警部再び!
《登場人物》
徳永 真実 (35) 警視庁刑事部捜査第一課警部
高山 朋美 (30) 同 巡査部長
川村 真人 (22) 西正大学法学部法学科4回生
吉岡 勝 (45) 同 教授
佐野 優奈 (22) 同 4回生
― 午後3時 西正大学 コンクール会場 ―
多くの警察車両と救急車両、消防車両が大学を包んでいるように囲んでいる。近くではメディアの車両も見えた。
学生は悲鳴を上げたり、やじうまと化した人間によるコンクール会場付近でフラッシュを発生させたりと、もはや災害並みに状況は緊迫していた。
川村は、担架で救急車両に運ばれ、病院に向けて搬送されていく。彼を乗せた救急車が大学の正門を出て行くと同時に、1台の4WDが大学へと入った。
4WDは、大学内の職員専用の駐車場で停まり、運転席、助手席からそれぞれ人間が降りてくる。
運転席からは、灰色のスーツを着た中背中肉で坊主に近い短髪の丸眼鏡の男性。助手席からは、薄黒のレディーススーツを着た狐目の少々痩せ型の女性。
「やれやれ、事件かぁ。しんどいなぁ」
高山は、背伸びをしながら徳永に言う。
「しょうがないですよ。警部」
丸眼鏡を拭き、徳永は掛け直す。
「せっかくのチェスの決勝中継見てたのになぁ」
彼女は徳永に呆れながら一言でその場を片付けた。
「我慢する!」
2人はそんなやり取りをしながら、今回現場となった。場所へと歩いていく。既に数十名の所轄警察署員達が、現場で集まっていた。
警察署員の1人が徳永の姿を確認し、挨拶している。
「ご苦労様です。現在は消火中で入れそうにないです」
徳永は近くの壁にもたれて、気だるそうに大学の館内を見渡している。
高山は先に現場に来ていた署員に話を訊く。
「電話でも聞いたんですが、爆破みたいだそうで……」
そう訊かれた署員は警察手帳で、確認しながら答えた。
「ええ。1名死亡。その他20名以上が重軽傷です」
署員の話を聞きながら手帳に記していく。
「死亡者の情報について分かりますか?」
「死亡者は、吉岡勝。45歳。ここの大学教授ですね。今日は、現場で、ゼミナールの発表コンクールだったそうですよ」
署員の話を聞いていた徳永はある事を訊いた。
「爆破については分かる?」
続けて別の署員が答える。
「数名の証言によれば、害者が座っていた付近で光ったと……」
徳永は署員の話を頷きながら聞いていた。
「後、都議会議員が来てたんでしょ? 無事なの?」
署員はその問いに答える。
「ええ、元気にピンピンしていましたよ。でも爆破された場所から議員が座っていた位置は離れていて1番遠いんですよね」
「あ、そうなんだ。なるほどねぇ……ねぇ、高山君」
彼女は徳永の方に顔を向けて、表情を見る。依然として徳永は面倒そうにしていた。
「何ですか? 警部」
「もしかしたら、これ、公安の仕事かもね」
徳永は、高山の顔を1回、見たあとで遠くから聞こえるサイレンの音を耳で聞き取った。
「ええ、そうかもしれないですね」
その言葉については、高山も同感だった。この手の爆破事件は、公安の人間も捜査に関わってくる。爆破された場所が大学ならなおさらだった。
「と言ってたら来たみたいだね。あれ」
徳永は正門付近で入ってくる2台の白いワゴン車を指で指した。
ワゴン車の上にはパトランプが備わってあり、赤いライトが回転して大きな音を上げている。徳永が耳にしたサイレンはそのワゴン車のパトランプだと指した。
「あれは……」
高山は遠目になりながら、ワゴン車を確認する。その隣で、徳永は短い坊主頭を優しくさすった。
「うーん。公安だなぁ」
ワゴン車はそのまま進み現場付近まで近づいて停まる。その車のドアが大きく開くと数名の黒いスーツを着た男性が降りてきた。
徳永はその姿を確認して、やれやれとため息をつく。
その隣で高山が呟いた。
「また、捜査権争いですか?」
「いや、今回はうちの事件だよ。これはテロなんかじゃない。れっきとした殺人事件だ。さぁ、お迎えしなくちゃな」
公安の数名が現場に入ろうと近づいていく。外見の雰囲気で他の警察署員達が戦々恐々としていたが、1人だけ、全くそんな感覚を抱いていなかった。
そう。徳永である。
徳永は、公安の人間に近づき、告げる。
「わざわざご足労をかけましたね。ですが、無駄ですよ。玉木警部」
公安の玉木が徳永の言葉にため息を漏らし、反応した。
「徳永警部。この事件はテロの可能性がある。我々が捜査する」
「申し訳ないが、今回はうちの管轄内です。これは殺人事件ですよ」
高山は、徳永の隣で、公安の玉木、上司の徳永の顔をそれぞれ、交互で見るしかなかった。
「どうしてそれが言える?」
「どうしてって、この事件は1人を狙ったんですよ。わかりませんか?」
徳永の言葉に、玉木は呆れている。
「毎回毎回、君の話には疲れるよ。もっといい話はないかね?」
徳永は、微笑を浮かべながら言葉を返す。
「いい話ならありますよ。この爆破は誰も予測できなかったものなんですよ。犯人以外。実質、脅迫状もなかったそうでしょう?」
玉木は少々黙った後で、腕時計を確認した。彼自身がよくやる癖である。
無駄な話になりそうな時は大抵、判断するまで、腕時計を確認しては答えを探す。
「やれやれ」と言葉をもらし、玉木は徳永に告げた。
「確かになかったな。では、こうしよう。捜査権はそのままそちらに譲ろう。だが、一辺でもテロの可能性が出たら我々に捜査権をもらうぞ。戻ろう」
玉木は踵を返し、そのまま部下を連れて、白いワゴンの方へと足を進めていく。
「どうぞどうぞ。ご自由に……」
徳永は軽くあしらい、踵を返して、現場の入口付近を見つめた。
「警部。公安、どうするつもりなんですかね?」
「分からないね。何しにきたんだろうな?」
徳永は、視点を変えて、現場の入口付近を見つめた。
現場の火の消火は、依然、かかりそうな状態。
「不思議だな。結構な規模の爆破なのに、死亡が1人。それも大学教授か……気になるね」
事件の内容について、警部はずっと首を傾げ、疑問の波に飲まれようとしていた。
第4話です。 徳永警部のお出ましです! 話は続きます。
いつも読んで頂きありがとうございます!
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