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徳永の疑問点

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長

加藤 啓太 (35)  警視庁刑事部鑑識課係長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (45)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

― 午後6時 ―



 やっと消火活動が終え、今度は消防から警察へと現場のフィールドが変わった。

 所轄の署員達は、現場を確認していき、捜査を開始している。現場の実況見分や捜査の容量は放火事件と同じで、徳永達は、行動を開始し始めた。

 鑑識の加藤は現場の酷い状態に、辟易している。

「これはひでぇな。焦げ焦げだ」

 高山は、あまりの現状の酷さに、手で口を覆った。

「もしかしたら犯人の手がかりも……」

 徳永は高山の言葉に対して続ける。

「証拠は見つかりづらいだろうね」

 加藤はため息をつきながらも色々のポイントから写真を撮っていく。

「いろんなもんでせっかく大事な証拠が消えちまってる。破片。燃えかす。水。お陰様で時間がかかりそうだぞ」

 徳永と高山はため息をついて、現場の辺りを見渡す。

 現場は、火によって黒く変色してしまい、灰になりそこねた状態。

 コンクールに来ていた聴衆は、余程のパニックだったのか、コンクールパンフレットやゼミの発表資料が床に散乱していた。

「あれ?」

 徳永は、あるポイントに視線を向け、首を傾げた。

 それは、爆破されたポイント。いわゆる施設用消火栓のところだった。

「どうしたんですか? 警部」

 高山はずっと消火栓の方向に見つめる徳永の姿に眉間にしわを寄せた。

 徳永は、1人事の様な感覚で答えた。

「うん? いや、不思議だなって……」

 全く徳永の言った言葉について、理解ができず、戸惑う。

「えっ?」

「いや、テロならばさ。普通こんな所に隠して、あたかも限定的に狙った様な事はしないはずなんだよね。それに……」

「それに?」

 警部は消火栓の付近まで近づいて、指でそのポイントを指す。

 指で示された場所を巡査部長は目を合わせた。

「ここ、見てごらんよ。消火栓の中から爆破されてる」

「確かに」

 近くで調べをしていた加藤が、2人に向けて爆破結果の説明に入る。

「爆弾は、この消火栓から爆破したんで間違いないねぇな。おそらく、中に爆弾を入れて、扉を閉めたんだろう。その分、爆破の威力は弱まったものの、結局、火薬の威力に、軍配が上がったわけだ」

 高山は手帳で加藤の口から出ていく情報をメモでまとめる。

「なるほど」

 加藤は続けた。

「死亡者は、大体、吹っ飛んじまったよ。跡形無くな。他の被害者も爆破の影響で負傷しちまってるし、ここら辺はもう、教室だった片鱗も残してねぇ」

 徳永は苦々しい表情で、周りの現場状況を見ながら、話を聞いている。

 高山は、加藤の話を要点だけを取り、手帳に記載した。

「死亡者がいた位置の周りに破片が散らばって見えるだろう? 爆風が扉を突き破ってきたんだ。ほら、そこの近くに破片が飛び散っているだろ? 大学側は、命を守る為の整備を怠ってたみてぇだな」

 徳永は苦い顔をしながら頷いている。

「そうだな」

 高山は消火の為に、水浸しになった床を見ると、黒い微量な破片がと少し大きめの黒く変色した破片が散らばっていた。

 加藤の説明を聞いた後で徳永は、訊く。

「爆破の威力は、強かったのは、やはり火薬に意味が?」

「ああ、この前起きた八王子とこの採掘工場火薬紛失事件、あの火薬が使われた可能性が高いな」

 徳永は加藤が答えた理由に納得した。

「そうか。扉の爆破には容易の威力だったわけだ。やってくれるね」

「そうだな。盗難火薬を使われたら特定の難しさは、数段跳ね上がるだろうよ。おっと、ちょっとすまねぇ」

 加藤は別の刑事に呼ばれ、刑事のもとへ向かった。

 徳永は、爆破の痕をしっかりと目で追いかけて確認し、現場と化した会場をくまなく光らせた丸眼鏡に隠した瞳で、見つめていく。

「やはり、不思議だな……何だろう?」

 今度は、徳永はステージに上がり、爆破のポイントをしっかりと見渡してみる。

 ステージにある机の側面に、ピンク色の小さな塊がこびりついていた。

「ふむ、鑑識さん、ここも頼むよ」

 徳永は、遠くで調べている鑑識を呼び、机の側面も調べさせる。

 高山はステージの段差で徳永の顔を下から見ながら訊いてみた。

「どうしたんですか?」

 警部は、首を振って、巡査部長の目線を避けていく。

「いいや、なんでもない。知らないほうが良いよ。さて、現場は他の捜査員に任せて、僕達は病院へ向かうとしようか」

 徳永はステージを下りて、現場を出ようとした時、ふと床に落ちたパンフレットに目が入った。

「大きなイベントが悲劇になってしまったか……」

 パンフレットを取り、広告に記載された文章、裏面に書かれた発表予定者のリストを見て、徳永の手が止まり、高山にある事を訊く。

「高山君。爆破された時、ゼミナール発表していた学生さんの名前、分かる?」

「えっとですね。その時発表されていたのは、川村真人さんですね」

「発表の時間ずれたのかい?」

 高山は頷きながら、手帳に書いている情報を徳永の耳に運ばせる。

「ええ、この会場の教室、1度、停電が起きたそうですよ。それの復旧で長引いたそうで発表者の順番もずれたそうです」

「へぇ、そうなんだね。じゃあ、この川村っていう学生に話を聞きに行こう。あのステージから爆破を間近で見た唯一の証人だ」

 徳永はそう呟き、手に取っていたパンフレットを、4つに折りたたみ、服の胸ポケットに入れ、現場から出て行く。

 外の景色は夕暮れから藍色の空へと変わろうとしていた。


 

 


第5話です。徳永が考える犯人像とは一体誰なのでしょうね?


次回に続きます。



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