのは、その辺にいる兵士よりもかなりの攻撃力がある。この世界で魔法師が優遇されているのはその所為でもある。
「このクソガキがぁ‼︎」
「っ‼︎しまった‼︎」
『光鞭』から逃れた男がハジメに向かって剣を振り下ろす。
ハジメは咄嗟に左腕を出し剣を受けた。
「ぐあぁぁ‼︎」
左腕が切り裂かれ血が吹き出る。
「ハジメ‼︎」
目の前で、ハジメが切られたのを見たリーズベルは名前を叫ぶ。
「ゲヘヘヘヘ」
血が滴り落ちる剣を手にしながら、男が2人に近寄ってくる。
そして、左腕を抑えながらしゃがみ込むハジメに再び剣を振り下ろした。
「死ねやぁ‼︎」
「っ‼︎ハジメ‼︎」
ハジメは左腕の痛みを我慢して、咄嗟に手首と足首を縛っていた紐を取り出し、4本にまとめ剣を受け止めた。
相手の剣の腕が無かったのか、剣が欠けていたからなのか。紐を2本残して男の剣は止まっていた。
(っぶねぇ‼︎)
ハジメは背中に冷や汗と脂汗をかいていた。
「このっ‼︎ハジメから離れろ‼︎」
すると突然リーズベルが男の背後に回り込み、男の股間を蹴り上げた。
「うごっ‼︎」
男の剣が紐から離れた。
「い、行くぞ‼︎リーズベル‼︎」
直ぐに、ハジメはリーズベルの手を掴んで森へ向かって走り出す。
ハジメの後ろ姿が少し内股に見えるのは気のせいだろうか。