第9話
ーーーーガタッガタッ
「・・・・・・ん」
体を下から殴られるような振動に目が覚める。
「・・・・・ど、どこだ?」
起き上がろうとすると、足首と手首が紐で頑丈に縛られていることに気付いた。服装はそのままのようだ。
「な、なんだよこれ⁉︎」
その場で拘束から逃れようとジタバタと暴れる。
「やっと起きた?」
「・・・・誰だ」
暴れていたハジメは声を掛けられ、動きを止める。
声を掛けてきたのは歳がハジメと同じくらいの少女で、髪は汚れているが綺麗な紅色だと分かる。仕立ての良さそうな薄水色のシャツに膝丈までの黒いスカートを穿いている。
「貴方の先輩よ」
「・・・・・・・は?」
「だから、貴方の先輩よ」
「・・・・意味が分からないんだが」
「だから、貴方の「それは、分かったから‼︎」」
「なによ?」
少女は少し不機嫌そうにハジメに視線を送る。
「いや、君の名前を聞きたいんだよ」
「・・・・この状況でよくナンパできるわね」
「いや、もうそういうのはいいから」
「・・・フンッ、仕方ないわね。ど〜〜〜しても教えて欲しいのなら教えてあげてもいいわよ」
(コイツ、面倒くせーー‼︎)
「はいはい、教えください。」
「っ‼︎・・・まぁいいわ」
ふぅっと少し間を空けて少女が口を開く。
「私の名前は、リーズベル・ヴェン・イニオスよ」
(・・・貴族か)
この世界の貴族には共通して、何かの封号が入っている。少女の場合はヴェンにあたる。
「そうか、よろしくリーズベル。俺の名前はハジメ・カムイだ」
そう言って、握手をしようとハジメは手を伸ばそうとするが、それが出来ないことを思い出した。
「ところで、この紐はなんだ?なんで俺は縛られてるんだ?」
「・・・・・捕まったからよ」
「捕まった?」
「そうよ・・・・・奴隷商にね」
「・・・・・・・・は⁉︎」
「私の方が貴方よりも先に捕まったのよ。だから私のほうが先輩。」
それを聞いて、先ほどの先輩発言の意味を理解したハジメ。
「・・・・・・・・奴隷商」
「そうよ」
「リーズベルは怖くないのか?」
ハジメは彼女と話してからのことを思い返すと、それが一番疑問だった。
「怖いわ。でも・・・・・・・・・貴方がいるから大丈夫」
「えっ。それって」
すると、リーズベルは徐々に顔を赤くして声を荒げる。
「ち、違うわよ‼︎そう意味じゃないんだからねっ‼︎」
「え?どういう意味?」
「っ‼︎そ、それは・・・・・」
リーズベルはますます顔を赤くする。
「冗談だよ」
「ムキーーーーッ」
(なんかこの子面白いわ。リーズベル・・・なかなか弄りがいがありそうだ)
奴隷商に捕まったハジメだったが、徐々にこの状況に慣れてきているようだ。慣れてはいけないのだが。
リーズベルとそれからも話を続けていたハジメは、改めて彼女の容姿をまじまじと観察していた。
「なっ、何よ」
「いや、その紅色の髪がさ」
「私の髪がどうかしたの?」
「綺麗だなって」
「・・・・・・・・何を企んでるの?」
「は?」
リーズベルは元々あったハジメとの距離をさらに離した。
「いやいや、別に何も企んでねぇよ」
「嘘つかないで‼︎ど、どうせ私のか、身体が目当てなんでしょ‼︎」
顔を赤くしながら、リーズベルは叫ぶ。
「いや、ねぇよ‼︎ぜってぇねぇよ‼︎神に誓ってねぇよ‼︎お前の身体なんぞに興味なんて湧くかよ‼︎」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない‼︎」
2人で言い合っていると、前から怒声が飛んできた。
「おいっ‼︎うるせぇぞ‼︎」
一瞬ビクッとなった後、2人は睨み合いながら会話を止めた。
それから数時間後。
2人はまだ睨み合いを続けていた。
「・・・・・・おい、もういい加減疲れないか?」
「・・・・・・そっちこそ、いい加減睨むのを止めたらどうなの?」
このままだと埒があかないと思い、ハジメは降参することに決めた。
「・・・・はぁ、俺の負けだ」
「ふっ、ふんっ‼︎初めからそう言えば良かったのよ‼︎」
(チッ‼︎)
また、イライラゲージがグングン上昇していくハジメ。
「ふぅ〜〜っ」
ここは、大きく息を吐くことでイライラを紛らわすことにした。
「で、でも私の髪を褒めてくれたのは嬉しかった」
「そうか」
(このくらい素直のほうがもっと可愛げがでるのに。もったいねぇ)
「うん」
「・・・・リーズベルの髪の色がさ、俺の母さんの髪の色とほぼ一緒なんだよな」
ポツリとつぶやくハジメ。
「そうなんだ・・・・今お母様は何をしてるの?」
そう聞かれると、ハジメはその回答に少し躊躇う。
「死んじまった。父さんと今頃仲良くしてんじゃないのかねぇ?」
ハジメはできる限り明るく見せる様にリーズベルに答えた。
「そう・・・・お父様も」
「おいおい、なんだよリーズベル。なんでお前が泣きそうになってるんだよ」
「だ、だって‼︎そうとは知らずに貴方を馬鹿にしたから‼︎・・・・っぐす」
「いやいや、気にしてねぇよ。つーか、普通は俺が泣くほうだろ‼︎」
「で、でも・・・・・」
「はぁ〜・・・・・・リーズベル、パンツ見えてるぞ」
(正直、この手は使いたくなかった)
「っぐす・・・・・・・え?」
リーズベルの表情は一変し、下がっていた目尻は徐々に上がってきた。
「〜っ‼︎この変態‼︎鬼畜‼︎ゴミムシ‼︎」
(あ、あれ?なんか目にゴミが)
「リ、リーズベルのご両親は?」
流れを切るべくリーズベルに話を促す。それが功を奏したのか、リーズベルが一気にテンションを落とした。
「・・・・・・いるわ」
「・・・そうか」
いないと言われたらどうしようかなどと考えていたハジメは、内心ホッとしていた。
「私の家は没落貴族でね・・・・」
それから、リーズベルは自分の家族について語ってくれた。
リーズベルの家は財政難に陥り、没落したらしい。貯蓄が急激に減ったイニオス家がこれからどうしていくかを考えていた時、リーズベルが自分を奴隷商に売ると言ったらしい。
もちろん家族全員反対していたが、無理やり押し切り奴隷になったそうだ。イニオス家はそこそこ大きい貴族だったらしく、その娘となればかなりの金額が支払われただろうとのこと。
「・・・・・そうか、お前もなかなか大変だったんだな」
「うん。でも両親は生きているから、貴方よりは全然マシよ」
「そうか?」
「えぇ、そうよ」
ここで話が途切れ、2人の間になんとも言えない空気が漂う。
「そ、そういえば」
「な、なにかしら」
2人とも、平然を装うと必死である。
「この馬車は何処に向かってるんだ?」
「たぶん、私達を収容する奴隷館だと思うわ」
「奴隷館?」
「奴隷館はいろいろな所から連れてきた奴隷を収容し、売りさばくところよ。」
「・・・なるほど。あとどのくらいで着くんだ?」
「さぁ?それは私にも分からないわ」
(このままだとヤバいな。さてどうするか)
ハジメは、目を瞑りながら今の状況から脱出する術などを考えていると、そのまま眠ってしまうのだった。
ーーーーードオォォォン
ハジメが目を覚ましたのは下からでは無く、横から殴られる様な振動にもよるものだった。
やっとヒロインが1人出てきました。




