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翌日。

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (故人)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

 ― 翌日 午前10時半 ―



 川村は病院を退院し、自分の家に戻る途中に川に寄った。理由は簡単。自分にとって致命的な証拠品をこの世から抹殺する為。

「これを捨てれば、俺が捕まる事はないはず……」

 事の順調さに、川村自身、不安もありながらも、強気になっている事は間違いなかった。彼は、ボールペン型のリモコンをズボンのポケットから取り出して見つめる。



【自分の生涯で一番良い発明をしたな。まさか、ちゃんと爆発するとは、デモンストレーションのように時間がかからずしっかりと反応してくれたのは良かった。】



「じゃあな!」

 川村は自分の力を振り絞って、綺麗に音を立てながら、下流へと流れゆく水に向けて、リモコンを投げた。

 リモコンは小さく音を立てて、流れる水へと着水した。静かに流れていき、姿はどんどんと小さくなっていった。

 目的を済ませた川村は自宅へ向けて歩いていく。

「あっ、しまった大学に自転車を置いたままだった」

 思わぬ忘れ物を思い出したものの、どのみちまた大学に向かうことは決まっているので、すべてを終わらせた記念で家に戻り、軽く食事をしようと考えていた。

 歩きながら食べたいものを独り言として呟く。

「久しぶりに肉でも焼くかな? ちょっと高めの肉にしよう」

 爆破を起こすまで、ほとんど食べ物を口にしていなかった為、全てから解放されて安堵した今、お腹から鈍い轟音が鳴り響き、食欲が無性に湧いている事を感じた。

 もうすぐ自分の家が見える。

 今日の予定を決定させて、あとは家に着くだけだったが、思わぬ来客が入った。

「あれは……」

 自宅の前に、1台の4WDが停車しており、玄関の前で、徳永と高山が立って待っている。

 思わぬ相手が自宅前に来ているのを確認して川村は、不安と焦燥に駆られた。



【あの刑事!? なんで、俺の家に来ているんだ!?】



 徳永は周りを見渡すと、ちょっと離れた先で、川村が立ち止まって自分に向けて、軽く会釈しているのを確認し、徳永も会釈で返した。



【厄介だな。なるだけ軽くあしらおう。あの刑事が担当なら多分、大丈夫だ】



 川村は歩き出して、徳永達に近づき、軽い挨拶をする。

「昨日はどうも。捜査の進展はいかがですか?」

 彼の発言を聞いて、徳永の隣にいた高山が言おうとするが、徳永に遮られた。

「捜査の進展は……」

「いやぁー全然ですよ。全く展開できません」

 徳永の物腰が非常に軽く積極的な感覚である事を川村は感じている。

 彼は、気の毒そうな表情を徳永達に向けた。

「それは大変ですね。新聞やニュースでは、テロリストによる仕業とかになっていましたが?」

 徳永は、眉間にしわを寄せながら、首を横に軽く振った。


 否定。


「所詮、報道は報道です。その報道は嘘になります」

 川村はそれに続けた質問をする。

「となると犯人の目星がついているということですか?」

 徳永は軽く笑みを浮かべて、言った。

「実を言うと……全く」

 斜め上の答えだった為か、川村は勢い良く笑った。それを気にせず徳永も笑っている。

「はははははは」

 取り残された巡査部長は、咳払いで自分の存在を笑っている2人に気づかせた。

 川村は気を取り直す。

「おっと、失礼しました。で、僕に何かようでも?」

 彼の言葉を聞いて、徳永は、人差し指を立てて、告げる。

「実を言うと気になった点がありまして、その、宜しいですか?」

「あっ、どうぞ中で話を聞きましょう。その方がお互い良いでしょう」

 彼はそう言って家の玄関の鍵を開け、ドアを開ける。

「すいません。おじゃまします」

「いえいえ、どうぞどうぞ」

 2人の刑事は、彼の言葉にのり、家にお邪魔する事にした。

 最近の大学生は、こんな広い所で住んでいる事を知り、昔、体験した極狭の大学生活を徳永は思い出し、比較している。

「すごい広いですねー」

 川村はキッチンで、湯呑に冷蔵庫で冷やしていたペットボトルのお茶を注ぐ。

「まぁ、亡くなった両親が遺してった家ですからね。お陰様で楽ではありますよ。あ、どうぞそちらのソファーでくつろいでてください」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 徳永は川村に言われた通り、ソファーに座る。その隣を高山が占拠。

 キッチンから御盆を持って、川村は湯呑を徳永のいる所まで運んだ。

 湯呑を応接用のソファーテーブルに置く。

「どうぞ。これぐらいしか出せませんが……」

「あ、ありがとうございます」

 高山は川村に礼を言って湯呑を持ち、1口、喉にお茶を注いでいく。川村はお盆を置いて、2人の対面側に座り、笑顔で反応しながらも、徳永に告げる。

「で、お伺いしたい事があるんじゃないですか?」

 徳永も笑顔で返す。

「ええ、そうなんですよー。事件当時の事を再度、お伺いしたくてですね。2、3質問が。ゼミの発表、どんな事を発表されたんです?」



【何だ? そんな質問ことかよ!?】 



 徳永の質問に対して、内心がっかりしているが、受け答えはしっかりした応対をする。

「ああ。私は、現代日本の裁判制度の改正についてです」

「なるほど。流石、法学部生の発表ですな。この大会には4回とも参加されているみたいですね?」

 徳永は人差し指を指して、大量のトロフィーが飾られている棚を示す。

 川村は誇らしげに、笑みを含みながら答えた。

「ええ。4回参加して、3回連続入賞し、4回目を取ろうとして、気付けば病院のベッドですよ。ハッハッハ」

 高山は何とも言えない表情になり、言葉を返す。

「お気の毒に……」

 少々、気が沈んだのか、川村は低めの声で言った。

「いえいえ、まだ元気ですから……」

 徳永は咳払いをして、本来の質問へと戻ろうとする。

「で、1つ疑問に思ったのは、どうして、あの場で吉岡先生にお礼を告げたんですか? しかも発表途中で。後からでも良かったでしょうに……」

 この質問に対して川村はしっかりと予測していた。



【やはり、その事を訊いてきたか……】



 鋭い所をつついてくるのは、昨日の対面で承知していたから、対策は考えていた。自分が彼の罠にはまらないように裏では慎重に考える事。

 表は、淡々と答える様に川村は行っていく。

「あれは、あの場で言ってよかったんですよ。正直、先生がいなければ論文はできずに棄権する予定でしたからね。まぁ、なんとか発表できて良かったですよ。それに、聴衆や審査員に礼を言うゼミは一杯いますから……」

 高山は頷いて手帳に川村が発言した事をまとめる。

「なるほど。だからあの場で礼を言ったわけですね」

 川村は首を縦に降って頷いていたが、対面側に座る丸眼鏡の警部は、首を傾げている。

「ええ」

「うーん。そうかぁ」

 徳永の思いつめている顔を見て、少々、川村は疑念に駆られそうになる。



【この刑事、何を考えているんだ!?】



「どうしたんですか?」

「いえ、実は、あなたの発表の映像を見せてもらったんですけどね。吉岡先生はあなたが礼を言おうとする前に途中で、席を立ったんですよ。覚えていますか?」

 徳永は丸眼鏡の微小なゴミに気付き、眼鏡を外して、ハンカチでゴミを拭き取っている。その間に川村は、顎をさすりながら答えた。

「いいえ。知らないなぁ。ほとんど正面を見ていましたから」

 答えた彼にとって『知らない』と発言した方が一番得策であると理解している。

 発言をしたあとで川村は刑事の2人の動向をじっくりと観察し始めた。徳永は眼鏡を掛けて、ハンカチを下のポケットにしまう。

「そうですか。実を言うと、吉岡先生は14時14分。爆破の3分前にご自身の席をお立ちになったんですよ」

 その話を聞いた張本人である川村は知っていて事実を分からないふりをして答える。

「どういう事ですか?」

 警部は、そのまま話を続けていく。

「先生の近くに座っておられた方々にも病院で証言を取っているんですがね。吉岡先生は、カバンを持って会場から出ていこうとしたんですよ。ご存知でしたか?」

 彼は自分の湯呑を持ち、お茶をすする。液体の冷たさが、温まった舌に適温を与えていく。

「いえ、知りませんでしたね。そうだったんですか?」

「てことは、あなたはご存知ではなかったと」

 両手を首と肩ぐらいの位置まで上げて、知らないと彼は強調させた。

「ずっと正面でしたし、先生の座っていた位置は左端でしたから、正直に言えば、見えませんでしたね」

 徳永は、頭を左人差し指で強く掻き、悩む。

「なるほど。となると、うーん。おかしいなぁ」

 警部の驚く程の悩み様に、川村は少々笑いを含みながら、言葉を返す。

「何がです?」

 川村の表情を見て冷静に警部は、告げた。

「どうして吉岡さんは自分の席に戻ったのでしょう?」

 3人の間に沈黙が入る。

 その質問に対して、川村は回答する。

「おそらくですけど、僕の言ったお礼に反応したからですかね? それぐらいしか思い浮かばないなぁ。途中で自分のゼミ生の発表を抜け出す教授なんて付いたら父母会に目をつけられかねないからじゃないですか?」

 高山は手帳に彼の発言を記しながら自らも質問する。

「なるほど。じゃあ原稿についてのアドリブって事ですかね。あのお礼は?」

 川村は首を縦に振って、頷いている。

「ええ、その通りです。事前に教えていませんでしたから驚いていたのかもしれませんね」

 警部は歪んでいない綺麗な笑顔で対面側に座っている、青年に返した。

「素晴らしいサプライズでしたね」

「喜んでくれていたらいいのですが、今じゃ本人に聞く事もできませんから。残念です。あ、すいません。大学行かないといけないんで、そろそろいいですか?」

 徳永は川村に礼を言う。

「そうですね。あ、お茶。ありがとうございました」

 徳永は立ち上がり、高山もゆっくりとお茶を飲み干してから、川村の家を後にする。

「いえいえ」

 川村も笑顔で返し、湯呑をお盆に戻してキッチンへと戻る。

 2人の刑事を見送る事はしなかった。

「どうもお邪魔しました。失礼します」

 玄関のドアがしまったのを確認し、川村はキッチンで立ち尽くしている。

「面倒な事になったな……。どうやら簡単にはいかないようだな」

第9話です。川村と徳永の早い対面でした。次回から加速していけたらいいなぁ。


話は続きます!!

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