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午後2時17分の決断

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長


川村 真人 (22)  西正大学法学部法学科4回生

吉岡 勝  (45)     同      教授

佐野 優奈 (22)     同      4回生

  

  

  ― ゼミナールコンクール 当日  ―



 会場は賑わっており、予定通り、TVカメラがちゃんとステージを写す為に数台、設置されてある。アリバイ作りに絶好な状態。

 川村もそれを確認し、安堵した。



【よし、順調だな。これでアリバイが作りやすくなる】


 

 1度、会場の前で受付をする。発表者の確認をしないと、ゼミナールコンクールに参加する事ができないからだ。

「西正大学法学部法学科吉岡ゼミ4回生、川村真人です」

 受付のスタッフが名前が載ったリストを確認し、発表者の欄で川村の名前に線を引いた。

「はい。では、今回のコンクールの持ち込み物をこのプラスチックケースに入れてください」

 川村の最初の難関はこの受付だった。

 仕掛けておいたボールペン型リモコンを受付スタッフに見せなければいけないという事、会場で犯行を起こす為に必要なものである。

 なるだけ、精巧に,ボールペンそのものに似せて作ったので、一般の人間にも分からない様に作っているから、それなりの自信はあったが、不安も少しあった。

 覚悟を決め、ゆっくりと川村は持ち込み提出用のケースに物をゆっくりとおいていく。

 だが、この受付スタッフは軽くしか持ち物を確認しなかった。

「ボールペン、発表原稿に、腕時計、OKですよ。PCは使いますか?」

 首を横に振り、彼は否定した。

「いや、使わないですね」

「わかりました。では、いい発表を……」

 と受付スタッフは軽く笑顔で対応し、持ち込み検査を終了し、提出された物を川村は持つ。

「どうも」

 軽くスタッフに挨拶をして、会場の中へと入る。

 第1難関クリア。次は第2難関へ。

「ふぅ」

 川村は自分の席へと座り、まずは吉岡がいるかの確認。自身の席からは少し遠く離れている。よく見ると吉岡は既に特等席に座って、コンクールの資料とレジュメを見ている。

 消火栓の異変なんて気付いていない。



【よし。気づいてないな。見ていろよ吉岡! お前の墓場は、その特等席だ。】



 原稿を確認し、発表するまでの間、川村は自分の気持ちの準備をしていた。

 犯行が上手くいけばと切に願っていた。しかし、殺害計画は必ずしもうまくいくわけではない。案の定、アクシデントは起きたのである。

 思わぬところで会場の照明が停電を起こし、ゼミ発表途中でスクリーンが使用できなくなってしまい、ゼミナールコンクールが一旦中断になってしまった。川村はその状況に焦りとスタッフの一員としての心配が混同し、戸惑う。



【このままでは、計画自体がずれてしまう。なんとしてでも復旧させねば……】


 川村は、コンクールスタッフの1人として復旧作業にあたり、なんとか照明の停電から復旧させる事ができたが、やっと自分がステージに登壇した時には2時を過ぎており、時間は2時5分になろうとしていた。

 自分の発表が始まる。

「西正大学法学部法学科吉岡ゼミ4回生、川村真人です。発表を始めさせていただきます。まず、資料をご覧ください」

 ステージに置かれた机に、ペン型リモコンと原稿を置いた。




【最悪だ。予定より大幅遅れている。2時に爆破する予定が既に5分過ぎている。どうする? とにかく2時15分に爆破しよう。そうすればなんとかできるな……】



 川村は時間を変更し、その間までに自分の発表をする。マイクに向けて自身の声を発していく。

「では、まず、現代日本での裁判制度は、変更の時期を迎えようとしております」

 それから、発表を続け、時間は2時14分になった途端、衝撃が走った。次のアクシデントが起きる。

 吉岡がゆっくりと人目に目立たれない様に立ち上がり、出口へ向かおうと移動の準備を始めたのだ。特等席から外れようとする吉岡の姿を見て、発表しながらも川村は内心、焦燥と不安が生じ始める。



【このままだと、爆弾から距離が外れて、殺す事もできなくなってしまう】

 


 川村は奥の手に出た。決断するしかなかった。

 自分の口が咄嗟に動く。

「実は、今回この発表には多大な協力を得た事でこの発表ができたわけです。実質この論理を考えたのはあちらの席に座ってらっしゃる吉岡勝教授のご指導がなければ絶対に発表できませんでした」

 マイクから発された自分の名前を呼ぶ声に対して、吉岡は突発的に発動した笑顔で、素早く自分の席に座る。

 もう、自ら身動きを取れない状態になる。絶好のチャンスと言えるが、時間は15分を過ぎ、腕時計の長針が1つ下に動いた。

 もはや川村の予定は無かった状態にも等しい。しかし、なんとか出来たチャンスを無駄にする事はできなかった。もう1度しかない。

 川村は時間が2時17分に来た時、決断したのだ。



【殺ろう】



 アドリブでなんとか自分の良い状態に保たせる事ができた川村はスピーチをしながら右手で、ボールペン型リモコンを手に取る。

「私は吉岡先生に感謝をし、ここでお礼とさせて頂きます。ありがとうございます」

 吉岡の表情は微妙な空気で満ちていた。川村が座っていた席の隣で、佐野は笑顔でステージで雄弁を振舞う川村を見ていた。

 彼はスピーチを止めて、コンクールに参加している聴衆に対して、深く一礼をしながら右手に持ったノック式ボールペンリモコンを親指で力強く押す。




 午後2時17分43秒の出来事。

 


 力強く押されたボールペンから静かな、スイッチ音が鳴る。

 その瞬間、吉岡の隣にある消火栓が大きな光を放ち、会場にいる聴衆が大きな悲鳴を発生させる炸裂音が会場を包んだ。


第3話。 川村は吉岡を殺害する為にとうとう動き出す!


話は続きます。

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