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眠り姫の日記  作者: かわばた
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目覚め

私は何処にでもいる平凡な女の子でした 。

特に秀でた特技も 、欠落も無く

絵に書いたような普通の高校生活を送っていました 。

一つ他の人とは違うものと言うならば 、

遠距離恋愛をしている事くらいでした 。

それでも東京と神奈川との微遠距離だったし 、

数日に一回は彼の声を聞いていたし 、充実していました 。

彼は社会人だったけれど 、私を大切にしてくれていました 。

裕福では無かったし 、特別でもなかったけれど 、

きっと私は幸せでした 。

今ならば 、心からそう思えます 。

あの頃に戻りたいと思います 。

叶わないからこそ 、私はこれを書きたいと思います 。


私が発病したのは 、

高校1年の冬 。クリスマス前の事でした 。



「 由紀 、最近授業中寝過ぎじゃない?」


由紀は私です 。本間 由紀 。

注意してくれたのは クラスメイトの カナちゃん 。今川 佳奈 。


「 うーん 。ちゃんと夜寝てるんだけどなぁ 、最近すっごく眠くって 。」


苦笑いで答えた私でしたが 、

あまり心配はしていませんでした 。

単に眠気が強いだけでしたし 、勉学面でもそこまで

心配する成績では無かったので 。

今思えば 、私の異変に一番に気付いたのはカナちゃんでした 。

私達は小学校からの親友で 、

何をするにも一緒だったからでしょうか?

カナちゃんにはこの後も沢山迷惑をかけました 。


「 不眠症とかならわかるけど 、寝過ぎって!子供かよ」


カナちゃんは笑いながら私の頭を撫でると 、

先程の授業のノートを見せてくれました 。

私は今にも思考を侵蝕しそうな睡魔と戦いながら 、

手早にノートを写しました 。

その次の授業も 、目を覚ますと終わっていて 、

またカナちゃんにノートを見せてもらいました 。




「 由紀 、食堂行こう 」


お昼になると 、私の眠気はピークでした 。

こういうのってお昼を食べてからだと思っていたけど

違うんだなあって思いながら 。

それでも眠い目を擦りながら食堂へ行きました 。

私はお弁当だったけれど 、カナちゃんが買弁なので

毎日食堂でお昼を食べていました 。


「 由紀 、由紀 !聞いてる?」


気が付けばカナちゃんに起こされる日々 。

喋っている時もご飯を食べてる時も下校中でも 。

歩きながら寝れるって私、スゴイ?

なんて笑ってられるのはその時だけでした 。

五月病みたいにちょっとだるいのが続くだけ 。

その程度にしか思っていなかったのです 。

特に痛い事、辛い事も無かったのですから 、

危機感なんて産まれるものでもないのかも知れません。



「 ただいまおかーさーん 。」


キッチンから出て来て おかえり、と微笑むのは 本間 エミ 。

私のお母さんです 。

歳を感じさせない肌のハリツヤや若く見える茶髪は

娘としては少し恥ずかしい所もありましたが、

家事全般家計のやりくりはお手の物。

優しくて明るいお母さんの事が私は大好きでした。

遅れて出て来たのは妹の 麻美 。通称 アーサです。

最近辿々しいものの一人で歩ける様になった2歳 。

お母さんのエプロンの裾に掴まりながら、

花の咲きこぼれる様な笑顔で

「ねえたん、おかえり!」と言ってくれます。

若干呂律が回っていないけれど、とても愛らしい妹です。


リビングのソファに寝そべりくつろぐのは弟の蓮 。

二つ下の中学2年生です 。

染められた茶髪やキラリと光るピアスは現代風の〝チャラい〟に

当てはまるかもしれないけれど 、

蓮はとても要領のいい子で 成績も中の上、スポーツ万能 。

勿論女の子にも良くモテる 、

若干の心配はあっても とても良い弟です 。


「 おかえり姉ちゃん 。おかえりのハグ~ ♪」


なんて 、冗談めいて私を抱き締める程には兄弟中も良くて 。

良過ぎる、なんて言われることもあるけれど 、

小さい頃からずっとこうだったので今更違和感も無かったです 。

抱き締め返した蓮の身体は日に日にしっかりとしていって、

姉としては嬉しい様な、なんだか寂しい気もしたけれど 。


「 眠そうだね 。夜更しでもしたん?」


流石の弟でよく見て居るようで。

ふああ、と欠伸を付いたら 、私は部屋へ上がります 。

ココ最近 ご飯も食べずに眠ってしまう事も多いのに

何時だって睡魔が私を襲っていました 。

その日ももう目を閉じればすぐに落ちてしまいそうな程の

眠気が襲ってきて 、

やっとの事で二階の自室へ入るや否や

制服のままでベッドに潜り込み眠りにつきました 。

良くも悪くも翌日は土曜日だったので

何の心配もなく 、目を閉じました 。


思えばこの日が悪夢の始まりでした 。

「覚めない悪夢」の ー ー ー 。





「 ...ん!..えちゃん!姉ちゃん!」


意識は霧の中でした 。

白いもやが沢山かかった世界で聞き覚えのある声が私を呼びます。

目を覚ましているつもりなのに肢体は動きません 。

もがいてもがいて 、少しずつ声が近くなります 。

一際大きい呼び声に手を引かれ 、

違う世界に還ってきたかの様な気がして 重い瞼を開けました 。

私を呼んでいたのは蓮でした 。

心配そうな顔には焦りも見えて 、

長い長い眠りから覚めた気分の私は ゆっくりと背伸びをして 、

先ず時間を確認しました 。

朝日が窓辺を照らす 午前8時 。

寝ぼけていた脳も少しずつ目を覚まし 、

次に蓮に向かい問い掛けました 。

「何をそんなに慌てているの?」と 。

蓮は私が目を覚ました事に安堵していて 、

私の質問に少し間を置いて答えてくれました 。

呑気な私に少し呆れるような口調で、「今日は月曜日だ」と 。

私はぽかーんと口を開けてしばらく沈黙しました 。

頭が事実に追い付きませんでした 。

自分が丸一日眠っていた事を真実と呑み込むには

その後も時間がかかりました 。

蓮の手の込んだイタズラだと思っていましたから 。

一階に降りると 、母が 「あら 起きたの」と漏らすように述べました。

そして私の身体を心配した後 、食欲を聞きました 。

そういえばとてもお腹が空いていました。

ある、と答えると母は朝食の用意をし始め、

後ろから蓮の「いってきます」の声が聞こえました 。

少し後のドアが閉まる音を聞いて 、

これはイタズラなんかじゃない事を悟りました 。

そうするとなんだか笑けてきて 、

ふふと笑みを浮かべた後ダイニングに腰掛けました 。


「 私、本当に丸一日以上寝てたのね。」


「 そうよ。昨日なんて蓮が何度も揺さぶって起こしたのに起きなかったんだから。

それであの子すごく心配して大変だったのよ。

でもまあ元気ならいいの。私も心配したのよ?」


「 あはは、ごめんなさい!」


放任的 、というか

どこか緩い母でしたからこの程度で終わりました 。

丸一日寝ていたなんて漫画の中のものだと思っていた私も

なんだか面白くて 、

けれどその朝は沢山寝たからなのかあまり眠気もなく 、

朝食を済ませた後 、学校へ向かいました 。

母は休んでもいいよと言ってくれましたが 、

特に悪い所も無かったですし

久しぶりに眠気もなく体調も良く、私は進んで学校へと足を進めました。


学校へ着き 、職員室へ寄った後教室へ向かいます。

教室のドアを開けた瞬間 、

「 由紀 !!! 」とカナちゃんの高い声が響きました 。

他にもクラスメイトの女子達が心配そうにこちらを見ていましたが 、

当の私は何故そんなに心配されているんだろう、なんて 。


「 携帯 !!!」


カナちゃんが私にスマホの画面を差し出しました 。

私とのトーク画面でした 。

丸一日返信どころか既読すら付かない私に

何度も大丈夫?とメッセージを送ってくれていました 。

私は携帯の事なんてすっかり忘れていて 、

吹き出すように笑ってしまいました 。

一人笑い声が教室に響き 、笑いを抑えると、大きく深呼吸しました。

次にカナちゃんに抱きつきました 。

有難う 、なんて耳元で呟いてみたら 、

教室がしんみりした空気に包まれました 。

カナちゃんと親友で良かったと思いました 。

カナちゃんも、肩の荷が降りた様に大きくため息をつくと、

「ばぁぁぁか!!」と抱き締め返してくれました。



「 本間!」


授業も終わり、

丸一日以上寝ていた事をカナちゃんに話していると

クラスメイトの青川李(あおかわえん)君と、

同じくクラスメイトの陸道彼方(りくどうかなた)君が寄ってきました 。

李君は私の彼氏こと青川千聖(あおかわちさと)の弟で 、

小さい頃にはお互いの家で遊んだり、

家ぐるみで遠出したりと昔ながらの付き合いで、

陸道君は李君と一番仲のいい知り合いで

学校ではこの4人で過ごす事が多かったです 。

特に李君と陸道君は女子にとても人気で

入学したての頃は一問答あったりもしたけれど、

今ではとても仲のいいグループです 。


「 丸一日寝てたんてマジ?」


「 マジマジ!私も起きた時びっくりしたもん~ 」


たわいないお喋りも進んで 、

あっと言う間に休み時間も終わりました 。

授業始まりのチャイムが鳴る仲 、

李君が小声で 「今日一緒に帰ろう」と呟きました 。

私だけに聞こえる声だったので 、

何か話でもあるのかなと思い 、OKしました 。

放課後カナちゃんに一緒に帰れないと言った時は

なんだか後ろめたい気もしたけれど 。


「 由紀 」


「 ...李 、君 。」


というのも 、

私はカナちゃんにひとつだけ嘘をついていたからでした 。

それ以外のことは一つも嘘を付いたことが有りません。

2人の時、李君は私の事を由紀と呼びます。

私達は恋人同士でした 。

中学1年のたった数ヶ月だけの事だったけれど 、

私達はお互いを「愛している」と言えるほど求めていました 。

それが今千聖とお付き合いするキッカケになったのだけれど 。


「 改まって 、どうしたの?

こうやって2人で話すの 、結構久しぶりだよね 。」


夕日か私達を柔らかく照らしていました 。

私達の通う高校は結構大きな高校で 、

沢山の地域から人を集めていたので 、

まわり道や裏道を通って帰りました 。

一応 、カナちゃんと帰るのを断っていたし 、

無意識的に2人の元の関係を隠すためでした 。

それでも2人で色々な道を通って帰っていると 、

小さい時の冒険が思い出され何だか楽しくて私は上機嫌で彼に尋ねました 。

李君はそんな私を見て 、切なそうに微笑むと

公園のブランコを指差し 、あそこで話そうと言いました 。

その公園は小さい頃二人でよく遊んだ公園でした 。

古くなった遊具は私達にはもう小さくて

時間の流れを感じさせられたけれど 、

目の前に微笑む李君の暖かさは変わらず優しく、それがとても嬉しかったです。


「 兄貴がさ 」


キィ、とブランコを揺らすと李君は口を開きます。


「 お前の事心配しててさ 。」


私には駄目な癖がありました 。

人は基本的に 、頭で考えてから言葉を発します。

こう言ったら相手はどう思うだろう 、

どういった方が良く伝わるだろう と 。

だけど 、咄嗟に出る言葉や反射的なものは抑えられない 。

私は毎回 、「相手の核心をついてしまう」のでした 。

止めるべきだと思いました 。

私を見ようとしない彼の気持ちの片鱗を、知っていたのに。


「 話したいのは 、本当にそれ?」


喉を枯らす様な気分でした 。

ハッとして彼の顔を見れば 、もう遅いと声が聞こえました 。

むず痒そうに 、泣きそうな笑顔を浮かべた彼は 、

「これも、かな。本当に心配してたよ。」と言うと下を向いて、

変わってないな と 漏らしました 。

千聖は神奈川に居るので遣り取りは携帯になるのだけど 、

私が携帯全く見てなかったから

きっと心配してたというのも本当なんだろうなあなんて考えながら 。

本当を言っても私は受け入れられないのに 、

求める事の愚かさをもう知っているはずなのに 、

踏み入れようとして止まらないのはどうしてなのでしょうか?

李君はゆっくり私に手を差し出すと 、帰ろうと言いました 。

私はその手を取ると 、

心の中で うん と頷きました 。

日が落ちてきて 、暗くなった街は知らない場所のようでした 。

強く握られた掌は暖かくて 、少し震えていて 。


「 ... 由紀 ?眠いの?」


「 え? 」


「 や、お前眠くなると 手 、熱くなるから 」


握った手を胸元に持ってきて 、李君は笑いました 。

思い出は思い出のまま沈むものばかりでもなかったのです 。


「 丸一日も寝たのに 、眠いわけないじゃん!馬鹿!」


私は李君の肩を叩くと 、

行こう!と走り出しました 。

少し驚いた様にしていた李君も 、次の瞬間は笑みを浮かべ、

私と肩を並べ走ってくれました 。


「 あー、疲れた!あはは!」


李君の家の近くに付くと 、

乱れた息を治すためにかがんだ私の背中を 李君が優しく摩りました。

李君は余裕そうな顔でいて 、

「男の子だなあ」なんて思いました 。

ふと弟の蓮の事と重ねて 寂しい気持ちが目を潤したけれど 、

低い声がそれを拭いました 。


「 由紀 」


バッと顔を上げると 、

目の前に居たのは 千聖でした 。


「 千聖 !!! えっ ... なんで居るの!!」


驚きを隠せずに居る私に 、千聖は落ち着けと声を掛けると

優しく私の頭をなでてくれました 。

細身で高身長 、艶やかな黒髪がしっとりとしていて 、

落ち着きのある大人な千聖を見ていると 、

大声で笑ったり走ったりしていた自分が妙に子供に思えて恥ずかしくなり

顔を隠してしまいました 。


「 久しぶり 兄さん 」


「 .... 久しぶり 。元気にしてた?」


隣で話す李君の顔は険しく 、

それに同化する様に千聖の表情も冷たくなっていきました 。

ふと千聖が私の名を呼び 、手招きしました 。

進めた足を止めたのは李君でした 。


「 ...なんのつもり?李 。」


険悪なムードがどんどん悪くなる様に感じました 。

私は考えるより先に口を開いていました 。


「 お お茶 」


二人が不思議そうに私を見ました 。

勿論口から出ただけでその後なんて考えていなかったので、

私は どうにでもなれと 適当を言います 。

きっとその時の私は真っ赤だったと思います。

顔が熱くてしょうがなかったですから 。


「 走って疲れた。 お茶 、くれない?」


その場をやり過ごすためとはいえ、

なんとも不格好だとは思います。

その時の私は産まれたての小鹿の様に震えていたと思いますし

思考回路は5歳児程度だったかも知れません。

ともかく私の一言で空気は和んだのか 、

少しの沈黙の後 李君が 「 上がってけば 」と青川家を指さします 。

私がやってしまったと思うのと同じ瞬間 、

千聖も そうだね、上がってきなよ。と言います。

引き返す道も見えず 、お邪魔しますと言う私でした 。

後悔という物は本当に先に立たずだなあとしみじみ思いました 。

それでも久方ぶりに御邪魔する幼馴染みの家は

幼い頃とあまり変わっておらず 、懐かしい気持ちに襲われたり。

青川家は三階建ての白くて大きなお家で 、

玄関はとてもシンプルな下駄箱と1輪のガーベラのみ 。

ピカピカに磨かれたフローリングを抜けると

白を基調として纏められたリビングが在ります。

55Vのテレビだけが部屋に大胆に色を付けていて 、

テーブルクロスの淡い桃色が落ち着きを醸し出しています 。


「 紅茶 で 良いよな ? 」


ふと背後で声を掛けてくれた李君に うん と 返すと

千聖がソファにでも座っててと微笑みます 。

正直とても気まずい状態なのだけれど 、

ほんのり香る紅茶の香りやふかふかのソファは私の心情を癒してくれました 。

少しして3人分のティーカップとティーポットをトレイにのせ李君が 、

カゴに杏のパイと桃のパイを持って千聖がキッチンから出て来て 、

凄く微妙な位置に二人は腰を降ろし 、

凄く微妙な沈黙が続きました 。


ポーン ... ポーン ...


時計の音に肩を震わせました 。

反射的に見た時計の針は6時丁度を指していて 、

それが私達の沈黙を断ち切った様で

李君がティーカップに紅茶を注ぎ始めました 。

カチャ 、トポポ ... と しっとり とした 音が響きました 。

透き通った金掛かる橙色の液体が

アンティーク風のティーカップに注がれる様子は

お伽噺のお姫様のお茶会の様だなんて思って 、少し笑ってしまって 。

それを見た2人も栓を抜いた様に笑い出し 、

私もそれが可笑しくてまた笑いました 。

腹痛に襲われる程笑い合った後の沈黙の終焉はとても早かったです。


「 冷めないうちにど‐ぞ 」


李君がカップの一つを私の前に差し出し 、

角砂糖の入った容器は此処だからと指差します 。

千聖は角砂糖を2つ入れた私を見て クス と笑い乍 ストレート で 、

李君は 「 ガキだな 」なんて馬鹿にしたくせに

自分も角砂糖1つ溶かして飲んだりしていて 。

それに桃のパイがとても美味しくて 。

先程まであれ程険悪なムードだったのが嘘の様に

楽しい時間が過ぎました 。

子どもの頃の話や千聖の仕事の話で盛り上がったけれど 、

どこか遠く寂しいものを3人が感じていたと思います 。

勿論私も 、離れていた期間も 、過去も痛い程消えないものだなあなんて思っていました 。


「 しばらくこっちに居るから 」


千聖の言葉に目を輝かせた私が言葉を発する前に

千里の携帯が鳴りました 。

席を外した千聖の後ろ姿を見送ると立ち上がった李君が手を差し出して居ました 。

キョトンとした私の手を取ると 、

李君は リビングイン階段をのぼり自室のドアを開けました 。

幼い頃と変わらない間取り 、

ただ全てが大人っぽくなっていて

足を踏み入れてはいけないと思いました 。

私が立ち止まっている理由を察したのか 、李君が優しく繋いだ手を握りました 。


「 付き合ってた頃1度も家あげたこと無かったもんな 」


「 え ... あ 、うん 。李君部活忙しかったしね 」


「 兄貴と付き合ってからも 来なかったよな 」


「 ....直ぐに神奈川行っちゃったから 千聖 」


「 ....本当に?」


背筋が凍る様な感覚でした 。


「 入れよ 」


描き消したい過去は噎せ返るような熱さで私の体中を駆け巡る。

この次の日からでしょうか、

私が夢から覚めなくなったのは 。


過去の悪夢に囚われたまま 、

今を汚す様に眠りに落ちて 、

この後私は全てを病魔のせいにする最低な女になります。


「 李 、君 」


「 何?」


そう言う李君はとても冷たくて 、

優しかった手はいつの間にか痛いほど私を縛り付けていました 。


そんな彼の目を避ける様に手を振り払い 、

私はその部屋に足を踏み入れます。

扉がしまる音が鼓膜を響かせて 、


平凡でありたいと願った私が終わる音だと思いました 。


やっぱり 、


後悔は先に立たないんです。

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