発表映像の謎
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
加藤 啓太 (35) 警視庁刑事部鑑識課係長
川村 真人 (22) 西正大学法学部法学科4回生
吉岡 勝 (故人) 同 教授
佐野 優奈 (22) 同 4回生
― 午後8時 警視庁 ―
警視庁では爆破事件捜査会議を終えて、各々の捜査員たちが捜査にあたっていく。そんな中で、徳永は1人だけ映像を見ている。
映像は、TVダイブから押収した物で、事件が発生したゼミナールコンクールの映像である。
1度、捜査会議で映像は流されたが、徳永は、それを巻き戻しては再生、巻き戻しては再生と、交互に映像を操作して見つめていた。
高山も徳永の後ろでそれを見ながら左手で夜食のおにぎりを持ち、口にほおばり、右手に持っている紙コップに入った緑茶を喉へと流す。
「ふむ……」
映像は川村の発表に入り、吉岡いわゆる被害者にとって運命の瞬間となってしまったシーンに入った。
録画された映像と共に、川村の声が音声で再生されている。
『実質この論理を考えたのはあちらの席に座ってらっしゃる吉岡勝教授のご鞭撻がなければ絶対に発表できませんでした』
『私は吉岡先生に感謝をし、ここでお礼とさせて頂きます。ありがとうございます』
この後、映像は川村が一礼をした4秒、5秒後に吉岡のいる席の近くから赤と黄色が混じった火炎が、映像の左側に現れ、灰色の煙が立ち込めながらカメラが震えだしている。
音声は悲鳴だけ。
徳永は丁度、映像を止めて、再び、映像を川村が一礼をする辺りまで巻き戻しを行う。
「うーん。やっぱり不思議なんだよな」
夜食を食べ終え、あくびをしている高山が気だるそうに訊く。
「どうしたんですか? 爆弾は、消火栓にあって爆破したそうじゃないですか?」
「うん。それはそうなんだけど、なんか不思議でおかしいんだよ。爆破した時間はこの時間か」
高山はカメラの爆破のシーンを止めて時間を確認した。
《14:17》
「午後2時17分ですね。でも、それが? テロでも時間は関係なかったりしますよね?」
高山にとって徳永が不思議に感じている事についての返答を返すにも理解できないため、冷たい返し方になる。
それについては徳永も全く気にしていなかった。彼は続けていく。
「爆破された場所はここだね。で、その隣が吉岡先生の席。普通、テロで考えるならあの議員がいる席を狙うはずだ。国に関わっている人を狙えば、組織の株は上がるだろうしね。でも、これは違う。どう考えても、あの席に座っていた彼を狙ったものだと思うよ」
「そうですかねぇ」
彼女は少し納得が行っていないが、話を聞きながら眠気覚ましに紙コップに入れていた残りの緑茶を飲み干した。
「この時間になっても犯行声明はないからね。充分低いと思うよ」
徳永も、カップに入ったコーヒーを1口、自分の喉に流していくブレンドの独特の苦味が徳永の脳に刺激を与える。
カップを置いて、再び警部は、パソコンのマウスに右手を当てていく。
「で、気になった事があってね。これをちょぴっと巻き戻そう」
徳永は思い当たる節があるらしく、巻き戻しをしていき、ある所で停止した。
TVカメラの映像時間は、《14:14》分と表示されている。
「3分前ですね」
「ああ。でも……」
徳永は再生ボタンを押すと、映像は再び動き出し、録画された現実世界が展開されていく。
「被害者が動いてますね」
「ここで自分の席に戻ってるんだよ。時間は、14時16分か」
丁度、被害者が動いた所で、徳永は一時停止をクリックする。
「捜査会議でもおっしゃっていましたね。あの時は物を落として拾いに戻ったんだろう形で話は終わりましたけど」
「でも、あれは違うと思う。うん。絶対に違う」
徳永は、彼女に向けて、映像への話を続けていく。
「君もそう思うだろうだけど、ここで見て欲しいけど、彼の左手を見てくれ」
徳永はパソコンで操作して映像を更に部分的に拡大させていき、吉岡の左手が持っている物を示している。
吉岡の左手に持つのは、茶色の手提げのカバン。
「カバンですかね」
「被害者は、この後、教授会があったらしいんだ。実質、それも中止になってしまったけど、もしかしたら吉岡さん自体何かを告発しようとしたんだろう。しかし……」
「消されてしまったわけですか」
徳永はコーヒーを飲み干して、貯めていた疲れを払い、軽く癒しを体に入れる。
「可能性は高いだろうね」
高山は映像を見るのをやめて徳永に視線を当てる。
「でも誰が爆破したかになりますよね。これ」
彼女から放たれた言葉は、徳永の首をかしげさせる理由になった。
「そうなんだよねぇ。それに、捜査会議でもあったけど、害者は14時14分に席を外して移動しようとしたんだよね。でも、再び、戻ってるんだ」
「それで14時17分に……」
警部はホワイトボードの先を人差し指で示す。
「あそこに写真を貼られる結果になったわけだ。明日、また川村さんのところ伺って話を聞くとしようか」
「そうですね」
高山も頷き、自分の机に置いていたからの紙コップを捨てに向かった。
1人になった徳永はもう1度、映像を操作し始めていく。
「ふむ……」
機械的に流れていく映像を見ながら、徳永は背中に再び溜まる疲労をなんとかほぐしていくが、中年になるとあまり疲労がほぐれない為、気だるさが増してくる。
首を回しながら映像を検証していく。
「うーん。やっぱりおかしいなぁ」
徳永は映像に写る川村を見て、少し、彼に対しても疑問を感じていた。
第8話です。徳永の謎は深まるばかりです。話は続きます。